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筋肉姫と魔法使い(仮)  作者: 美海秋


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30/122

30、姉妹の絆

 時間がたっても有効打はない。

 魔力で動いている魔物に対して、体力でなんとか張り合っているチカとでは差はでてくる。

 少しずつチカが押され始める。


「く……」

「ギギギ」


 まるで楽しんでいるかのように、ドールは攻撃を徐々に強めていく。

 このままいけばジリ貧だということを感じたチカは、なんとかして自分の中に語りかける。


 ねえあたし……どうやって、魔力を纏うことができたの?

 だけど聞いたところで、自分に魔力が沸いてくるなんてことはない。

 どうやってやったのか、チカもわかっていないからだ。

 でも、やるしかない。


 ドールが攻撃のスピードを上げているのに対して、チカだって、同じように攻撃の癖をわかり始めていたからだ。

 例えば、一、突き刺し、二、斬り上げ、三、斬り下ろしという風に、同じ動きを繰り返すことが多い。

 そして、魔力によって肉体を作り変えることでそのスピードは上げていくことで、同じことであっても対処ができなくなっていくというのを繰り返していく。


 本当に性格の悪い魔物……ですが、同じ動きだからカウンターができます。

 チカは動きを合わせてカウンターを顔に当てる。


「くううう……」


 だが、魔力を(ともな)っていない攻撃というのは、魔力をもっているものに対しては逆に傷を負いかねない。

 勢いが強いからこそ、攻撃を当てたチカのほうの拳から血が出るが、一応ドールにはダメージが入ったみたいで、殴った頬を触っている。


「本当に、人みたいな動きですね」


 見れば見るほど、その動きは人のようだ。

 数回頬を撫でた後、ドールは口を広げた。


「キャアアアアアアア!」

「!」


 大きすぎる声に、チカは両耳を抑える。

 それほどまでにうるさい声だった。

 叫び終わった後、ドールはチカを見る。

 表情はないはずなのに、怒りに満ちているようにチカには見えた。


「まずいな……」


 実際にドールを知っているクロは今の咆哮のようなものを聞いて少しまずいと考えた。

 知っているクロからすれば、あれは怒り状態のようなものだった。

 あれになってしまえば、いたぶって殺すというフェーズから、確実に殺すというフェーズに代わるのだ。


 チカがドールへと向かっていったことから、クロには何か考えがあるのか?と思っていたが、違ったようで、やはりクロが思っていた通り彼女ではドールを倒すのは厳しいだろう。


「どうだ?わかったか?今のチカには無理だ。わかったら、お前のお姉様とやらが戦っているのをただ見てるだけでいいのか?」


 クロは再度(あお)るように声をかけるが、スイは動く気配はない。

(なんだ、あの黒髪と違って、こっちは期待外れか?チカが死なれると、我たちが困るからな……しょうがない)

 クロはそんな風にして考えてから手を前に出す。

(手伝いたくはなかったが、仕方ない)

 魔法を発動するべく魔力を高めようとしたとき、横で魔力の躍動(やくどう)を感じたのは……


 普通とは一線を画す魔力の量がスイから溢れる。

 詠唱を使った魔法と、詠唱を使わない魔法。

 イメージをしっかりと具現化させる分、余分な魔力を使わない詠唱をしない魔法のほうが効率はいい。


 だけど、もし詠唱した魔法と、魔法のイメージが完全に一致していた場合はどうなるのか?

 それを今から行う。

 スイは右手を腰にもっていき、まるで武器で居合をするような構えをとる。

 そして……


「水魔法”ウォーターブレイド”」


 詠唱とともに、右手を切り払う。

 普通であれば何かが凄まじい水の音がしたくらいにしか思えないだろうが、それは他二人には見えていた。

 凄まじい勢いの水がまるで鎌のように研ぎ澄まされて、ドールの胴体を真っ二つに切り裂いたのだ。

 わけがわからないまま切り裂かれたドールは、胸のあたりに存在した魔物のコアごと破壊されたようで崩れていく。


「はは、はははは!いいじゃないか!おいおい、これはいい!なんだ、今の魔法は!」

「お姉様に考えてもらったスイだけの魔法です」

「なるほどな、それで我らも予測できないことなのか!」


 何が楽しいのか、クロは笑っている。

 だが、仕方なかった。

 クロは確かに迷宮で、多くの存在に試練を課してきた。

 そして、それは全てが予想通りでありありきたりなものだった。

 だけど今はどうだ?迷宮というものに閉じこまらないといけなくなって唯一の予想通りではない出来事だからだ。


「スイ、ありがとう」

「いえ、お姉様が時間を稼いでくれたおかげですので」


 戻ってきていたチカとスイはお互いに声を掛け合う。

 そう、先ほどの魔法を使うのには、スイにはまだ時間がかかる。

 どれだけ魔力が高くても、イメージと詠唱が重なり合わせるというのが難しいからだ。


 だけど、チカがスイを救ったその後、スイはチカの特訓というものを見たことがあった。

 体を鍛えるという点で、チカは誰にも負けないものがあった。

 そもそも、魔力があればしなくてもいいことではあったが、何かに打ち込む姿というのは格好良かった。


「どうしてお姉様は、それだけ体を鍛えているのです?」

「うーん、どうしてと言われると難しいけど。自分がやりたいことをするために必要なことだからじゃないかな?」

「なるほどです。では、その何かを教えてもらってもいいです?」

「そうですね……あ、だね。えっと、お姉ちゃんとして前みたいにスイたちを守れたらいいかなって」

「では、スイはお姉様を守れるように魔法を極めます。でも、どんな魔法がいいです?」

「そうだね。あたしがなんでも砕けるようにするから、スイにはなんでも切れるような魔法があるといいかな」

「わかりましたです」


 このときのチカはなんとなく思ったことを口にしただけではあったが、スイはずっとそのときから魔法を極めることにした。

 魔法というのは詠唱することで、なんとなくイメージしている魔法を使えることがスイにはわかった。

 その中でも、ウォーターブレイドというものが水の剣というものを作りだせるものだった。

 でも、通常は手元に水の剣を作りだすだけのものだった。


 そのときから、スイはイメージを変えた。

 ウォーターブレイドは、どこからでも水の剣で斬れるものだと……

 それを何度も何度も魔法を繰り返していき、ようやく完成したのが、このウォーターブレイドだった。

 ようやくそれを今見せることができ、さらにはチカを助けることができたのだ。

 嬉しくないはずがなかった。


「スイはお姉様の役に立ちましたです?」

「いつでも役に立ってるから」


 優しくそう言葉にして、チカはスイの頭を撫でると、スイは勢いよく抱き着くのだった。

 そんな二人を面白そうだと、クロは眺めるのだった。

読んでいただきありがとうございます。

よければ次もよろしくお願いします。

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