29、試練
周りを見渡したチカは、ここにいるのが自分とスイだけだということに気付く。
「どうして、あたしたちだけをここに連れてきたのですか?」
「ふ、最初に聞きたいことがそれか?」
「はい。聞きたいことは聞けるうちに聞けと教わりましたから」
「へえ、なかなかいいじゃないか、そういう考えをもつというのはな。だが、その質問に関していえば答えてやらないな」
楽しそうに答えるのは、黒い仮面に黒い髪をした男性に見える存在で、チカはその見た目からカイたちが出会った大魔法使い本人なのだろうと理解する。
だけど、いろいろと答えてくれることについては、この大魔法使いの気分ということなのだろう。
「では、どんな内容であれば答えてもらえるのですか?」
「そうだなあ、まずは教えることは一つ目。お前だ!」
「ス、スイですか?」
大魔法使いが指さしたのは、スイだった。
何が言いたいのだろうか?
チカはさらに警戒を強めるが、大魔法使いはそれを見て、さらに笑う。
「ぶわははは……お前なあ……だから、そんなに警戒しなくてもいいからな。そうだ、この前見た黒髪のガキがいただろ?」
「カイのことですか?」
「あー?名前は知らん。そもそも、覚えるなら、お前だけでいいしな。そんなことより、あいつと同じで使えるだろうな、本当の魔法を」
「本当の魔法?」
「お、気になるだろ?本当の魔法はな、イメージだ。イメージを固めて、魔力でそれを作り出す。それだけだ」
適当すぎるアドバイスに、チカもスイも唖然とするが、逆に大魔法使いは二人をバカにしたようにさらに口にする。
「わからないのか?お前たちがやっている魔法っていうのは、魔法を使うんじゃない。詠唱使いだ。これの違いがわからない限りは、魔法を使うのは無理ってことだ。ちなみに、黒髪のガキはこの大魔法使い様のおかげで一回は魔法を使うことができたからな。お前にも同じことができるはずだ。できないのなら、今後は名前はなんていうんだ?」
たぶん自分が呼ばれているのだろう、チカはそう思ったが、聞き方にイラっとしたため、逆に聞き返す。
「名前を聞くのであれば、自分からとあたしは教わりました」
「ほお、いいだろう。確かにこの大魔法使い様のやってほしいことをやるんだからな。名前くらいは知るべきだな。大魔法使い様の名前はクロだ。どうだ?覚えたか?」
「ええ、ものすごく名前の通りだなって思いますよ、見た目とか……」
黒い髪に黒い仮面をつけていれば、なんとなく予想できるような名前ではあったが、ありきたりすぎて少し拍子抜けはしてしまった。
だけど、これでチカも名乗らないといけないことにはなってしまったため、少し嫌がりながらも教える。
「あたしは、チカです」
「チカか!なるほど、いい名前だな」
「本当に思っていますか?」
「当たり前だ。この大魔法使い様を消してくれるいい名前だ」
最初のときと同じことをクロは言う。
だけど、もう一度話してみてチカは思うのだった。
「クロさんは、どうして殺してほしいのですか?」
「ふ、わからないか?大魔法使い様といえ、我は長生きしすぎたのだ。これ以上こうやっているわけにはいかない。それにだ……」
「なんですか?」
「いや、これは次の機会に教えるとするか」
何を考えているのか、クロは言いかけていた言葉を途中で飲み込む。
その言葉はチカにはわからないが、それでも重要な気がしていたが、そんなときに違和感というものを感じる。
「ちっ、面倒なやつが起きやがった」
クロが実に面倒くさそうに口にする。
チカたちはすぐにその面倒くさい何かというものがわかった。
草原の先に魔物が一体いたからだ。
遠くから見ても、人の形をしたそれをチカたちは見たことがない。
「あれは何ですか?」
「なんだ?あれは見たことがないのか?」
「はい」
「ふ、そうか……あれはドールだ」
「ドール……」
名前すらも聞いたことがないそれは、確かに人ではない何かだということだけはわかる。
そして、チカたちにはそのドールが強敵だということも……
ゴクリと生唾を呑み込む。
あんなものを本当に倒せるというのですか?
思わずチカはそう考えてしまうほどには、ドールというものから感じる嫌な感じというものはヒシヒシとする。
「お、いい相手だな。おい、お前……」
「スイですか?」
「そうだ。お前、あれを倒してみろ」
「な、何を言って!」
スイが言われたことではあったが、すぐに憤りを感じたのはチカだった。
何を言ってるんだと思った。
スイは、チカより二歳下の十三歳だ。
確かに魔法の才能はあるのかもしれないが、それでも魔物と戦うなどということはチカと同じでやったことがないはずだ。
「どうだ、やるか?やらないと、あれは街へ向かっていくぞ?」
だというのに、クロは試すように言葉にする。
「や、やり……」
「あたしがやります」
「お、お姉様……」
「ほお、なら頑張ってもらうか」
ニヤリと笑うと、クロは何もするつもりがないのかドールを見据えたままでいる。
ふうと、チカは息を吐くと、状況もまだ呑み込めていないスイの頭をゆっくりと撫でる。
「大丈夫。お姉様に任せて」
チカはドールへと向かっていく。
近づいていくことでドールもチカのことを敵と認識したようで、戦闘を開始するかのように腕を剣のような形に変えた。
ここにいるドールという魔物を知っているのは、クロだけだ。
ドールという魔物は、普通の魔物ではない。
「はあああ!」
最初に仕掛けたのはチカだ。
だけど、それに合わせるようにしてドールも動きだす。
まるでちゃんと人の動きを見ているようなもので、チカは驚きながらも、右手の拳を振りぬく。
それに対してドールは、拳を受け止めるや受け流すこともなく、なんなく避ける。
それでも、チカも嫌な予感から、一撃目で当てられることはあり得ないと考えていたからこそ、続けて攻撃をする。
次に左手、からの右の回し蹴り、そうしてラッシュを続けていくが、どの攻撃も避けられてしまう。
「く……」
今のままではダメだ。
そう考えて、チカは攻撃をやめて距離を取ろうとするが、それを待っていたかのようにドールは距離を詰めてくる。
チカの攻撃した速度よりも速いスピードで、ドールは攻撃を繰り出してくる。
普通であれば、自分の攻撃よりも速いスピードで攻撃をされれば、見たこともなく避けることも何もできなくて防御するしかなくなるだろう。
だが、チカは嫌な予感というものを感じていたからこそ、最初の攻撃については手加減をしていたため、ドールの攻撃を避けることは可能だった。
予想通り、この魔物は性格が悪いですね。
嫌な予感というものは、こういうところからきているというのがわかったチカは思わずそう思うが、敵のことがわかったからこそ、思うのだった。
まずいと……
だけどスイをこんな凶悪な魔物と戦わせるわけにはいかないと、チカは拳を力強く握るのだった。
そんなチカのことを二人は見ている。
「ほお、やるな」
「お、お姉様は大丈夫なのです?」
「どうだろうな?あれは厄介だからな、ああして魔法じゃないもので倒そうとするとな」
クロだけはドールの倒し方をわかっている。
だからこそ、そう言葉にする。
そう、ドールという魔物は、主に近接戦闘を得意とする魔物だ。
相手のことを魔力を使って肉体をいじることによって、同じよりも速い動きで圧倒してしまうという存在だ。
チカのように最初からその動きに制限をかけるようにして動いていなければ、全てを上回って倒してしまう。
だから、ドールを倒すために必要なのは大規模な魔法だ。
全てを巻き込むような、大規模魔法を放つことで有無を言わさず倒すことが可能になるからだ。
だけどクロはそれをスイに伝えようとはしない。
楽しそうに、戦うチカを見るのだった。
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