27、休息
自由に歩きまわるアイを見て、カイは感慨深げだった。
チカからは、そんなカイの姿も見えていたが、何も言わなかった。
要するに、恥ずかしいだろうと見なかっただけだった。
「どうですか?」
「はい。すごく楽しいです」
最初はアイの体調を見ながらと考えていた他の二人だったが、全く問題がないこととかなり楽しんでいるアイを見て、安心している。
ご飯の後にデザートを食べた三人は、のんびりとお茶を飲みながら、休憩していた。
「すごく楽しいです」
「それなら、よかったですね」
「本当にな」
いろいろあったせいなのか、気づけばため口になったカイの口調を聞いて、アイはニコニコと笑う。
「なんだよ、姉さん」
「ううん。お姉ちゃんの前以外でも、普通でいれるんだって思って」
「は?僕はいつだって、こんな感じだからな」
すぐに照れながらそう言葉にするカイを二人は微笑ましく見てしまう。
普通であれば、女性二人と男一人という構図は、舐められたり、変な人に絡まれる可能性も高いのだが、三人は別に絡まれることはなかった。
それは、二人が黒髪という珍しさではなく、チカという白い髪の存在が大きかった。
チカがキンゲン家を出ていった後に、あの妹の一人がこの金の街で白い髪の女性というのは呪われた存在だと広めたのが原因だった。
それでもチカはキキルとすぐに実績をあげたこともあって、強さというものが証明されていたからだ。
だが、有名になればなるほど、キンゲン家当主である父は、心配が大きくなったのはいうまでもなく、それが少し前のチカへの怖いぐらいの心配に繋がったのだ。
とはいえ、当の本人であるチカは気にすることもなく、今後も冒険者をやっていくつもりだった。
ただ、そのためにはしっかりとした仲間を今後引き入れる必要があるということをカイたちを見て思ったばかりであった。
だから思わず聞いてしまう。
「カイ君たちは、明日の集まりが終わればどうするつもりですか?」
「特に考えてないな。姉さんはどうなんだよ」
「お姉ちゃんは、そうですね。急にいろいろなことが起きて、正直わかりません」
「そうですよね」
当たり前かもしれないけれど、急に知らない場所に飛ばされたのだから、わからないと答えるのが普通だ。
「だけど、なんとなく肩の荷はおりたな」
「そうだね」
だが、答えが出なくても二人は清々しかった。
これまでにあったしがらみから解放されたということが嬉しかったということだろう。
だから今度はカイが聞く。
「なあ、チカさん」
「なんですか?」
「チカさんは、すごい人なのか?」
「ものすごく漠然とした質問ですね」
「仕方ないだろ……」
カイがこの質問をしたのは、理由があった。
これまでカイが生きてこられたのは、よくないこととはわかっていながらも、金払いがよかったヘリクツのおかげだったからだ。
あの男の下で仕事をすることによって、カイたちは生活することができたのだからだ。
そう、カイが言いたいことは……
「仕事を僕たちに何か……」
「斡旋してほしいということですか?」
「ああ」
「それくらいのことでしたら、大丈夫です」
チカはカイのお願いもあっさりと大丈夫だと言い切る。
実際に、キンゲン家から追放されてしまってはいるが、チカはランク九になったわけだ。
そんなチカにはいくつかの特権というものが存在しているからこそ、それくらいのことはどうとでもなる。
ギルドマスターにでも少し、話しをしてみないといけませんね。
すぐにチカはそう考える。
「どちらにしても、今は休息をとって、明日に備えないといけませんよ」
とはいっても、全ては明日次第だとチカは言い切るのだった。
そして、三人は一日をゆっくりと過ごすのだった。
※
自宅に帰ってきた、キンゲン家当主である、カイズは少し頭を抱えていた。
昔からお転婆だとは思っていた娘ではあったが、話を聞いている限りではお転婆を通りこしていて、心配しかなかった。
「まあ、昔から我慢強い子ではあったからな……」
思わずそう言葉にしたとき、部屋がノックされる。
ノックの仕方から誰が来たのかがわかっていたため、入室を促す。
入ってきた少女はすぐに目的の内容を口にする。
「お父様、お姉様はどうだったのですか?」
「どうしてだ?」
「お姉様が帰ってきたと噂を聞きました」
「そうか……」
昔から優秀だと思ってはいたが、一番下の娘であるスイは、本当に目ざといというべきか……
ここで何かを言わなければ自分でチカに会いに行くと考えたカイズは仕方なく見てきたことを口にする。
「ああ、スイか、元気だったぞ」
「本当ですか?」
「嘘を言っても仕方ない」
「そうなのかもしれませんが、お姉様が出ていく日を隠していたお父様なのですから疑いもします」
「く、そうだな……」
未だにスイは、父であるカイズがチカを追放した日を隠していたことが気に食わないらしい。
あのことについては、チカ自身も関わっているのだが、そんなことを言ってしまえば、余計にどうして伝えなかったのかと怒られることになっていただろう。
「どっちにしろ、スイ。お前には、やってもらうことがある」
「なんでしょうか?」
「ここを統治するために必要なことだ」
だが、今はその話しよりも重要なことがあると、しっかりと向き合う。
「なんでしょうか?」
「明日、迷宮の調査にかわりに行かないかというものだ」
「スイがですか?」
「ああ、当主として別にやることができてな」
カイズはそう言葉にする。
実際には自分で行くつもりであったが、あのお転婆に少し戸惑わせてみようという親心があったからだ。
それに、次の当主として、迷宮のことを知っておくことは重要だと考えていたからだ。
そうして、必要なことを聞かせたスイを部屋から出すと着々とカイズは次の準備を進めるのだった。
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