26、報告
あれから時間が過ぎ、一日後の朝、ようやくというべきか、チカ以外の面々が目を覚ました。
最初に驚いたのは、アイだった。
「あれ?体の調子がいい気がするような……」
アイはすぐに自分の体調の変化に気付いた。
これまでは重かったはずの体が軽いと感じたからだ。
そして、それは気のせいでもなんでもなく、寝ていたベッドから起き上がると歩くことが普通に可能だった。
いつもであれば、こんなことをすればすぐに息切れを起こすのにだ……
「なんで、どうして?」
だけどアイからすれば、考えられることというのは一つだった。
チカという同年代の女性が来たおかげなのではないかということだ。
何かをしてくれたのではという思いはあったものの、今更ながらに見たことがない部屋ということもあって驚いていたときだった。
部屋の扉が開く。
「姉さん!」
「カイ!」
扉にいたのは見知った……そう、弟だった。
アイは安心しながら、元気そうなカイを見る。
そして次に入ってこようとしたのは、女性だ。
こちらも、アイは見たことがあった。
「チカさん」
「アイさん。よかったです。目が覚めたのですね」
「はい。ちなみにここは?」
見たことがない場所だということもあって、アイはそう言葉にする。
「そうですよね。気になりますよね。ここは、ギルドマスターから借りている借家です」
「えっと……?」
「そうですよね、混乱しますよね。全て説明します、カイ君も」
「うん」
そうして、三人は部屋を後にすると、ギルドマスターが待つリビングへと入るのだった。
それぞれに思い思いの席についた後、ギルドマスターがまずはと話しをする。
それは主にここまでのことだった。
ここ、金の街にある迷宮で倒れていたカイたちを回収し、ここまで運んできてくれたということだ。
実際にチカも、それくらいのことしかわからない。
「僕は、迷宮にいたのでしょうか?」
「どういうことだ?」
「元々、僕たちがいたのは雇い主だった、ヘリクツという男の屋敷の地下牢でした。その後、チカさんが助けに来てくれて、でも刺されて……なんとかそれを救おうとしたときに、視界に草原が広がったんです。最初は見間違いだと思いましたけど……」
あり得ないものを見たと考えていたため、言葉はどこか自信がないものになっている。
だけど、チカとギルドマスターはそこを知っていたため、特に何か驚くわけではなく、続きを待つ。
「えっと、その後出会ったんです。黒い仮面をつけた人に……」
「黒い仮面をつけた人ですか?」
「そうですけど」
「ギルドマスターは知っていますか?」
「いや、知らないな。どういうことだ?」
カイがそこで出会った人というのは、チカたちが会ったことがない人ということなのだろうか?
そう考えていたが、カイが次に言ったことでそれは知っている人だとわかった。
「そういえば、その人は大魔法使いだと言っていました」
「ほ、本当か!」
「は、はい……」
ギルドマスターが驚いて腰を上げるのも無理はなかった。
かなり重要な人物だということをわかっていたからだ。
「その人に何かをあったのか?」
「魔法を教わりましたけど……」
「魔法だと!」
「はい。本当の魔法だと、大魔法使いが言っていました」
「どういうものなんだ、それは!」
「説明が難しいことではありますけど……」
「そ、そうか……そもそも、魔法を使うやつじゃないと意味がないよな」
「そうですね」
「だが、もしわかることなら、後で他のものも交えて話を聞かせてくれるか?」
「はい」
聞いておいてなんだが、ギルドマスターは魔法を扱うのではなく武技を扱って戦っているので、聞いたところでわからないという判断なのだろう。
とはいえ、話を聞く必要もあることはわかっているのだろうが、今は違う問題があった。
「やはり、考えられるのは迷宮主に連れてこられたということだろうな」
「どういうことですか?」
「チカは知っていると思うが、この短剣は迷宮主が出す課題を見事クリアすることでもらえるだろう?」
「はい。その後に、先ほどの空間である草原に気付いたらいました」
「そうだ。そうなるとだ。この短剣には強制的に草原へと連れていくという能力があるのかもしれないな」
ギルドマスターが語る内容というのは、チカたちに起こった結果から導き出される可能性だった。
「そうですか。そらなら、あたしが短剣を持っていたことで全員が助かったってことですね」
「ま、そういうことだな。無事でよかったぞ、おい」
再度ギルドマスターにそう労いの言葉をもらったタイミングで、そこでチカは一つ聞きたいことがあった。
「ギルドマスター」
「なんだ?」
「聞いていいですか?」
「なんでも聞け」
「では、黒髪であれば、無限の魔法が扱えると聞いたのですが、それは本当ですか?」
「ああ、本当だな」
あのとき、男。
ヘリクツが言っていた言葉だった。
黒髪というのは無限の魔法が扱えると、そして……
「あたしのような、白い髪は、魔力が全くないと聞いたのですが」
「それも、本当だな」
「そうですよね」
予想通りの答えが返ってきたことにどう反応していいか微妙な表情を作っていたからだろう、ギルドマスターは怪訝な表情をして聞く。
「何か気になるのか?」
だけど、チカはそれにはうまく答えられない。
これまで、チカは魔力を感じたことがなかった。
だからこそ、あのとき魔力を自分の体に感じた気がしたと言葉にしても、何を言っているんだとなりそうだったからだ。
言い淀んでいると、先に言葉にしたのはカイだった。
「チカさんには、あのとき魔力があった気がします」
「なに!本当なのか?」
ギルドマスターは、明らかに動揺したように言葉を荒げる。
「は、はい……ですよね、チカさん」
「そうですね」
その様に驚きながらも同意を求めたカイの言葉に、頷きながらチカはそう言葉にする。
だが、相当に動揺しているのか、落ち着いた感じはなくギルドマスターは頭をガシガシとかく。
(意味がわからねえな。聞いたこともない。魔力があるだと?いいことではあるはずだが、どうしてだ?何故か嫌な予感がしやがるが、わからねえ以上は仕方ねえか……)
ギルドマスターは一通り考えたうえで結論を出す。
「どっちにしろ、迷宮にはもう一度行く必要がある。明日に行くが、いいか?」
「はい。あたしは大丈夫ですが……」
「よし、だったらそこの二人も一緒にだ」
アイとカイを見てギルドマスターはそう言葉にする。
二人は、戸惑いながらも頷くと、ギルドマスターは立ち上がった。
「よし、じゃあ今日はもう解散だ、解散。少しはこの町のことをチカに紹介してもらうといい。じゃあな」
素早くギルドマスターは部屋から去っていく。
あの人もやることがあるのだろうと、チカは考えながらも二人に言葉をかける。
「まずは、少し出かけますか?」
「いいのか?」
何故か遠慮気味にカイはそう言葉にする。
何かを気にしているのだろうということはチカには容易に想像できたが、すぐにアイの隣に動く。
「ではアイさん。ここは二人で行きませんか?」
「はい、喜んで」
すぐに楽しそうにアイは立ち上がると、チカに続く。
そうして二人が動きだしたのを見て、カイは慌てたように追いかける。
「ぼ、僕も行くよ!」
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