25、冒険者の姿
一番最初に目を覚ましたのかチカだった。
すぐに倒れているカイとアイの息づかいなどを調べて大丈夫だと確認する。
その後には、自分の体にあったはずの怪我も見たが、そこに怪我はない。
「怪我は治っていますね。それに、ここは……」
なんとなく見たことがある場所だった。
それもそのはずで、ここはチカが最初に行った迷宮だったからだ。
どういう原理なのかはわからないが、チカたちはここに飛ばされたということなのだろう。
そんなときにふと短剣を思い出す。
ここでもらったものであったそれは、なんとなく熱を帯びているような気がした。
「助かったことには違いはありませんよね。ありがとうございました」
チカはそう言葉にすると、頭を下げる。
とはいえ、何か言葉が返ってくるわけではない。
先ほどの仮面の男がいれば、何を言ってるのか?感謝するのであれば、もっとしっかりと感謝しろ大魔法使い様なんだからな、などと言っていたはずだが、それもない。
チカは少し考えた後に、カイたちが起きるまでに自分の体を見直す。
「変化はないですよね」
あの時、自分の体に何が起こったのかはわからないけれど、いつもと違うことがあったのはわかる。
あのときは魔力のようなものを感じました。
そうならば……
チカは手を前に構える。
「水魔法"ウォーター"」
シーンと音がなったくらいには、何も起きなかった。
「魔法が使えるようになったわけじゃないんだ……」
残念ながら魔力を感じたからとはいえ、魔法が扱えることではなかった。
それに、今は魔力を感じることはない。
「あれがなんだったのか、わかりませんよね」
なんでいつもとは違う力がチカに宿ったのか、チカ自身わからない。
だけれど、あれが普通じゃないことはわかっていた。
「魔力が二しかないのであれば、あんなことはできませんよね。それでも、ふん!は!てい!」
体を動かしてみるが、何も起こることはない。
一人でやっているからなんとなく大丈夫ではあったが、誰かに見られていれば恥ずかしすぎて発狂していたに違いない行動だった。
そんなときだった。
足音が聞こえてきた。
迷宮にいるアイとカイではないというのがすぐにわかる。
それも、足音は三つある。
誰だろうかと考えながらも警戒をしていたときだった。
やってきた人物たちを見て驚く。
「ギルドマスター、サネさん、キンゲン様……」
「チカか」「チカさん?」「!」
順番にギルドマスター、サネさん、そして父親の反応だった。
どうしてここに来たのだろうかと、疑問に思っているとギルドマスターが答えてくれる。
「どうしてここに来たのか、疑問に思うか?」
「はい」
「言っただろ?迷宮を管理しているのはギルドと、ここにいる町の貴族だ。であれば、その迷宮に異変が起こるとなれば駆けつけるのが普通だとは思わないか?」
「確かに思いますが……」
「まあ、何かがあったのかは確かだな」
ギルドマスターはチカの近くにいる男女を見てそう言葉にする。
何かがあったのは確実だろうと考えたのだ。
だけど、それについて、チカには心あたりがなかった。
「すみません。あたしには、よくわかっていないのです。どうしてここに戻ってきたのか」
「何?そうなのか?それにしては、この短剣にあったのだがな、反応が」
そう言葉にすると、短剣を見せてくる。
「確認します」
チカは見せてもらうと、確かにチカが持っていた短剣と同じようにどこか熱を帯びている気がした。
「少し前に、短剣が黒く光りだしたんだが、わかるか?」
「すみません、少し前に剣で体を貫かれてしまって、記憶が曖昧なのです」
「え?チカちゃん!大丈夫なのかい?そんなことになるなら……」
「キンゲンさん?」
「す、すまない」
キンゲンが取り乱したのを、ギルドマスターが抑える。
とはいえ、これは仕方なかった。
チカがキンゲン家の娘だということは、ギルドマスターとサネさんのどちらも知っていたことだったからだ。
だけど、今回に限っていえば、状況を先に把握しないといけないと思っていたからこそ、心配の言葉というのは余計なこととなっている。
それをわかっていたチカは、自分のおかれた状況を説明する。
「あたしたちは、確かに戦っていました」
「何とだ?」
「そこに寝ている二人を救うためにです」
「はあ……なるほどな……なんとなく状況は理解したが、チカよ。なかなか面倒なことをしたな」
「すみません」
「いや、いい。どうせなら壊滅させておけと、言っただろうしな」
謝るチカに、ギルドマスターはニヤリと笑うとそう言葉にする。
「ギルドマスター。いらないことを言わないでくださいと、今度はあなたに言えばいいのでしょうか?」
「おいおい、そういう言い方はよくないぞ」
軽口をたたきあう二人を見て、ほんの数日とはいえ帰ってきたと思っていたタイミングだった。
待ってましたといわんばかりに、キンゲン……父が近づく。
「チカちゃん。大丈夫なのかい?」
「はい」
「そうか……ならいいのだが……」
「そちらこそ、口調は気を付けてください」
「あ、そうだったな。チカよ」
なんとか口調を戻したキンゲンがゆっくりと、チカの無事を確認する。
ほんの数日離れただけで、自分は立派になったかわからない。
だからこそ、チカは言う。
「これからも、冒険者の姿を見ててください」
「ああ、わかっている」
キンゲンはチカの……娘の言葉にうなずくのだった。
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