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筋肉姫と魔法使い(仮)  作者: 美海秋


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24/122

24、本当の魔法

 油断していた。

 というよりも他のことに夢中になりすぎていた。

 だからチカはもう一人の存在に気付いていなかった。

 そのせいで反応が遅れてしまった。

 実際に、隠れていた一人の男は、狙っていた。

 チカたちが油断する瞬間(しゅんかん)を……


 その瞬間というのは訪れる。

 魔封じの鎖がカイから離れたタイミングだった。

 なんとかなった安堵から全員が油断した。

 そして、隠れていた男が狙ったのはチカではなく、弱っているカイのことだった。

 気づいたときにはチカはカイを押しのけるようにして(かば)っていた。


 男はそうして、チカの体に剣を突き立てることに成功した。


「どうぐはあああ」


 体に剣が刺さったとはいえ、チカは魔力っで肉体が強化されている状態だったこともあり、なんとか倒れるのを踏ん張ると、男を殴り飛ばした。


「チカさん!」

「だ、だいじょ……」


 おかしい。

 チカはいつもと違う体の重みを感じて、立っているのかすらもわからなくなる。

 実際には体は倒れているのだが、それすらもわからないほどだった。

 大丈夫です。

 そう言葉にしたいのに、声がうまく出なかった。


 ここからカイ君たちを連れて逃げないといけないのに、どうして体はうまく動かないのでしょうか?

 頭にはぐるぐるとそんな思考が回っていたはずだが、気づけばそんな思考も考えられなくなる。


「チカさん!くそ、回復魔法”ヒール”」

「カイ。お姉ちゃんは、どうしたら……」

「一緒に回復魔法を」

「わかった。回復魔法”ヒール”」


 カイとアイは、お互いに魔法をチカに唱える。

 だけど、回復魔法を唱えたところでどうしようもないこともある。

 それは、潜在的な魔力だ。


「く、くううう……」

「姉さん!?」


 アイはこれまで自分が魔法が使えることは知っていたが、使ったことは一度もなかった。

 だから魔法を使うための魔力の扱い方が何もわかっていなかったこともあって、魔力が枯渇して魔法が使えなくなってしまった。

 倒れたアイを横目で見ながらも回復魔法は止めないが、このままではまずいことをカイはわかっていた。


(くそ、結局僕は助けられてばかりになるのか?助けるために頑張ってきたことは全部無駄だったのか?)

 そんな後悔をしたところで、カイが誰かを救えるというわけではない。

 目の前には少しの間ではあったが、助けられてばかりの人。

 そして隣には、ずっと助けられてきた人。

(僕は救える。そのはずなんだ、だから僕は魔法を覚えてきた!魔力が全部なくなろうとも、絶対に助ける)


 魔法というものは、魔力を使って思い描いた事象を世界に作り出すものだ。

 そのため、魔力を込めれば込めるほど大きな事象を起こすことができ、同じ魔法を回数こなすことによって、さらに魔法は洗礼されていく。

 そして、カイはこれまで魔法を何度もやっていくうちに気付いたことがあった。

 魔法には、終わりがない。

 魔力を流せば扱えない魔法はないと……


 だけど、カイに大きな魔法を扱うほどの魔力はない。

 そして、音が聞こえてくる。

 ダメだったか……

 諦めそうになったときだった。


【おい、諦めるのか?】


 声が聞こえる。


「なんだ?」

【いいから答えろ】

「諦める……そんなわけない!」

【だったら、どうして治癒の魔法は弱くなっている?】

「魔力が、足りないからだ!」


 声の主はカイにはわからないが、それでも何か(あお)ってきているのはわかった。

 だけど、煽られたところで、現実が変わるわけではない。

 魔法はだんだんとその効力をなくしていく。


「クソが……」

【おいおい、もう終わりなのか?】

「うるせぇ」

【なんだよ、連れねえなぁ】

「僕は絶対に救う!救わないといけないんだ!」

【おお、いいじゃねえか!だったら救いかたを教えてやろうか?】

「救えるなら、僕はどうなってもいい!」

【ははは!いいじゃねえか!そういう覚悟があってこそ、教えがいがあるってもんだ!】


 聞こえていた男の声がそう言葉にしたときだった。

 視界が地下室とは違う景色に変わったのは……

 草原のような場所は、これまでいた場所とは全く違っていた。


「なんだ、ここは……」

「迷宮だ」


 そんな言葉とともにカイの隣には、見たこともないような存在が立っていた。

 黒い髪ながらも、顔には黒い仮面をつけているのを見れば、誰もが驚くのも無理はなく、警戒しながら言葉を発する。


「なんだ?」

「なんだとは失礼だぞ、この大魔法使い様にな」

「大魔法使いだって?」

「ま、そういうことだな。最強だったからな」

「最強?」

「ああ、当たり前だ。死神と呼ばれていたからな」


 仮面の男はそう言葉にする。

 カイにはそう言われても、正直わからなかった。

 死神だとかなんだとか……


「ぐ……」


 だけど、すぐにチカの苦しむ声で置かれている状況を思い出す。


「くそ、回復魔法”ヒール”」


 カイは再度魔法を発動しようとするが、魔力が足りないのか魔法は発動しない。


「くそ……」

「さっきから何をやってんだ?」

「何をって回復を……」

「回復?そんなものは、こうやるんだよ」


 パチンと指が鳴ったと思ったら、アイの体が光りだす。

 何が起こっているのかわからなかったが、苦しそうにしていたアイの顔色はかなりよくなる。


「何をやったんだ?」

「魔法に決まっているだろ?わからないのか?」

「魔法だと、詠唱は?」

「詠唱?そんなものを大魔法使いが必要だと思うか?」

「必要ないっていうのか?」

「当たり前だ」


 大魔法使いだと名乗った男が言う言葉に、カイは驚く。

 魔法というものを覚えたとき、カイは魔法について全て詠唱して使うものだと思っていたし、それが周りでも普通だった。

 だが、目の前で起こったことは違っていた。


「大魔法使いが教えてやる。魔法はただの事象にすぎない。それを起こすのは全部自分の実力だ。だったら、実力がつけばなんでも魔法を使うことができる」

「何を……」

「わからないのか?実力がないから、詠唱というものに頼らないといけないだろ?」


 男の言葉は、カイの心に響く。

 わかっていたからだ。


「だったら、だったら僕にその魔法を教えてくれよ!」


 カイはすぐにそう言葉にすると、男は明らかに楽しそうに口にする。


「いいぜえ。そのために大魔法使い様がここに連れてきてやったんだからな」


 そう言葉にすると、カイの頭を男は掴んだ。

 何をやろうとしているのかと口にする前に、カイの頭にはイメージが流れてくる。


「どうだ?わかるか?」

「ああ……」

「魔法は全てイメージだ。使う魔法をイメージしろ、魔法に使われるんじゃない。魔法を使うというのは支配するということだ。いうことを聞かせろ!わかったな」

「ああ……」

「やってみろ」


 男が見せてきたのは、イメージだった。

 カイはそれを理解したとき、両手をチカの傷へと近づける。

 イメージはできた。

 後は、絶対にこの傷を治すことを考えながら、治癒の光というものを魔力を作り出す。

 そう、魔法というものはイメージだ。

 現在使っている、詠唱を必要としている魔法というものは、全てが同じ現象になるように制限がかけられている。


 だけど、カイが今使った治癒の光は、チカの傷を治すためだけの魔法だ。

 これまでの回復魔法とは違って、それだけの魔法だったため、少ない魔法でも使えたし、完璧に治すことも可能だった。


「わかったか?これが魔法だからな」

「は、はい……」

「ちっ、気を失いやがったか……まあ、この女を回復させるやつができたんだ。これだけで大魔法使いたちにとっては朗報だな。さあ、もっと力をつけて、大魔法使い様を殺してくれよ」


 男はそう言葉にすると、自分のダンジョンに三人を放置するのだった。

読んでいただきありがとうございます。

よければ次もよろしくお願いします。

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