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筋肉姫と魔法使い(仮)  作者: 美海秋


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23、あり得ないこと

「何が起こった?」

「わ、わかりやせん!」

「わからないって、なんだ!あれは、何なんだ!」


 男はチカを見て叫ぶ。

 だが、男が叫びたいことも理解はできた。

 目の前で起きたことというのが、それほどあり得ない光景だった。


 部下が放った風の刃を作り出す魔法は、魔力がないチカの体を最低でも切り裂くようなものだったはずだ。

 だけど、そこにいるのは右目がどこか輝いているように見えるチカが、右の拳を振りぬいた態勢で止まっており、体には傷の一つもついていない。

 そこから考えられることというのは、チカが風の刃をなんとかしたというものだ。


「これは……」


 チカ自身も、その変化というものに気づく。

 魔力が体に纏わりつくような形だった。

 これは、どこか武技を発動するときと似ているが、武技と違うのは、その魔力が武器ではなく全身に魔力が行き渡っていることだろう。

 これにより、魔力を纏った攻撃というのを、魔力を纏った拳で弾くことが可能になった。


「これは、使える力ですね」


 その力によって、男たちを倒せると確信するチカに対して、男たちは取り乱す。


「何が起こっている!」

「わかりません」

「いいから倒せ、もう殺せ!」


 雇い主の男は、取り乱してそう言葉にする。

 部下たちは、なんとかチカを倒すべく動く。

 だが、チカの動きはそんな部下たちよりもかなり速かった。


「何!」

「はああああああ!」

「け、剣ぐはああああああ」

「おい!」

「風魔ぐはああああああ」

「おおおい!」


 チカの速さに部下はついていけない。

 これまでのチカの速さではなく、魔力を体に纏うことによって、さらなる速さを得たからだった。

 ただ、扱えていないのはチカも同じだった。


 ジグザグな動きは難しいですね。

 これまでのような、左右に動いて攻撃を交わすということはできなくて、ただ一直線に向かって行っただけなのだが、それでも異常な速さであったため、チカの攻撃は防ぐこともできなかったのだ。


「残るは、あなただけですね」

「おい、どういうことだ!どうしてだ!それも呪いなのか!」

「そうなのかもしれませんね」

「おいおいおい……だったら、その呪いの力を俺様のために使えや!そしたら、望むものを与えてやる!」


 男の周りにいたものたちは、気づけば全員が倒れている。

 とはいえ、男からすればそんな光景を見たことなど多くある。

 そこで男はいつものように取引をもちかける。

 強いものや特殊な能力を持っているものたちは、多くのものが何かを望んでいる。

 それを男はわかっていた。


 だから、いつもそれを自分が持っている財力(ざいりょく)によって叶えてきた。

 今回もお金を出せばなんとかなると考えていた。

 だけど、白い髪をなびかせたチカは違っていた。

 思い通りには動くことがない。


「おい、聞いているのか!」


 男はそう叫ぶが、止まることはない。


「何が欲しい!」

「何が欲しい?決まっています」

「それはなんだ!」


 ようやく返答が返ってきたと男は喜ぶが、チカの歩みは止まらない。

 確実に近づいていく。


「決まっています。あたしたちに関わらないことです!」

「何をいって……」

「はああああああ」


 チカは拳を握りしめる。

 どこからか湧いてきた力ではあるが、その力を利用したこの拳は、簡単に相手に届くと、男を殴り飛ばすのだった。

 そして、ようやくというべきか、チカたちはカイがいる地下牢に入ることができたのだった。


「な!どうして!姉さんも」


 チカたちの姿を見て、カイは驚きの声を上げる。

 だけど、さっさとここから出ていきたいと考えていたチカは、地下牢の扉に手をかける。

 未だに魔力が溢れているチカは、掴んでいた地下牢の扉を簡単に破壊する。


「は?」


 あまりに簡単にやったことに、カイは呆けた声を上げる。

 だけど、そこで終わりではなかった。

 カイに着けられた魔封じを外さないといけないからだ。


 チカは何気なく、その鎖に触れた。

 バチッと手の魔力が弾ける。


「無理だ。これは、魔封じってものらしいからな」

「魔封じですか。聞いたことがありませんね」

「魔力を寄せ付けないものみたいだ」


 何度もカイは魔法を使おうと、いつものように魔力を体にためようとしたが、全ては弾かれるようにうまくいかなかった。

 まさしくチカの手に起こったように、魔封じというものは魔力を全て弾いてしまうものだ。

 これによって、魔封じとしての役割をもっている。


 だったら、魔力を何も使わない状態で魔封じ。

 今回でいえば、鎖を破壊しなければいけなかった。

 魔力を持たなければ、チカがそれを破壊できる可能性も確かにあったが、現在は魔力を纏っている。

 その状態では、さすがのチカも壊すことはできない。


「どうやって僕のことを助けたに来たのかは知らないけど、もういいだろ?」

「どうして?」

「わかるだろ?僕にはもう、救えない」

「お姉さんを?」

「そうだ」

「だったら、どうするのですか?」

「決まっているだろ、姉さん」

「はい」


 アイはすぐにカイに近寄っていく。

 まるで、最初からそうすることが決まっていたかのように……

 何をしようとしているのか、それはチカにもすぐにわかった。

 だからといって、チカはそれに対して何かを言うことはなく、魔力が消えない体で、拳で鎖を再度殴る。


「く……」


 力を持つことによって、チカは誰でも救うことができるのだと、思っていた。

 だけど、どうして手に入ったのかわからない力を制御できないことによって、救うことができるはずの人がいるのにうまくいかないもどかしさを知った。

 でも、だからといって諦める理由にはならない。


 何度でも、拳を固めて殴る。

 数回殴ったあたりで、チカの手は傷ができ始める。

 魔力によって弾かれた手に傷ができ始めたのだ。

 だけど、休むことはない。


「おい!」


 思わずといった形でカイが声を上げる。


「なんですか?」


 チカは返事をするが、殴る手を止めない。


「壊れないのに、いらないことをするな!」

「そんなことは、あたしにとって関係のないことです」

「なんだと!」

「勝手に死にたいのならいいです。ですが、あたしはそんなカイ君たちを勝手に助けます」

「何を言って……」


 るんだ?

 そう言葉にしようとしたが、その声は喉まで出かかったところでつっかえる。

 どうしてだろうか?

 いや、カイはその光景をどこかで見たことがあると考えたからだ。

 それはアイも同じだった。

 体がおかしくなってから、弟に迷惑ばかりをかけてきたことをわかっていた。

 だから、弟が諦めたら、同じように諦めようと考えていた。

 だというのに、弟の……自分たちのために頑張っている人がいる。

 これを見て、何もしないというのは、姉としておかしいと感じたのだ。


「チカさん」


 アイは立ち上がると近づいていく。

 どうしたのか疑問に考えていたとき、チカの手にその手を添えると魔法を唱える。


「回復魔法”ヒール”」

「!」「!」


 チカとカイの二人の驚きがあったが、アイは魔法を使って手を回復させる。

 アイは体が弱くなってしまったせいでわからなかったが、実際にはカイよりも魔力が多い。

 そのことによって、チカの手はみるみるうちに回復していく。


「姉さん?」

「ごめん。お姉ちゃんね、やっぱり死なせたくない!」

「でも、この鎖は……」


 カイがそう言って腕を引っ張っても外れる様子はない。

 通常であれば、魔封じというものを解除するためには鍵が必要であるのだが、チカたちはそれを知らない。

 だけど外さないことには、ここから逃げることはできない。

 時間がたって、屋敷にいたものたちが全員起き上がって向かってくれば、終わりだろう。

 それまでに逃げないといけない。


 どうすれば?

 チカは考える。

 だけどいい答えはでないと思っていたときだった。

 チカはなんとなくカイに触れようとする。

 普通であれば、魔力が弾かれるはずだった。

 でも、どういうわけか魔力は弾かれない。

 そして、カイは自分に魔力が宿っていることに気付き口にする。


「守りの壁”プロテクト”」


 どうして魔法が発動したのかわからない。

 だが、その魔法によって魔封じの鎖はすぐにその魔法と弾きあう。

 それによってできた隙間から、カイは逃げることができたのだった。


「なんだったんだ……」


 驚きながらもとれたことによって、ゆっくりと動きだそうとしたときだった。

 カイは自分の体が思いっきり引き寄せられるのを感じる。


「何を!」


 だけど、そのときに見た光景は、お腹に剣が生えたチカの姿だった。

読んでいただきありがとうございます。

よければ次もよろしくお願いします。

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