22、伝承
「なんだ、これは!」
音が聞こえて出てきた雇い主の男は、この現状を見て驚くが普通の反応だろう。
家がぐちゃぐちゃになっていたからだ。
この現状を見れば、さすがに全員が思うはずだ、何があったのかと……
だが、男はすぐにチカたちを視界にとらえる。
「なるほど、入ってきたのはお前たちか!」
「そうだと言えば、カイ君を解放してもらえるのでしょうか?」
「解放?何を言ってる?俺様はな、そんなやつは知らないぞ」
チカの質問に男は白々しくそう答える。
だが、チカにはカイがここにいるであろうということがわかっていた。
出てきた扉が閉まる前に、チカの耳にはカイの声がしっかりと聞こえていたからだ。
「そうであれば、探させていただくまでです」
「はあ?何を言ってやがる?俺様の屋敷をめちゃくちゃにしたんだぞ!まずは弁償が筋だろうが!」
「弁償と言われましても、あたしとしては正当防衛をさせていただいただけですよ?」
男が怒鳴り、普通の女性であれば少したじろぐだろう状況でもチカは特に思うことはなく、ジッと男を見ている。
(なんだ?どうしてこいつはこんなに肝がすわってやがる!だが、これはどっかで……は!)
男は今更ながらにあることを思い出し笑う。
「ははは、く、ははは!いや、思い出したぞ」
「はあ?」
「お前は確か、呪われた女じゃねえかよ」
男は嬉しそうに笑う。
確かに、男が言ってることは正しいし、隠すことでもないとないと考えていたチカはあっけらかんと口にする。
「それがどうかしたのでしょうか?」
「どうかしただと?どうかしてるだろ!」
男は激しくその体を揺さぶりながら怒鳴る。
「何を言ってる!呪われた女だぞ!それに、聞いたことがあるな。確か、お前は貴族の娘だったか?貴族ってことは、魔法を使えるはずだよな、俺様に見せてくれよ!」
「使えません」
「はは!だろうな!知ってて聞いてるんだからな、俺様は!」
何が面白いというのだろうか、男はさらに笑っている。
「どうせこの状況も、そこにいる女がやったんじゃないのか?」
「どうしてでしょうか?」
「ああ?わからないのか?そこの女と、お前が探しているガキはな。珍しいとは思わないか、お前と一緒でな」
そこで、チカはカイとアイのことを思い出す。
何が普通と違っているのか?
すぐに思いついたのは、髪の色だった。
チカとは真逆の色といえばいいのか、黒い髪というのは、この都市でも確かに見たことがない。
視線が自然と髪を見たことを男は気づいたのだろう。
「ははは!よくわかっているなあ。だったらわかるだろ?貴重なんだよ。無限の魔法を扱える黒髪はな。女のほうもいずれは手に入れたいと考えていたから、ちょうどいいな」
そう言葉にすると、アイのほうを見る。
視線を向けられたアイは思わずという感じで体をこわばらせるが、その前にチカが立ちふさがった。
「おい、邪魔なんだよ」
「邪魔と言われましても、あなたがカイ君を返してくれない限りは、立ちふさがります」
「ぶは!立ちふさがるって、何ができる?魔力もないようなやつがよ!」
男はバカにしたように言う。
だけど、仕方がなかった。
普通であれば、この状況を引き起こしたのが魔力も何もないチカだとは思わないし、さらに言えば、ただの蹴りで屋敷の大きな扉を破壊するなんてことはあり得ないはずだからだ。
「まあいい!全部薙ぎ払ってやれ!」
「へい。風魔法”ウィンドカッター”」
男の後ろに控えていた部下の一人が、その言葉とともに魔法を放つ。
風の刃がチカに向かって飛んでくる。
普通であれば、チカは避けることを選択するだろうし、魔力がないのだからそれが普通だ。
だけど、このときの行動は違っていた。
風の刃に向かって、拳を振り上げた。
こんなときではあるが、一つの伝承があるのをご存知だろうか?
この世界には魔法の適正が高ければ高いほど、髪の色や目の色というのはその属性に引っ張られると言われている。
赤なら火、青なら水、緑なら風、黄なら土というようにだ。
では、武技などを扱う場合はどうなのか?
基本的には茶色になっており、そこから少し他の色が混じっている。
そして、そんな中でも変わった髪の色がある。
一つはそう、黒色だ。
黒色の髪は、属性の魔法を扱うことはできないが、それ以外の魔法を扱うことが可能であるとされている。
そして、もう一つ。
白色。
魔力はゼロとされている。
そう、何もない。
だけど、矛盾というものがある。
そう、通常であればゼロのはずの魔力が何故か測定できてしまった。
そう、魔力があったのだ……
そして、その中で一つだけとある言葉がある。
それは、金色には無限の魔力が集まってくるというものという内容だった。
では、どうしてここで伝承を語ったのか?
それは、チカの目が金色に輝き、纏った右手の魔力で風の刃を弾いたからだった。
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