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筋肉姫と魔法使い(仮)  作者: 美海秋


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21/122

21、チカの実力

(すごい、すごい!)

 アイの目の前で起こったことというのは普通ではあり得ないような光景だった。

 カイたちを困らせているアジトを知っていると話したチカという女性のことを信用していなかったわけではなかったが、最初から予想外なことの連続でもあった。


 家の屋根から屋根を、まるでアイのことを抱っこしていることなどいないものであるかのように、軽々とジャンプする。


「すごすぎます」

「ありがとうございます」


 思わずアイはそう口にし、チカはハニカミながらそう答える。

 さながら、今起こっていることは、お姫様と王子様のようだとアイは感じていた。

 少しして、チカはとある屋敷の近くに着地する。


 雇い主とされている男というのは、その地位といえばいいのか、権力のようなものを隠すことはしていない。

 まるでやましいことがないかのように、振る舞っている。

 そう、男の権力というものはそこまで脅威的だったのだ。


 だから、そんな屋敷の前には当たり前のように門番がいる。

 見た目だけでいえば、チカよりも大きく、力だって強く感じる。


「チカさん?」


 それでも正面から堂々とアイのことをお姫様抱っこして歩くチカの行為に対して戸惑いながらそう声にする。

 だけど、チカは大丈夫とばかりにアイに微笑むと、ズンズンと進んでいく。


 門番である男たちはすぐに異変に気づいていた。

 目の前から、女性が歩いてくるのだからだ。

 それも、見るだけでわかるほどに綺麗な白の髪をなびかせて歩いてきているからだ。

 見るからに上物だと感じていた門番の男たちはすぐに声をなるべく多くかけようと考えた。

 しっかりと対応すれば、後でおこぼれをもらえる可能性があるからだ。


 そう、最初から門番の男たちは予想していた。

 夜という時間に、女性が訪ねてくるというのは自分たちのご主人に用事があるということを……

 チカは門番たちの前で立ち止まる。


「どういう要件だ?」

「貴方がたのご主人様とやらに会いに来ました」


 チカは普通にそう答えるが、目の前にいる男たちというのは、それどころではなかった。

 予想していたよりも倍以上も、女性の見た目というのが予想よりも整っていたからだ。

 これを楽しめるのか羨ましい。

 門番の男たちはそう思ったが、チカはそんな野暮(やぼ)な視線を気にした様子もなく、言葉にする。


「ここにいるはずの、ご主人様に会いたいのですが?」


 見た目が美しいということもあり、男たちはすぐにチカたちが訪ねてきた娼婦(しょうふ)と勘違いし、許可を出す。

 実際にこういうことは、日ごろあったからだ。


「ああ、いいだろう。だがな、そっちの女の顔もよく見せてもらおうか?」

「わかりました。では、しっかりと顔を見てください」


 そうはいっても門番の男は、いつものように仕事をこなそうとしていた。

 白の髪をした女性というのも珍しいが、そんな女性が抱っこしている見るからに女性も黒の髪という普段では見ることがないものだったからだ。

 そんな二人の女性がくれば、確認しないわけにはいかなかったのだ。

 そうして、門番の男一人は女性の顔を確認しようと顔を下げた瞬間に意識を失った。


 誰もが簡単には理解できない状況だった。

 だって、ほんの少し前には門番の男が女性の顔を確認しようとしただけったからだ。

 夜ということもあって、近くによって顔を見ようとする行為というのは、普通のことではあった。

 だというのに男の一人は倒れ、それをやったというのだろうか?

 白の髪をした女性が足を蹴り上げたような状態で止まっていたからだった。


 そう、男を昏倒させたのはチカだった。

 門番とすれば正しい行動ではあったが、チカに対してはその行動は悪手だった。

 もともとカイの姉であるアイのことを見られることがあれば、何をやりにこの場所に来たのかということがわかってしまうからだ。


「お、お前!な!はええ、ぐは……」


 そしてすぐにチカのことを警戒したもう一人の男も優秀ではあった。

 だが、先ほどのチカの蹴りをしっかりと見えてないというのに、武器を使わずにチカを取り押さえようとするのは、ただの悪手たった。


 気付いたときにはチカは視界から消えており、後頭部への衝撃が待っていたからだ。

 すぐにもう一人の男も昏倒する姿を見て、アイは口にする。


「な、何が起こりましたか?」

「そうですね。蹴りました」


 チカはそう言葉にすると、照れて笑う。

 だけど、アイにはその意味というのがわからなかった。

 一瞬だけ振動があった後に、気づけば門番の男たちが昏倒していたからだ。

 それが蹴りであるとは思っていなかったが、実際には一瞬で間合いを詰めたチカが後ろから回し蹴りをしていたからだ。


 それでも、普通の人からすれば急に男が倒れたとしか感じないほどには、その動きは速かったのはいうまでもなかった。


 とはいえ、これで門番はいなくなったことにより、チカは悠々と屋敷へと入っていく。

 そして、扉の前に立つと慣れたように足でノックをする。

 最初はコンコンと小突く程度の勢いではあったが、中にはしっかりと聞こえるような音ではあった。

 であれば、聞こえた中の男たちというのは、外の状況を見ようと集まってくるというのも必然ではあった。

 中の様子も扉越しとはいえ、わかっていたチカは、男たちがある程度集まったタイミングで屋敷の大きな扉を片方のみ蹴破る。

 これが、最初に聞こえていたドンという音だった。

 これによって、扉の前にいた男たちが吹っ飛ぶ。


 中には思ったより人数がいますね。

 チカは冷静に中を見渡すと人数を確認する。

 男たちは警戒しながらも、冷静にチカたちのことを抑え込むために動くだろう。

 とはいえ、警戒もしているようだ。

 普通に考えれば、お姫様抱っこをした女性が、扉を吹き飛ばしたなどとは思えなかったからだろう。


 だけど、警戒している時間が長くても短くても、それよりもチカのほうが動き出すのが速い。

 人数が多いところに向けて、問答無用(もんどうむよう)でもう一枚の扉を蹴り飛ばしたからだ。


「おおおおおおお」「逃げろ、逃げろ」「うわああああ」


 多くの声がしながらも、男たちは扉から逃げようとしていたが、迫ってくる扉に対してどっちに逃げるべきかを急に突き付けられた場合。

 普段通りの行動ができなかった。

 無駄に権力を見せつけるようなことにした結果が生んだ悲劇というものだろう。


 多くの男たちは、その一撃で扉の下敷きになってしまったのだ。

 だが、そうならないものたちというのも一定数いる。

 少しは強いということなのだろうと、チカは相手を見て思う。


 人数が少なければ、門番のように一撃で相手を昏倒(こんとう)させることも可能ではあったが、立っている部下たちは六人いる。


 さすがに抱っこしたままは厳しいかもしれませんね。

 チカはすぐにそう考えると、屋敷に入ってすぐのところにあった自己顕示欲(じこけんじよく)の塊かのような石像を蹴り倒す。


「アイさん。こちらに座っていてください」

「は、はい」

「大丈夫です。すぐに終わらせます」


 チカはアイに微笑みかける。

 ただ、このタイミングを見逃さない相手ではなかった。

 明らかに視線が外れているこのタイミングというのは、相手にはチャンスであり、普通の人であれば隙を見せたことになるだろうが、そこはチカだ。

 完全な死角から飛んできたナイフ三本を指先でつかみ取る。


「馬鹿な!」

「いい投擲ですね」


 驚いている相手に対して、逆にチカは感心していた。

 チカのことを確実に狙った攻撃をしてきたからだ。

 動きを悪くするためにと足を狙っていることも考えられ、さすがだった。

 とはいえ、相手がチカであるならば、攻撃に武器を使うのは間違っている。


「ちっ、ナイフも防がれた。不意打ちは無理だ、全員で行くぞ!」

「ああ、魔法で支援する」


 こういう状況に慣れているのか、男たちの動きは速い。

 武器を構えると、じりじりと動きつつもタイミングを計っている。

 人数をかけてしまえばいけると男たちは考えていたが、チカという存在は想像通りにはいかない。

 後ろで今まさに魔法を唱えようとして杖を構えている男に向けて、持っていたナイフを力任せに投げつける。


「炎魔法”ファイうわああああ」


 ひゅっと音がして、ナイフは男が持っていた杖にぶち当たりながらも、魔法は発動するが……


「お前!」

「ちげえ、これは!」


 魔法の発動タイミングをずらすことによって起こることというのは、多くある。

 一つは魔法が発動しないことで、これはチカがカイに行ったことだ。

 そして、今回起こったのはもう一つのほうである、魔法の暴走だ。

 魔力暴走とは違うところは、魔法は発動しているがその魔法が制御できていないという点だ。

 今回は、火がチカではなく今まさにこちらに詰めようとしていた男たちに向かっている。


「剣技で切り裂く!剣技”かまいたち”」


 一人の男が構えていた鎌のような武器を振るうことによって、向かってきていた火は消えるが、男たちは喜んでいる暇などなかった。

 気づいたときには、チカが接近していたからだ。

 予想外なことが起こった相手と違い、予想通りの展開だとチカは動いており、鎌を振った男が再度チカのほうを振りむいたタイミングには、拳が腹にめり込んでいた。


「ぐふ……」


 そんな声とともに男は飛んでいき、さらには近くにいた男すらも巻き込んでいく。

 果たして、チカの動きをしっかりと把握できた人はいただろうか?

 気づけばチカはさらに一人、一人とその拳を叩き込んでいく。

 残るは、最初に魔法を使った男のみになっていた……


「くそ、くそ、化け物が!」

「失礼ですね。化け物ではありません」


 そう言葉にしたチカではあったが、普通の人からすれば、鬼人なのではと言葉にしていたはずだった。

 それほどまでに冒険者ランクを上げることが可能であったチカの実力というのは圧倒的だったのはいうまでもなかった。

 こうして最後の一人も昏倒させ、アイの元に駆けつけようとしたときだった地面に隠された扉が開いたのは……

読んでいただきありがとうございます。

よければ次もよろしくお願いします。

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