20、決意
カイが雇い主のもとへ駆けつける前に、チカは後を追ってある場所を訪れていた。
日によって場所を変えることにしていることもあり、カイの姉の居場所というのは、カイのみしかわからないはずで、さらにはカイ自身の魔法であるサーチによって、誰かが近づいてくればわかる。
でも、だからこそチカという存在は特殊だった。
魔力をほとんど持たないチカは、サーチでは引っ掛かることがない。
よって、カイがどれだけ警戒をしていても、見つかることがない。
とはいえ、カイがそんなことを知るはずもないことによって、チカは気づかれることがないまま、カイの姉がいる場所に辿り着いた。
呼吸を整えると、チカは扉を開ける。
「カイ?誰?」
すぐに弟であるカイとは違う人物だということがわかって、部屋にいた女性は警戒する。
だけど、女性はチカの姿をしっかりと捉えたところで動きが止まる。
そして、それはチカも同じだった。
「綺麗ですね……」「綺麗……」
思わずといった感じで、お互いにそう言葉にする。
普通とは違う美しさを持つチカと、儚げな美しさをもつ女性が揃って少し見つめ合う。
とはいえ、すぐに正気に戻ったのは、チカだった。
「急にごめんなさい。あたしはチカって言います」
「チカさん?」
「はい。カイ君のことで話を聞きたいと思い、ここに来ました」
「そうですか……カイが、何か悪いことをしたのですよね。こちらこそ、弟がごめんなさい」
カイの代わりという感じで、頭を下げるが、チカからすれば別に気にしなくてもいいと考えていた。
迷惑などと思っていなかったからだ。
それに、チカはカイの姉を見て、なんとなく事情を察した。
触れば折れてしまいそうな手や足は見ていて痛々しい。
また、絶対に違うと言われる可能性もあるが、見た目はどこか昔の自分自身に似ていた。
「えっと……」
「カイの姉のアイです」
「アイさん。あたしは、何が起こっているのか聞きました。だからこそ、ここに来ました」
「そうですか……カイはお姉ちゃんのことを話したんですね」
「はい」
アイは少し驚いたような表情をしながらも、どこか納得したように言う。
アイは考えていた。
もしかすれば、死ぬ前に思い出をと作ってほしくて、自分のことをチカに話したのではと考えたからだ。
だけど、そんなアイにチカは言う。
「アイさん」
「はい」
「先に言っておきます。絶対にアイさんの病気はカイ君に治してもらいます」
「え?」
何を言っているのだろう?
思わずアイはその表情を驚きに変える。
だって、だってだ……
これまで一度だって、アイは病気のことを言われるときに、目を真っすぐ見られることがなかったからだ。
(期待していいの?でも、どうやって?)
そんな言葉が口から出そうになるのをなんとか抑える。
だけど、アイの言いたいことなどわかっているかのように、チカは目一杯の笑顔で答える。
「カイ君に会いに行きましょう!」
「は、え?」
予想していなかった言葉にアイは固まる。
だけどゆっくりとチカは近づいてくると、その体をお姫様抱っこする。
「あ、あの……」
戸惑いが隠せないアイにチカは笑いかける。
「それでは、行きますよ!カイ君のもとへ!」
まるですべてを吹き飛ばすような宣言に、アイは声を出すことも忘れ、ただただ驚くのだった。
※
「失敗したら、どうなるのか知ってるだろ?」
「まだ、失敗だとは……ぐあああああああああああああああ!」
「おいおい、認めないのはいけないだろ?」
カイは捕まっていた。
どれだけ多くの魔法を使うことができようとも、使う前に無効化されてしまえば何もできることはない。
そんなことはわかっていた。
だけれど、どうしてという言葉が喉をつく。
サーチの魔法を使って警戒はしていた。
なのに不覚を許したからだ。
「は、驚いてるか?だろうな。でも、便利なんだぜ、魔封じってのはよ」
雇い主であった男はそう言葉にする。
魔封じ。
確かにカイも聴いたことがあった。
魔封じとは、名前の通り魔を封じるものだ。
多くの場合、今のカイのように魔力をもった厄介な相手を封じ込めるために必要とされているものだ。
それと、まさかサーチをかいくぐるためだけに利用してくるとは思っていなかった。
だが、こうして捕まってしまった以上、カイは逃げられないことがわかる。
(ここまでか……結局姉さんは救えなかった)
いつかはこうなることはなんとなく予想していたけれど、せめて姉だけは救いたかったとカイは考えていたときだった。
「そういえば、お前には姉がいたよなあ」
「だったらなんだ?」
「いや、今から会いに行ってやろうかと思ってな」
「何を言って!」
「おいおい怒るなよ、怖いなあ」
そう言葉にしながらも男は、ニヤニヤと笑っている。
(こいつ、こいつは……)
わかっているのだろう、カイが何のために、協力しているのかということを……
だから、その弱みを握ることで、カイのことを今以上に都合のいい駒として扱うことができると考えているのか、その表情は邪悪に歪んでいる。
「どうせお前は口をわりそうにないからな、さっさと目星をつけた場所を調べるぞ」
「くそがあああああああ!」
「いいぞ、いいぞ!足掻け、足掻いて見せろや!」
高笑う男と悔しくて体を震わせるカイ。
お互いの感情は対照的だった。
男は大好きなのだ。
こうして、感情を剥き出して向かってくる相手が……
そして、そんな相手を手中に収めるということが……
「たまらねえなあ、おい。じゃあお前らいくぞ!」
男は部下にそう命令する。
すでに部下たちにある程度の居場所を突き止めているのだから、ここからは余裕だろう。
そう考えていたときだった。
「ドン……ドン……ドン……」
「何の音だ?」
「見てきます」
雇い主のアジトの地下室にいたため、男たちには音だけが響いていた。
そんな中で、雇い主は一人の男を音が出ている地上の様子を見に行かせた。
だが……
「ドン……ドン……ドカン!」
音は激しくなるばかりだ。
魔封じを施しているカイのことはもう大丈夫だろう。
男はそう判断すると、周りの部下のうち男を一人だけ残し、上を見に行く。
そこで目にしたのは、見たこともない光景だった。
一人の女性が、一人の女性をお姫様抱っこをしている。
そんな非日常的な光景だった。
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