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筋肉姫と魔法使い(仮)  作者: 美海秋


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18/122

18、誘い込む

 チカは冒険者ギルドを出ると、中央都市の中を歩いていた。

 歩いているだけで、チカの見た目であれば目を引くことは間違いなく、チカ自身もそれくらいのことはわかっていた。

 注目を集めているのは計画通り。

 だってチカは声をかけてもらえるのを待っているのだから……


 最初に人目を引く場所を歩き、視界の端に見覚えがある人がいるのがわかったところで、人が少ない場所に向けて歩き出す。

 そんなチカの後ろを着いてくる人がいる。


 一定の距離を取っていることから、予想通り人が多いところでは向かってこない。

 人がいない路地へ入る必要がありますね。


 チカはすぐにそう考えると、人の足音がしないほうへと歩いていく。

 数分でほとんど人通りがない場所へとたどり着くとともに、日は沈んでいく。

 いろいろなことがありすぎて、時間がかなり立っていたようだ。

 とはいえ、チカ自身体を鍛えていた関係もあって、まだ休まなくても大丈夫だった。


「では、行動開始ですね」


 チカは路地へと入る。

 そして、壁を駆けあがると、その勢いのまま路地にあった何か棒の上に立つ。

 街灯よりも高い位置にいることで、後ろから追手きていた人物はチカのことを見失う。


「ど、どこにいった?」


 キョロキョロと周りを見ながら路地を進んでいる人物が棒の下に立ったタイミングで、チカはスッと棒から飛び降りる。

 小さいながらも着地音が鳴ったところで、人物はチカのほうへ振り向く。

 だが、それよりも速くチカはその人物の肩を掴むと、壁に押し付ける。

 ドンとともに壁に押し付けた人物とチカの視線があう。


「カイ君。久しぶりですね」

「チカさん……」


 わかっていた通り、相手というのはカイだった。

 バレていたことに驚いているのか、それともなんとなく最初からそのことをわかっていたのか、カイはすぐに魔法を唱えようとする。


「守りの壁”プロテクト”」


 だけど、チカは唱えている魔法に対してカイの体をグッと動かす。

 するとどうだろうか、魔法は何も発動しないで終わった。


「え?」

「魔法のこと、ちゃんと知らないのですね」

「な、何を……」


 カイは魔法が発動しなかったことと、魔法のことを理解しているであろうチカに驚いている。

 だけど、チカは魔法が発動しなかったのは当たり前だとわかっていた。


 武技については知らないことが多いが、魔法については多くのことを知っている。

 まず、魔法とは基本的に発動するために必要なことがあるとされていて、一つが集中することだ。

 チカにはわからないことである、体内の魔力を知覚する必要があるからだ。

 魔力が知覚できれば、後は魔法を発動するためのイメージと魔法を唱える必要がある。


 だけど、ここで問題がいくつかある。

 魔法というのは、発動するときにイメージとずれてしまう可能性があるというものだ。

 では、こうして魔法が発動するときのイメージがずれてしまうとどうなるのか?

 それは、今目の前で起きた発動しないということだ。

 カイは意識して魔法を発動したはずで、さらに言えば、魔法を発動するために一部の人が使っているような杖を必要としていない。

 ということは、魔法を発動するイメージがしっかりと頭の中で固まっているということになるが、逆をいえば、そのイメージと現実が少しでもずれてしまった場合、発動しないという点にある。


 だが、魔法使いとして名を馳せたチカの家のように、しっかりと教育を受けたものであればともかく、多くの人はそのことを知らないからこそ、カイは戸惑っている。


「く……」

「魔法を発動してみますか?」

「守りの壁”プロテクト”……なんで発動しない!」


 先ほどと同じようにチカが体を揺するだけで、カイの魔法は発動しない。

 カイはそのことについて焦って声を荒げるが、対照的チカは余裕そうに微笑んでいる。


「どうですか?まだ魔法を使いますか?」


 チカにそう言われたカイは、どう反応していいのか戸惑った。

 どういうわけか魔法が発動しないからだ。

(何かがわかっているっていうのかよ……)

 すぐに余裕なチカを見てカイはそう考えるが、その何かがカイにはわからない以上は、どうやってもここから自分が何かをできるとは思わなかった。

 それにだ……

(力、セーブしているよな)

 カイは、あのときの魚の化け物と拳を突き合わせていたことを見ているからこそ、今も力を抑えていることをわかっていた。


(どうするべきか……)

 カイは考える。

 雇い主の男には、あの後にやるべきことを言われていた。

 ここにいるチカを前に連れてくることだ。

 そうすれば、カイにはあるものを与えられることがわかっている。

 でも、先手をとられた以上は、どうしようもなかったカイはさすがにうなだれる。


「もう、終わりです……」

「何がですか?」

「何が……そうですね……僕のすべてですね」


 カイはそう言葉にする。

 うまくいかなかった以上は、どうやっても大切な人を救うことができないことをわかってしまったからだ。

 カイは顔を俯ける。

 終わりだと自分の中で何度も繰り返そうとしたときだった、その顔を上げられる。


「!」

「何を顔を下げているのですか?あたしに、その終わりだと思うことを話してください」

「そ、そんなこと……」


 言えるわけがないとカイは言葉にしそうになったが、チカの顔を見て思い直す。

(そもそも僕は、この人を犠牲にしようとしていたんだ、なのに……巻き込まないようにって、どの頭で考えているんだ)

 カイはそう思いなおすと、自分のことを説明するのだった。

読んでいただきありがとうございます。

よければ次もよろしくお願いします。

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