16、再会と裏にいるもの
中に入った後は、最初のときと同じように声をかけられた。
それもかなり侮ったような形でだ。
とはいえ、チカはそこまで気にしてはいなかった。
中央都市ではないような場所から来る存在なのだからで、さらには一人で武器を持つこともなくギルド内部へと入ってくるのだから当たり前なのかもしれないが、そのことについてはギルドマスターから事前に聞いていたため、特に何も思うこともない。
「これがあったのも、よかったのかもしれませんね」
チカはそう言葉にしながら持っているのは、ギルドカードだ。
これには、これまでの依頼についてや、ランクについて書かれている。
そこで書かれている内容である、ランク九というのが、最初にあった侮ったようなものもなくなる要素だった。
それだけランクが上がるということは、一目置かれる存在になるということなのだろう。
とはいえ、今のところやるべきことというのは冒険者として一緒に冒険をしていくものたちだった。
どんな人を誘えばいいのかわからない。
先ほどの冒険者ギルドでは、ランク九ということもあり、他の冒険者たちに誘われたりしたのだが、チカはその誘いにどれものることはなかった。
その理由はちゃんとあった。
最初から、一緒に冒険する相手というのを自分で見極めたいと考えていたからだった。
どんな人がいいのか、実際にはわからない。
ただ一つ言えることがあるとすれば、声をかけてくるものたちのほとんどがチカがもっているランクを目当てにしていることだろう。
「利用しようと近づいてくるものたちがいるとは思いましたが、ほとんど全員がそうだとは思いませんでした」
ギルドを出た後も思わずそう口にしてしまうほどには、先ほどの冒険者ギルドで向けられた視線というのは褒められたものではなかった。
だけど、いくつか違う視線も存在していたのも事実だった。
「どうするのがいいのでしょうか……」
そう言葉にしながらもチカは時間を潰すために歩いていた。
というのも、本当であれば冒険者ギルドにて、ここ中央都市のギルドマスターと話をする予定だったのだ。
だが、当のギルドマスターは多忙ということもあり、今はギルドにいないということだった。
時間を知らせる鐘が後三つなったころには戻ってくるとは聞いていたものの、その時間までギルド内にいるというのは、さすがに気が引けた。
そういうこともあり、都市の中を歩くことにしたのだった。
あてがあるというわけではなかったものの、そこは元貴族だ。
違う都市とはいえ、歩いていけば内部を把握することもたやすいはずだった。
そう、だからこそ……
「迷いましたね……いえ、そんなはずは……」
ありえない出来事が起こってしまっていた。
元々いた町では、抜け出すとはいえないけれど、屋敷の外へ修行と称して出たことも何度かあった。
そのときは、確か屋敷を目印にして進むことで、簡単に戻ってこられたし、町にあった冒険者ギルドには大きな旗が建てられているのもあって、それを目印に進めばたどり着くことも可能だった。
目印があれば迷うことはない。
だからこそ、今は目印を探して歩いているのだけれど、その目印が見当たらない。
さらに高い同じような建物が多く、何がなんだかわからなくなってくる。
「まずい、まずいですよね……」
すでに鐘は二つ鳴り、もう一度鳴るころには冒険者ギルドに戻っておきたいのだが、実際には戻れるという確信はない。
どうするべきかを考えながらも、歩かないと着くこともないと歩いていたところで、チカは見覚えがある人物を発見する。
えっと、確かカイ君と名乗ったはずだった。
チカと別れる前にカイ君はというと、少し予定ができたからそちらに行くと言っていたはずだ。
手元に馬車がないということうまく予定というものもうまく終わったということだろう。
一人しかいないとはいえ、ここ中央都市では唯一の知り合いだ。
「ここは、聞くのがよさそうですね」
このままでは埒が明かないと思ったチカは、早速声をかけようと後を追いかける。
すぐに声をかけようとしたが、カイは一目散に見た目が派手な男へと向かっていくのが見えて、チカはサッと身を隠した。
どこか男によくない何かを感じたからだ。
それなりに離れているとはいえ、体を鍛えたこともあり、男とカイの会話はチカには聞こえていた。
「よう、カイ」
「あ、オークさん……」
「オークさん?」
「いえ、オーク様」
「ふ、まあいい。それで、どうなった?」
「はい。あのパーティーは全滅しました……」
「おお、そうかそうか!やるじゃないかよ!だったら、報酬だ」
「あ、ありがとうございます」
「いいってことよ!」
男はそう言葉にして、何かが入った袋をカイに渡そうとしている。
それを、普通の人であればほとんど見えないような場所で、チカはちゃんと見えていた。
そして、チカはその袋に向かって拾った石を投げつけた。
バシュッという音とともに、袋は弾かれる。
「なんだ?何が起きやがった!」
「な、なんですか?」
男とカイは二人とも驚きながらも周りを警戒する。
遠くでは、これを引き起こしたチカが、明らかにやったというポーズでたたずんでいる。
カイは、何が起こったのか理解できずにいたが、男のほうは驚きながらも声を荒げる。
「なんだ?魔法なのか!」
男のその言葉は間違っていたが、それを責められはしなかった。
だって、普通の人であれば、あり得ないことだったからだ。
かなりの距離があるのに、投げた石を正確に持っているものに狙って当てるということは……
とはいえ、チカからすれば、しっかりと狙えるような今の状況であれば、簡単なことではあった。
「おい!」
「は、はい。守りの壁”プロテクト”」
カイは何か魔法を唱えているが、チカとすればこれ以上何かをしようとは思っていなかった。
何かをするということもなく、チカはカイたちに近寄っていく。
近づいていくにつれて、石を投げたのが誰かということがわかったのだろう。
カイは驚いたように「チカさん」と口にした。
その言葉もしっかりと聞こえていたチカは、少し手を挙げると挨拶をする。
「カイ君。お久しぶりですね」
「は、はい」
「お、おい!お前の知り合いなのか?」
急ににこやかに女が挨拶をしてきたからか、男は警戒しながらカイに聞く。
「そ、その……」
とはいえ、カイはどう答えていいのかわからないようで口をもごもごとさせる。
チカはそんなカイを見て、男と同じように聞く。
「カイ君。カイ君はそんな男と知り合いなのですか?」
「そんな男だと?」
男のほうはすぐに憤りをみせるが、チカはそんな男など気にしていないようにカイのことを見ている。
「どうなんでしょうか?」
カイは何か後ろめたさがあるのだろう、何かを言うこともなく視線を逸らす。
だけど、そんなカイにチカはさらに近づくべく歩き始める。
見ているのがカイだけということに男は気に入らなかったのだろうか声を荒げる。
「おいおい、無視をするなよ!ああ?何をこいつばかりを見てやがる?どう考えても重要なのはこの俺様だろうがよ!」
そして男はチカの視線に入るべく、カイの前に立つ。
そのせいで、チカの視線に否応なしに男が映る。
「何か?」
「何かじゃねえんだよ。俺様はな、こいつの雇い主なんだよ。わかるか?こいつに話をするのなら、俺様に話を通すのが筋だろ?ええ?」
「そうなのでしょうか?」
常識がわかっていないチカは男にそう言われると視線を向ける。
すぐに男は、チカのことを値踏みするようにして見ると、下品な笑みを浮かべると口を開く。
「ああ、まずは両膝をついてお願いしてもらおうか!そして一晩夜の相手でもしてもらおうか!だったら、こいつとはいつでも話をする権利を与えてやろう!」
男がそう言葉にしたのには理由があった。
それは、チカの容姿が整っていたからだ。
腰まで伸びた長い髪に、身長は小さいながらも出るところは出ている女性的な魅力がありながらも、鍛えていることによって姿勢もいい。
整った顔立ちは親譲りではあるが、呪いのせいなのか髪は白くさらには目はかなり希少である青と黄のオッドアイだ。
そんな見た目をしていることから、男が下品な要求をしてくるのも頷けた。
だけど、チカは自分の容姿が綺麗だとは思っていなかった。
というのも、全ては呪いのせいだったからだ。
普通であれば、キンゲン家では水属性の魔法を操ることができるからか、髪と目は青色だからだ。
なのに、生まれたときから違うチカという存在は気味悪がれていた。
だというのに要求する男にチカ自身なんと言葉にしていいかわからなかったが、顔を見て下品な要求をしてくる顔には腹が立っていた。
人を下に見る目というのには覚えがあるからだ。
だけど、そんなタイミングで鐘が鳴る。
急なことでチカたちは隙が生まれていた。
そして、そのタイミングで動いた人物が一人だけいた。
カイだ。
カイはすぐに地面に向けて魔法を放つ。
「幻影の魔法”ファントム”」
その声とともに周りは霧に包まれる。
「おい、勝手なことをするな!」
「仕方ありませんよ。そろそろプロテクトの効果が切れますから……」
「ちっ、役立たずが……ま、お前のことを知っていたなら、すぐに会えるだろうからな!ははは!」
男の笑い声は聞こえていたが、すぐに遠ざかっていくのがわかった。
チカはその場でどうするべきか考えた結果……
「今は戻りましょうか……」
チカはそう言葉にしながらも、歩いていくのだった。
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