14、臨時の仲間
魚が男の子が襲う前に、チカは間に入る。
「え?」
急に現れた存在ではあり、男の子のほうは驚く声をあげるが、魚はさすがというべきか、チカに気付いていたようですぐに攻撃をしかけてくる。
反応が速い。
さすがですね……
でも、あたしだって出てきたからにはそう簡単にはやられません。
チカは魚の拳を受け流す。
一撃一撃は重いが、先ほど男たちを殴った動きを見ていたこともあり、どういう攻撃をするのかある程度わかっているからこそ、受け流すことは容易かった。
「キシャアアアアアアアア」
「怒っていても、動きがわかればいけます。そして……」
「ギャシャアアア……」
「カウンターを打ち込むことも……」
見切ったうえで、攻撃を当てる。
だけど、すぐに殴った拳に違和感を感じる。
とはいえ、魚の勢いもあり、攻撃が当たった魚は川に勢いよく飛んでいく。
なんとかカウンターを成功させ、これですぐには魚がこちらに向かってくることはないだろう。
普通であれば、攻撃を当てたのであれば追撃を行うところではあったが、すぐにチカは踵を返すと男の子のほうへ走ると、手を取る。
「え?」
「逃げますね」
「ええええええええええ!」
驚く男の子をお姫様抱っこをすると荷物を抱えながら走り出す。
地図は頭に入っている。
最低限、この川からは離れないといけない。
チカはそう考えて走るのだった。
「はあ……なんとかなりましたね」
「あ、あの……」
「す、すみません」
申し訳なさそうな言葉が近くから聞こえて、チカは男の子を抱っこしていたことを思い出し、慌てて男の子を地面に下ろす。
慌てていたためちゃんと見れていなかったこともあり、今更ながらにチカは気づく。
男の子は思っていたよりも小さくはなく、チカよりも少し身長が高いくらいだったことに……
もしかして……
チカはそこでとあることに気付く。
もしかして、チカよりも男の子は年上なのではないのかということを……
どうして気づかなかったのでしょうか?
自分よりも細く華奢だと思われる体を見れば、その可能性があるということくらいわかっていたはずなのに、失念していました。
チカは恐る恐る聞いてみる。
「つかぬことを窺うのですが、あなたは何歳でしょうか?」
「え?十二歳だけど……」
「三歳下でしたか……」
「って、そんなことよりも、戻らないと!」
「無理でしょう」
「どうして?じゃないとあいつらに……」
「あの男たちと何かあるのは理解しましたが、それでも戻るのは間違いですね」
「なんでですか!」
「これを見てください」
チカはそう言葉にすると、自分の拳を男の子に見せる。
そこにあったのは血だらけの手だった。
チカも殴ったときに違和感を感じて見ないようにしてはいたものの、殴った拳のほうがここまで傷をつけられると思わなかった。
それほどまでに相手である、あの魚の魔物が自分たちよりも格上だったということだろう。
「だ、大丈夫なんですか?」
「これくらいの傷はなんともありません」
実際に、これまでの修行を行っていたときには、こういうことは普通にあったからだ。
だが、男の子は不安そうに口にする。
「でも……」
「心配はいりません。ちゃんと動きますから」
チカはそう言葉にすると、手を動かす。
それに、血は確かについているものの、少しずつ治り始めているのか、新しい血は流れていない。
「本当ですか?」
「はい。ですので、ここからどうするか決めませんか?」
「ここからですか?」
「はい。あたしはここからは中央都市に行こうと思っているんですが……」
チカは自分の目的をすぐに口にする。
男の子のほうは、少し考えているようだった。
「えっと僕は……」
「言いたくないのであれば、無理にいわなくても大丈夫ですよ」
何か口ごもる理由があると思ったのだろうとチカは気を使ったが、男の子はすぐに考えをまとめたのか、言う。
「僕は……そうだね。あなたと同じように中央都市へ行くよ。僕は戻るっていうほうが正しいけどね」
「そうなんですか?それでは、中央都市出身なのですね」
「一応はね……」
男の子はどこか自信なさげに答えていることから、チカは何かがあるのではと感じてしまう。
とはいえ、チカ自身も自分のことについては聞かれたくないことがあるのも事実なので、ここで余計な詮索をしてはいけないこともわかっていた。
チカはすぐに話題を変えるべく口を開く。
「では、中央都市までどうやっていくのかを考えましょうか」
「だね。えっとちなみに……」
「チカです。チカ」
今更ながらに名前を名乗る。
「チカさんですね。僕は、カイ・ゼンマ」
男の子も名前を名乗ると、ようやく二人は打ち解けた気がした。
「カイ君ですね。よろしくお願いいたします」
「えっと、はい。よろしくお願いします。少し調子が狂うんですが」
「どういう意味でしょうか?」
チカはカイにそう言われても理解はできなかった。
だけど、なんとなく察することはあった。
チカ自身が、貴族と呼ばれる存在だからだ。
少しではあったが、他の人と常識がずれているのではと感じることは多くあったが、それも一つの個性だとキキルに最初に言われたので気にしていなかったけれど、他の人にも同じように言われてしまうことを考えると気にしなければいけないように感じてしまう。
「おかしいでしょうか?」
「い、いいえ……そんなことはないですね」
「そうですか。本当ならいいのですが、まずは中央都市へ行きましょうか。あの魚が追手こないとは限りませんですからね」
チカがそう言うと、途端にカイは周りを警戒するようにキョロキョロと見る。
「確かに、考えていませんでした」
何もいないことに安堵しながらも、先ほどよりも緊張していた。
とはいえ、やることは変わりないことをわかっていたチカは体をほぐし始める。
「よし、では……」
「あの、何をしようとしているのでしょうか?」
その姿を見て、カイは不思議そうに聞く。
「何をと言われましても走る準備でしょうか?」
「走る?」
チカにそう言われてもわかっていないようで、カイは再度聞き直す。
「はい。中央都市まで」
だが、チカは当たり前だという感じでそう口にする。
とはいえ、そう言われたところでカイにはわけがわからないことだった。
だって、普通の人であればここ依頼を受けた場所である、帰らずの森と呼ばれているこの場所から中央都市から馬車で一日。
歩いていけば二日以上はかかってしまうほどだからだ。
それを走っていく、なんていうことは普通であればあり得ないし誰もやろうとすら思わなかったことだからだ。
「あの、聞いてもいいですか?」
「なんですか?」
「チカさんは、ここまでどうやってこられたのでしょうか?」
「えっと、走ってですね」
普通に答えるチカに、カイはまさしくポカンとしてしまう。
「は、走って?」
「はい。おかしかったでしょうか?」
「か、かなり……」
チカにはわかっていなかった。
普通の人はそんなことはしないということを……
それに、普通の冒険者であればいろいろな装備を持つというのが普通だ。
魔法を使うにあたっても通常であれば杖を持っている。
だとすれば、そんなにも持ち物がある状態で、長距離を移動することがないことだ。
もし移動するのであれば、馬車などを使うことが当たり前のことだからだ。
とはいえ、チカは普通ではなかった。
大きな荷物を持っていることから、それはわかることではあったが……
それを普通ではないと知らないチカは聞く。
「では、ここからどうやってこられたのですか?」
「馬車ですよ」
「そうなんですね」
また一つ勉強になった。
チカは心の中でそう考える。
そして、すぐにカイはチカに提案する。
「だから、その馬車で戻りましょうよ、チカさん」
「そ、そうですね」
本当はまだ体を鍛えたいとは思いながらも、それをさすがに口にはできない。
さすがのチカもこの状況で何を言うべきなのかくらいはわきまえているつもりだった。
そうしてチカとカイは、カイたちが乗ってきた馬車へと向かうのだった。
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