13、変わった魔物
滝の上側へとやってきたチカは、周りを見る。
普段と少し違う雰囲気というものを感じる。
具体的に何かというのはわからないが、魔力がほとんどなく魔法を使えないからこそ、自分にないものを感じることができている。
「嫌な何かを感じますね」
その何かがわからない以上は、警戒を強めなければいけなかった。
これまでであればチカが違和感を感じるよりも前に、キキルが何かに気付いてくれていたけれど、今はいない以上は、全てを一人でやる必要があることを今更ながらに思い出し、少し不安になる。
「でも、やると決めたはずです!」
自分を奮い立たせるように、そう言葉にしたときだった。
話し声というのが遠くから聞こえてきた。
「ええっと、ええっと……」
ここでチカは考える。
どうしてこの場所にきたのかを知る必要がある。
もし、先ほどチカが見た魔物を倒しに来ている冒険者であった場合、チカが邪魔をするという形になってしまうし、無駄な争いを起こしてしまう可能性だってあるからだった。
そこまで考えて、チカは隠れることにした。
見つかることもなく隠れられたおかげで、気づかれることもない。
そして、すぐに話し声が鮮明に聞こえてくる。
「ここでいいんだな?」
「はい、大丈夫です」
「だったら探せや!」
隠れるように様子を窺っていたチカは、その言葉とともに蹴られる男の子を見る。
酷い扱いだと普通の人たちであれば思うのかもしれないが、チカはそう感じていなかった。
というのも、蹴られた男の子自身の目が死んでいなかったからだ。
あの目は、家にいたときに自分自身に似ている。
そんなことを感じていたからこそ、余計な手出しはするべきではないと考えた。
理不尽にあっても、やるべき目的があって、そのために頑張っているのではないかということを……
「探索魔法”サーチ”」
男の子は前に出るをすぐにそう言葉にする。
魔法なのだろうか?
魔力の揺らぎのようなものを感じたチカだったが、男の子はこちらの存在に気付いた様子はない。
だけど、何かを感じたのか一点を見つめる。
「見つけたのか?」
「はい。僕の視線の先に魔力が大きい存在がいます」
「そうか。じゃあ、やるぞ」
リーダーらしい男がそう言ったところで、周りの男たちが立ち上がる。
居場所を突き止めた男の子も同じようについていこうとするが、リーダーの男に体を押される。
「お前は参加しなくていい。足手まといだからな」
「そ、そんな」
「不満か?だったら、お前一人で戦うか?」
「それは……」
「だったら大人しくしていろよ。雑用係なんだからな」
そう言われてしまった男の子は、何も言えずにその場にとどまることになる。
「見つけたのは、あの男の子でしょ?どうしてあんな理不尽なことをするのかしら……」
小さな声とはいえ、チカは思わずそう口にしてしまう。
だけど、そんな声は男たちに届くことはなく、男の一人が杖を取り出すと魔法を唱える。
「炎魔法”ファイアー”」
ゴオっと音が鳴りながら、魔法によって作り出された炎が狙った場所に当たる。
川がボンという音とともに、一部が蒸発する。
そして、中にいたであろう魔物が出てくる。
「なんだ、この見た目はよ」
「少し気持ち悪いですね、リーダー」
「ま、気持ち悪い見た目だろうとやることに変わりはない。そうだろ?」
「違いねえ」
男たちはそう言葉にすると、見たこともない魔物に向かっていく。
見たことがない魔物というのは、魚なのに人と同じように足と手が着いている存在だった。
男たちが気持ち悪いというのも理解できる見た目ではあったが、油断できる相手なのかわからない以上は、警戒するくらいがいい。
でも、警戒しすぎて緊張して体が動かないというのはダメだから、いつでも動けるようにしておく。
キキルから、戦闘の心得として、チカはそう教わっていた。
今回のようにわからない相手に油断した姿を見せていいのかと考えていたとき、男たちは先手をうつ。
「もう一度魔法をうつ。炎魔法”ファイアー”」
先ほどと同じ魔法を男は放つ。
飛んでくる魔法を見ても、魚はほとんど動く感じがない。
直撃すると誰もが思ったタイミングで、チカはそれを見てしまう。
いや、見えてしまうと言った方がよかったのかもしれないが……
炎が収まったときに、男たちはそこに何もいないことに気付く。
男たちは、倒したと考えているだろう。
だが、チカは見えていた。
先ほどの炎というのは、ただ避けられてしまっただけだということを……
だけど、男たちというのはそれに気づいていない。
完全に見えなくなってしまったことから、魔法を放った男が自信満々に言葉にする。
「どうですかリーダー、魔法で消し飛びましたぜ」
「おいおい、珍しいやつだったから、素材を回収くらいはしたかったな」
「それはすいません。思ったよりも弱かったもので」
「確かにな」
男たちは笑いあう。
だけど、見えていたチカと、そして魔法でわかっているのか、男の子も警戒を解いてはいなかった。
すると、案の定というべきか、先ほどの魔物は、川の中から出てくると生えていると表現したらいいのか、その拳で魔法を使う男を殴り飛ばした。
ドンという衝撃とともにあり得ない勢いで魔法を使った男は飛んでいく。
それを見たチカは直感的に感じてしまった。
今の自分では倒すことができないと……
だが男たちは違ったようで、仲間をやられたからなのか、突っ込んでいく。
「やりやがったな」
「いくぞおら!」
男たちは無策で突っ込んいき、そのまま同じように飛んでいく。
「シャシャシャシャ」
「笑っているのでしょうか?」
奇妙な声を上げる魔物にチカは驚く。
まるで魔物が意志をもっていると感じてしまう。
いつもとは全く違う魔物。
そういった魔物がいるという理由をチカはなんとなくわかっている。
「近くに迷宮があるということなのでしょうか?でも、ギルドマスターはそんなことを言っていませんでしたよね」
だけど、実際のところどれだけの数の迷宮があるのかというのは、わからない。
迷宮を作ったとされる魔法使いが言っていることが本当だというのであれば、変わった魔物がいる場所には、迷宮があるのではないかとギルドマスターも言っていた。
だから、こうやってほとんど見たことがない魔物がいるところでは迷宮が見つかることが多いと聞いた。
「ですが、もらった地図には、書いてありませんでしたよね」
チカは地図の中身を思い出しながらそう考えていたのだが、そんなときだった。
「うわああああああ」
「まずいですよね」
男の子の声によって現実に引き戻される。
一人だけ残っていた男の子がまずい状況だということに気付く。
本当であれば助ける意味はないのかもしれない。
でも、チカが憧れたのは物語の存在だ。
そうなれば……
「助けるのが当たり前ですよね」
チカはそう考えると、前に出た。
「キシャアアアアアアアア」
そんな声とともに魚の魔物は男の子へと向かっていくのだった。
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