120、筋肉と魔法
全ての用意が終わる。
後は実行することだけだった。
「ふ、さすが我がいるからな。用意もすぐに終わったな」
「カイちゃんがいてくれたから、速く終わったんだよー」
クロとアンノのいわば正反対の反応をよそに、本当にすぐに準備というものは終わった。
転移魔法というものについては、実はかなり使い勝手がいいものだ。
それは、転移させるものを選択できるという点が強い。
戦いの中でもあったように転移魔法というのは、魔法を転移できる。
それは魔力も例外ではなく、転移させることができるというところだ。
「お願いします」
チカの言葉によって、魔法は発動される。
竜の姿が見えないと思っていたが、魔法を発動するときにクロがつけていた指輪の一つが輝きだしたのを見ると、竜と繋がる何かなのだろう。
ゆっくりと黒い穴のようなものができあがる。
「禍々しいんだけど」
それを見て、思わずキキルはそう言葉にしてしまうが、全員が感じていることでもあった。
暴れ狂う魔力というのは、強大で強力。
そんなことは誰もがわかっていても、いざ目の前にすると恐怖を隠すことは難しい。
だが、チカはその強大な魔力に対して、特に怖いとは思わない。
これは、自分の中にいたもう一人の自分という存在が黒い魔力をもっていたからだ。
「行くぞ」
「はい」
チカの元に、強大な魔力が溢れていく。
一瞬で真っ黒な魔力で包まれるとチカの意識は、黒い場所へと飛んでいく。
「来たか」
「はい。来ました」
「何を泣いてるんだ?」
「泣いていますか、あたし?」
「は、気づかないのかよ」
もう一人の自分に言われて、チカ自身目の辺りを指で拭う。
すると、確かに指には水滴がついている。
どうして泣いているのか、わからないわけではなかった。
自分自身で切り離した、切り捨てた感情というものが、確実に戻ってくることがないことがわかっているからだ。
「なんだ?全てを終わらせるんだろ?」
「はい」
「だったら、迷うな。わかってるだろ?」
「わかっています」
「抑え込むなら、最後まで出すな」
「そうですね」
「飲み込まれるなよ」
「はい」
「よし、じゃあな!」
真っ黒な自分自身はチカの手にハイタッチをすると、黒い空間はなくなった。
それと同時に、戻ったのは元の世界。
そして、目の前にいるのは真っ黒な自分自身だった。
「チカ!」
「すみません。あれと全員で戦います」
「なんだか、わかんないけど、オッケー」
こうして全員が武器を構える。
それと同時に黒い自分自身は、動く。
「速いな!」
「任せろ!」
マモルが反応するよりも速く、カイがマモルの前に壁を作り出すと、待ってましたとばかりにそれに触れる。
すぐにカイの作り出した壁が強化されていくと、黒いチカの拳を受け止める。
「お姉様。次はスイがやるです」
「お姉ちゃんもね!」
次には水の分身を作り出したスイと、無数の箱を作り出したアイの二つを合わせた攻撃だった。
水によってあり得ないほどの速度になった分身が、黒いチカを削っていく。
「キキル!」
「おっけー、うちらも面白いことをやろっか!」
チカとキキルは一本の剣を二人で握る。
キキルには、一つだけやりたいことがあった。
チカには武技は使えないのは、そもそも武器を使ったことがないので当たり前ではあったため、キキルが考えた、もし一度でもチカに魔力があって剣のような武器を一つでも扱うことができたのなら、どんな存在になっていたのだろうと、考えてしまった。
そんなときにラスに出会って、一つの剣に出会った。
かなりの高度な魔力操作を必要とするものの、通常とは少し違う点もある。
それは、武技のように完全に動きをコピーしなくてもいいものだったからだ。
多少のずれよりも、一瞬にかける魔力操作が、技の出来を操作する。
だったら、ラスが使う技を本当の意味で最強として扱うにはどうすればいいのか?
答えは簡単だった。
全力で剣を振るタイミングで、魔力を流せばいいだけだ。
「チカ!全力で振り下ろして!」
「わかりました!」
「「はあああああああああ!」」
そして、二人の声が児玉する。
圧倒的な力で振り下ろされた剣に一瞬だけ魔力が乗ると、黒い自分自身をチカとキキルは切り伏せた。
まさに筋肉と魔法の共闘だろう。
二人を見ていたものたちはきっとそう思うはずだった。
誰も不幸になることもなく、世界は救われる。
喜ぶ周りとは真逆に、チカには何の感情の変化も訪れることはなかった。
そして……
チカの意識は途切れた。
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