119、自分と怒りと
「クロ!」
「なんだよ」
「やりたかったことを、教えてー」
「我の完璧な計画をか?」
「そうそう。どうせ、チカちゃんたちができなかったら、それをやるんでしょー?」
「そうだが……まあいいだろう」
クロはそう言うと、恰好つけて話をする。
「まず、一番重要なのは我と竜とアンノの魔力だ」
「魔力ですか?」
「そうだ。我らの魔力というのは、大魔法使いたちの中でも特別に多い。これは、他の大魔法使いもわかっていることだ。だから我は竜という喋ることができる特別な存在と一緒にいたし、アンノに至っては一人であの塔を魔力で作りだすほどだぞ。最強に決まってるだろ?」
「そうかもしれませんが、それがどうなるんですか?」
「ふ……決まっている。外の世界をできるだけそれの中へ転移させる」
何を言っているのだろう。
普通の人たちであれば、そう思うかもしれないことではあったが、確かにできそうなことではあった。
だけど、そうなると考えられることがあった。
「もし、転移させて器が壊れてしまったら?」
「そのために、二つの器があるのだろう?」
「それは!」
そんなことに使うために、彼女が二つもっているわけではない。
チカはそう言葉にしたかったが、言っていることは理解できた。
人と魔物。
二つが混ざり合いながらも一つの存在が出来上がっているのは、確かに彼女しかいない。
でも、そんなことになると彼女はどうなる?
絶対に助かることはないだろう。
「さあ、我の完璧な計画をどう崩す?」
クロに言われても答えはすぐにでない。
名前も知らない彼女を助けるべきなのかも正直なことを言えば、チカにはわからなかった。
迷えば迷うほど、悩めば悩むほど、答えというのは遠ざかっていくのはチカ自身わかってはいるものの、ここまできて失敗ができないことを考えると、余計にぐちゃぐちゃに悩んでしまう。
そして、そうなって生まれたのが、自分に対しての怒りだった。
そんなチカの頭に痛みが走った後、彼女にはいつかの黒い空間が現れた。
「おい、あたしを思い出すんじゃねえよ」
「だって、仕方ありませんでした」
「自分に敬語を使うなよ、気持ち悪い」
「あ、あたしだったら、そんな言葉使いはしません」
「そう思うのなら、ここに戻ってくるな」
いつかの場所というのは、魔力に込められた感情によって、支配された空間だった。
その場所というのは、怒りだった。
「あたしはどうしたらいいと思いますか?」
「あたしに聞くな、自分自身だろ?」
いつものように、もう一人の自分というのは怒りながらもそう答える。
このもう一人がなんなのか、正直なところわかっていない。
でも、どうしてか、この空間には安心感というものがあった。
自分には足りないと思っていた一つがあるからかもしれない。
怒り。
それは、チカには縁がありながらも、縁がないものだった。
何を言っているのか?
それは、チカが子供のときにあったことを簡単に説明すればわかる。
実の父親ではない相手に育てられていたチカは、魔法も使えずにいじめを受けていた。
最初は確かにされたことに怒りを覚えていたものの、怒ったところで意味がないと感じたチカは怒りを忘れて体を鍛えるようにした。
自分の体が力を持つようになって、チカは怒りというものが基本的にわかなくなっていた。
だからこそ、チカは怒りというものの感情をコントロールすることもなく、切り捨てたせいで怒りがどんなものかがわからなくなっていた。
そうなれば、唯一の怒りを本気で覚えられる力というものに、チカ自身心地よくなってしまって頼ってしまった。
「あたしには怒るという感情がわかるようでわかりません」
「別のものとして、あたしがいるせいだな」
「そうですね」
だからこそ、ないものが体でコントロールできるはずもなくため込んで力として使ったり、暴走したりしたのが、目の前にいるもう一人の自分だ。
わかっているのであれば、答えは一つ見つかったのかもしれない。
だけど、それでは……
チカは再度考え出したところで、頭を叩かれる。
「おい、悩むな」
「ふふ、そうですね」
「なんで、嬉しそうなんだよ」
「あたしには、怒りはわかりません。それは、あたし自身が一番わかっていることですよね」
「ちっ、そうだ」
もう一人の黒い自分は、その言葉に怒りしか覚えない。
逆にチカはそんな自分を見て決心をする。
「ちっ……ちゃんとやれよ」
「うん」
チカは自分に返事をすると、黒い空間から戻ってくる。
「チ、チカ?」
「どうかしましたか?」
「それはうちらのセリフだって……急に完全に黙り込むからさ」
キキルたちは心配そうにチカを見ていた。
だけど、チカがどこか晴れやかな表情をしているものだから、驚いていた。
何かいい案が思いついたということなのだろう。
誰もがそう考えたが、チカからの言葉は予想外のものだった。
「クロ」
「なんだ?いい案が思いついたとでもいうのか?」
「はい。あたしに、先ほどしようとしていたことをしてください」
「な、何をいっている?」
「わかりませんか?先ほど、彼女にやろうとしていたことですよ?」
「何を言いたいのかはわかった。だからこそ忠告しておいてやる。無理だ」
「どうしてですか?」
「わかっているだろう?お前は確かに普通ではないかもしれない。だが、一人だ。だから無理なのだ」
クロは、さも当然のようにそう言葉にする。
チカもクロの言いたいことというのはわかった。
でも、だからこそ言ってやると決めていた。
「あたしのことを、わざわざ試したのに、ここでは試してくれないんですね?」
「何を……」
「大魔法使いは、あたしにそんなこともできないのですか?」
「くそ、だったらやってやる、後悔するなよ」
「大丈夫ですよ」
チカの先ほどまでとは違う、何事でもないかのような口調にはクロも戸惑いを隠せない。
そして、それは他のみんなも一緒だった。
「チカ?何を言ってるのか、わかってるの?」
「はい。でも、大丈夫ですから」
「お姉様。スイは信じているです」
「お姉ちゃんも」
チカの元に全員が近づいていくが、女性三人が前に行ったことで、男二人は出遅れる。
「乗り遅れたな」
「いいんじゃないのか?」
「は、なんだよ。わかってる感か?」
「急に変なことを言うなよ」
そう言葉にしながらも、カイは思い出していた。
(最初から、チカは強引だった。今回だってそうだ。強引でいい。引っ張られれば、引っ張られるほど、ついていきがいがある)
だからこそ……
「よし、僕も手伝ってくる」
この中で唯一転移魔法が使えるカイも、クロたちの元へと合流した。
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