12、道中の修行
馬車を使わない理由。
それは体を鍛えるのにちょうどいいと考えたからだ。
まずは走って中央都市に行こうとしていた。
通常では、馬車などを使い二日ほどかかるらしい。
人の足ではどれくらいの距離になるのかはわからないが、鍛えるためと考えれば苦にはならない。
「トレーニングの前にはしっかりと体をほぐしてと……食料もしっかりと買い込んだし、足りないものはないはずですね」
そう考えたチカはぐっと地面を蹴った。
町の中でなければ、全力で地面を蹴ることができる。
体を鍛える基本として、走り込みをしていたことを思い出す。
「ほっ、ほっ、ほっ……こういうのもいいですね」
ギルドマスターにもらった地図を見ながら歩を進めていると、体を鍛えるのに使えそうな場所というのを見つけていた。
中央都市に行くまでに、森の中に入ることになる。
地図では、滝がありそこを迂回するようにして順路が存在しているが、どうせなら滝の横の岩壁を登れないかと考えて現在実行中だった。
滝の水しぶきによって、岩は滑るようになっており、腕を鍛えるのに丁度いい感じだった。
問題点とすれば、思ったよりも高く、下を見れば怖いということくらいだ。
チカはなんとか下を見ないようにしながらも上に登っていくときだった。
ドンという音とともに、滝の下……滝壺から大きな何かが飛び出してきたのは……
「な、なんでしょうか?」
そんな風にして驚いたせいなのか、チカは油断する。
「あ!」
ダメだと思ったときには遅く、チカは手を滑らせて、それなりの高さから落下していた。
それも滝から離れたところを登っていたせいで、下には石しかない。
この高さから石の上に着地はできない。
チカはそう考えて、空中で態勢を整えると岩壁を蹴る。
これによって、水に飛び込むことでかなりの高さから落ちても大丈夫だという状況をつくりたかったのだけど、予想外のことはちゃんと起こる。
「強すぎました!」
本来であればうまくいくはずだった。
だけれど、こういう場面をこれまで経験したことがなかったせいもあり、完全に力加減を間違えてしまったチカは、勢いよく岩壁を蹴りすぎた。
明らかに勢いが強すぎたため、チカの体は一直線に滝に向かって行く。
チカは滝にぶつかることを覚悟すると、両手を顔の前でクロスさせる。
「あ、あ、あああああああああ!ひゃぶ……ぶは……」
元令嬢とは思えないような声を出しながらも滝にチカはぶつかった。
とはいえ滝にぶつかると、予想通りになんとか落下の勢いは弱まったが、あまりの出来事に息を止めることを忘れていたせいもあり、ほんの少し溺れかけてしまった。
なんとかすぐに冷静になったものの、無理は禁物だということを改めて思いながらも、地面にたどり着いたチカは一息ついた。
「はあ……なんとかなりましたが、昔読んだ物語のように滝の後ろに秘密の空洞があったら、危なかったですね」
そう言葉にしながらも、チカは水から上がると服と荷物を確認する。
カバンは、ギルドマスターから旅立ちに持っていくといいと渡されたもので、かなりいいものだったため、中が水に濡れているなんてこともない。
「服は絞ればいいですよね」
ぎゅっと服を絞って濡れた服を乾かす。
そして、気になったものの正体を追いかけるようにして上を向く。
先ほど見た大きな何かはなんだったのか?
「あの大きさ、普通ではありませんよね。となると、やっぱり魔物なのでしょうか?」
ギルドマスターから確認した、魔物というものの真実として、昔の魔法使いが消費してきた魔力が現在の魔物という存在を作ってしまったことを知った。
一つは迷宮であり、そこでは見たこともない魔物が生まれるとされている。
二つ目は、現在使っている魔力を伴う魔法や剣技を扱うことで漏れ出す魔力が魔物に変化するものだ。
空中に漂った魔力が少しずつ集まることによって魔物が生まれていると説明された。
多くの魔力を使う、もしくは時間が立てば、魔力が集まりより強い魔物が迷宮でなくても、生まれるらしい。
そしてその強い魔物というのは、弱い魔物を倒すことでそれを吸収してさらに強くなるのだという。
だが、そこまで強い魔物になる前に、普通であれば倒されることが多いため出会うことはないということがわかっている。
だけど先ほど見た存在というのは、予想よりも大きな存在だった。
そこから考えられることというのは、あの魔物はそれなりの脅威がある存在である可能性がある。
「冒険者として、調べる必要がありますよね」
決して戦ってみたいなどという理由ではない。
決して……
チカは自分にそう言い聞かせると、どうするべきか悩む。
このまま滝の横を先ほどと同じよう上がっていくということもいいかもしれないけれど、先ほどの大きさの魚が、もし今度は上から降ってくるようなことになれば、対処するというのが難しくなる可能性だってあった。
面倒ではあったが、ここは普通に横の道から上にいくというのが安全になるだろう。
「ですが、やりたいことがないわけではありません」
こういう滝というべきか、水辺でやりたいことがあった。
物語で読んだことがある内容で、拳で滝を割ることができるというものだった。
実際に試してみたことはあった。
だけど、物語の世界と現実は違う。
水に向けて拳を振ってみても、風圧で水が割れるなんてこともなく、水面が少し揺れるくらいにしかならない。
「ですが、まだあのときは小さかったですけれど、今はあのときよりも大きくも強くもなったはずですよね」
チカはそう言葉にすると、滝の近くに立つ。
こういうのは水辺で行うべきというのはわかってはいたが、力を込めたところで足場が悪いとうまくいかなかったら嫌だと思ったからだ。
「行きます!」
ぐっと体に力を込めると、そのままの勢いで拳を振りぬいた。
ブンという音とともに、昔よりもさらに強力な威力の拳の一閃ではあったが、予想通り昔よりも水面が揺れることはあっても、物語のように滝が割れることはなかった。
「やはり、物語のようにうまくはいきませんね」
とはいえ、チカは自分の成長というのを少し感じていた。
それは、揺れる勢いがこれまでよりも強かっただけではあったが……
「諦めて、上に行くしかありませんか……」
滝の上を見ながらチカは歩いていくのだった。
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