117、男の正体とチカに見えていたもの
チカと仮面の男は、お互いの拳を突き合わせていた。
「やるな」
「そちらこそ」
魔法を使う仮面の男と、生身でそれに追いつくチカ。
どちらがすごいのかといえば、一目瞭然ではあったが、チカは仮面の男が使う魔法に驚いていた。
通常、魔法というのはそれ単体で完成することが多い。
特に属性の魔法というのは、それだけで脅威となり得るため、余計にわざわざ体を使って攻撃してくるようなことはない。
だというのに、男の攻撃というのは、わざわざチカに向かってくる。
そして、拳を合わせてくるのだ。
普通であれば、そんなことをしてしまえば、肉体的に鍛えていたチカが勝るはずではあったが、そうはならないということは、それだけ魔法の扱いとそれに合わせた体の使い方がうまいということだろう。
さらにいえば、後ろから魔法を撃つよりも、近づいてきて魔法を使うほうが厄介だ。
それは、チカのスピードに追い付いているということに違いがないからだ。
実際に今回でいえば、チカのスピードに追い付くために水魔法で地面との抵抗をなくしている。
チカがその水の上を移動すれば水に足を取られる可能性が高く、仮面の男はむしろそれを利用できる。
仕方ありません。
チカは動きを止めて立ち止まると、その場で拳を突き上げた。
「はあああああ!」
「なに!」
慌てて仮面の男は避けるが、チカはその場にとどまる。
「気づいたか」
「何にですか?」
「いや、なんでもない」
動いて戦うほうが、仮面の男にとっては戦いやすい。
水を魔法によって全方位に展開できるし、立ち止まられると動くメリットがない。
そして、チカの特殊な能力。
魔力をその体に取り込むという能力を前にすれば、仮面の男で突破することが難しいことをわかっていたからだ。
「動かないのか?」
「こうするのが一番いいと思いましたから」
「そうか」
「はい。お父様こそ、次の一手はないのですか?」
「!!そうか、気づいていたか」
「はい」
仮面の男は観念したようにつけていた仮面をとる。
そこにあったのは、チカとはそこまで似ているとは言い難いが、それでも面影がある顔だった。
「いつから気付いていた?」
「初めて出会ったときから、違和感は感じていました」
「そうか……」
「確信に変わったのは、あたしの父親が違うと聞いたときからですね」
初めての時から、チカは感じていた。
敵であろうとするはずなのに、仮面の男から感じられた気持ちというべきか、チカたちを試すような形で戦いを行っていた。
そこから考えられるのは、仮面の男がチカの肉親である可能性が高いと考えてしまうのは仕方ないことだ。
そして、予想通りだった。
「ふ?どうだ?父親と戦っていてな!」
「何も、思いません」
「なに?」
チカの言葉に、さすがの仮面の男も予想外だった。
仮面の男としては、このタイミングで本当の父親と戦うことへの葛藤だったり、何をしようとしているのかも含めて、教えたことで悩んで答えを出してもらうつもりだった。
だが、チカはすでに答えを出した状態だ。
そのため実の父親に何かを言われたところで止まることもない。
チカには大切な仲間たちがいる。
そんなみんなを裏切るようなことはできないし、そもそもチカが見えているものが違っていたからだ。
「そうか!父親とは違う道を進むのか!」
「違う道ですか?いいえ、あたしが進む道は誰かと違う道ではありません」
「なに?」
「あたしが進む道は……ただ、みんながこの先もやりたいことができて、できる限りの笑顔でいられるような世界にすること、それだけです!」
(見えている未来が違うか……)
仮面の男は感じていた。
仮面の男が目指した先というのは、大魔法使いたちを利用した、今と同じような未来。
だけど、チカが目指している先というのは、無謀であっても全てが解決した世界。
だからこそ、見えるものは違っている。
「だったら、父親を倒していけ!」
「嫌ですね」
チカは、そう言葉にすると、急に仮面の男の方向ではない向きへと駆けていく。
予想はしていた。
もし、ここからさらに何かが起こるタイミングとなれば、このタイミングではないのかと……
「カイ!」
「わかってる!」
チカはカイの名前を呼び、さらには指をさす。
キキルやカイたちは理解していた。
何か特別なことが起こるということを……
チカはその場所へと行くと、人ではない何者かを受け止める。
そして、カイの転移魔法によって全員がこの場に集まると、さらに転移魔法が発動するのだった。
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