110、忘れたはずの力
そもそもチカは魔力がない。
だというのに、魔力が一時的にでも体にあったというのは、体の中に魔力があるということだ。
では、その魔力はどこからきたのかというと、他の人。
そう、誰かの魔力だった。
魔力を使った魔法とは、通常であれば魔法を使っても全ての魔力を使って発動する。
いわば、効率よく発動できるものだが、魔法を使うときには感情というものが余分に存在する。
その結果何が起こるのかというのは、無駄な魔力は魔法に変換されることなく世界の一部へとなり、無駄な魔力が集まってできた生物というものが魔物になる。
普通であればだが……
普通の人は魔力をもっている。
でもチカには魔力がない。
そもそも魔力がない人というのはチカ以外にいない。
世界の一部になっている魔力が魔力がない人にどのような影響を与えるのかを最初はわかっていなかった。
でも、チカの一つ目の力。
これは黒い魔力だった。
怒りなどの感情によって使えるようになったものであり、まるで魔力もそのときのものを身にまとっているかのようだった。
だからこそ、魔法を消せる力を手に入れたとき、すぐに理解した。
消すのではなく魔力を自分自身に取り込んでいるということを……
元々体にないものを体に取り込む。
それは、体にとってかなりの負担になっていることに気付いてはいたものの、なんとかなると考えていた。
でも、竜との戦いでかなりの回数の魔法を体に取り込んだ結果、体に異変が起きてしまった。
「ダメ……」
そう口にするが、取り込んでしまった魔力は止まらない。
暴走という形で内包していた魔力が体があふれ出す。
魔力にのみこまれて、あたしは消えてしまうだろう。
チカは直感的にそう理解したのだった。
自分には何もなくて、特別な力に目覚めたとき、もっと強くなれたと思っていたが、それは自分自身の努力ではない。
わかっていたからこそ、力に頼りきって戦ってはいけないはずだったのに、結果はこのざまだった。
「あたしは……」
そうして、意識が遠のく……
終わっていいのか?
そんな言葉が聞こえたような気がして体に力がこもると自然に自分に言い聞かせる。
「諦めた?諦めることを諦めた?違う……あたしは自分勝手だ。元々、体が弱かった。だから、なんとかしたくて、ずっとずっとやってきた。あたしが力におぼれてどうする?あたしは、あたしがやってきた努力をあたしのためにいかせないでどうするの?」
ゆっくりとチカは体を起こし始める。
「特別な力がなに?そんなものが必要だから、冒険者になったの、あたしは?違うでしょ!」
「ガアアアアア」
「チカ!」
竜は起き上がったチカにトドメをさすべく破壊魔法を放つ。
だけど、チカは見切ったように最小の動きでその攻撃を避けた。
「ふう……」
体から魔力は溢れ出しているおかげか、チカは体に穴が空いているのに立っている。
ゆっくりと竜へと向かっていくチカに、破壊魔法よりも、先ほどのように尻尾で攻撃をしたほうがいいと考えた竜はチカに尻尾を向けるが、まるで何事もなかったかのように、チカはそれを掴む。
誰もが手を出すこともなく見ていることしかできないほどに、何故か見ていることしかできなかった。
まるで金縛りあったようだ。
チカの動きは洗練されたものではなかったが、だからこそ無骨に竜と戦っている。
「ガアアアアア」
「うるさい!あたしは、こんなところで止まるわけにはいかない!」
互いに向き合うと竜はまた破壊魔法を放とうとするが、それよりも速くチカは動くと握りしめた拳を竜にねじ込む。
「ギャアアアアア」
「一撃で倒せないのはわかってます!」
チカはさらに拳を叩き込む。
特別な力に目覚めてから、それに頼ってチカは常に行動していた。
気にするところは常に、その新しい力についてだった。
どうして手に入ったのかわからない力に頼るなんて、普通ではあり得ないというのに……
あたしはバカだった。
副作用があった?だから気を付けて力を使う?
違う!
あたしはそんな力に頼らなくても、強くなるって冒険者になるって最初に決めたんだから!
竜の外皮はそれなりに硬く、殴るたびに拳から少しの血が滲むが知ったことではない。
一撃で足りないのであれば二撃……それでも足りないのであれば三撃……
そう、何度だって繰り返すだけ!
竜へとチカはその拳を振り上げ続け、竜とチカは同時に倒れたのだった。
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