107、黒い竜
転移した先というのは、黒い壁が周りを支配する空間だった。
「我の空間に来たか」
「ここは……」
「そんなことを言っている暇はないぞ。我の作った傑作が行くからな」
クロがそう言った先にいたのは、黒い竜だった。
「ガアアアアア!」
咆哮ののち黒い竜は翼をはためかせる。
動きだした人造物の威圧感に全員が武器を構える。
誰もが翼をはためかせたことから、空を飛ぶと考えたが、黒い竜は違う。
翼から出てきたのは、魔法だった。
黒い玉は速度はゆっくりだが、こちらへと向かってくる。
「俺が盾を構える!」
「スイが魔法を放つです!」
すぐさま盾を構えたマモルが前に立つと同時に後ろから水の分身を作り出したスイが魔法を放つ。
だが、黒い竜が放った魔法というのは、攻撃ではなかった。
竜の魔法は、マモルに当たったと同時にマモルの姿が消える。
「は?うおおおおお!」
「え、です」
二人は驚く。
それもそのはずだった、いつの間にかマモルは竜の前に飛ばされ、スイの魔法を受けるはめになっていたからだ。
転移だということは誰もがわかったものの、スイの魔法はすでに竜へと向かっていたため、途中に転移させられたマモルは避けることができない。
なんとか防いだものの、今度は真後ろの竜に盾ではない体を狙われる。
「あたしが!」
「大丈夫……”翔”」
チカはすでに動きだしていたもの、間に合わない。
そのタイミングで剣を構えていたキキルがその剣を振る。
翔と言って放たれたそれは、一瞬にて剣を振るうことによって魔力を伴った斬撃を飛ばすというものだった。
飛ばされた魔力の剣は、竜へと向かっていく。
竜は攻撃をしようとしていたのをやめ、すぐに魔法を放つと距離をとる。
「マモル!」
「わかってるっての」
マモルはすぐにこちらへ竜へと向けていた背をくるっと回って反転すると、盾を構えながら戻ってくる。
そんなときにチカは魔力が集まっているのを感じた。
マモルであれば防げると普通の魔法であるならば、チカも思っただろう。
竜は口にためていた黒い魔力をマモルに向けて放つのを見た瞬間、すぐに嫌な予感がすると叫ぶ。
「避けてください!」
「うお!」
急に言われて、構えていた盾に掠めながらも、何とかマモルは避けることに成功した。
竜が放った攻撃というのは、これも一つの魔法だった。
空間を操る魔法の一つである、回復魔法。
それを逆にしたものである、破壊魔法だ。
空間を操り、そこにあった全てのものを直すのではなく破壊するそれは、マモルが避けたからよかったものの、掠めただけの魔力を帯びていた盾も意味がなさないで貫通している。
「なんだよ、今のは!」
防げないことに驚きながらも、警戒はさらに強くなる。
「あれは……」
「回復の魔法の逆ですね。お姉ちゃんだって、わかります」
「姉さん」
先ほどの魔法を見て、カイとアイの二人は、何かというものがわかったらしく、その言葉を聞いた他の四人も驚く。
それと同時にカイは理解していた。
(あの竜をなんとかできるのは、僕しかいない……でも……)
絶対に倒すことが無理だと、理解もした。
あの竜を倒すことができる方法というのは、実に簡単ではあった。
転移させる魔法を相殺し、それ以外魔法というのは避けるか破壊するかしながら、竜を攻撃するしかないと……
でも、竜もバカではない。
あの球は転移をいつでもできるものと考えれば、消すとなれば、チカの特別な力があれば簡単だろう。
「はああああああ!」
チカもすぐに転移の魔法が一番危険だと判断したのだろう。
その魔法を消すために力を使う。
チカの腕に触れた途端、確かに転移の魔法は消えた。
でも、次の瞬間には新しい転移の魔法が竜から出ていた。
すぐにまずいと思ったチカは横に飛ぶと、後ろから迫っていたもう一つの転移魔法の玉が今いた場所を通りすぎる。
「ふう……」
「大丈夫、チカ?」
「はい、なんとか」
そうは言ったものの、チカの魔法を一度でどんな能力なのかを見抜いたことからも、敵である竜がかなり危険な存在であることはわかっていた。
魔法は強力であり、さらにいえば、頭もいい。
転移の魔法は消してもすぐに再生。
新しく作り出せてしまう。
だからこそ、カイは同じ魔法である転移魔法をぶつけることによって、互いの魔法が干渉し無効化できるのではないかと考えていた。
でも、問題もあった。
それは、転移魔法を常に展開している竜と違い、カイの転移魔法は一時的に場所と場所をつなぐものだからだ。
基本的には、これはクロも同じで竜のようにずっと展開できるわけではない。
だから、相手がどこにいるのかわかるようにと黒い短剣を渡すことで、それを座標として転移するようにしている。
竜というのは、その内包された圧倒的な魔力でずっと転移魔法を出せていられる。
転移魔法は消しても意味はないとなれば、同じ転移魔法をぶつけるしかない。
でも、動き続ける転移魔法に転移魔法をぶつけるのは難しいというよりも無理に近い。
目印があればまだしも、ないのだから……
「お姉ちゃんの力が必要?」
そんなときにアイが言う。
カイは、その言葉にすぐに頷くのだった。
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