10、心変わり
「言いたいことは言えた、じゃあな。これだけは渡しておく」
男はそう言葉にすると、世界は光に包まれる。
チカとキキルは、光に目を開けることができず、落ち着くまで目を閉じていた。
光が収まったとき、二人の手には小さな短剣が握られていた。
「それは、迷宮に挑戦するための鍵だ。どうするのか、考えてから使えばいい。それだけだ」
そこで男の声は途切れる。
こんな秘密が迷宮にあると思っていなかった二人は、少しの間立ち尽くした。
迷宮は、二人が来た時と同じ見た目に戻った。
入ったときに感じていたような違和感というものもなくなっている。
元に戻ってきたということなのだろう。
「キキル、戻りましょうか」
「そうだね。戻ろっか」
ここにずっといても仕方ないということをお互いにわかっている。
そして考える時間が必要なのもわかっている。
先ほどの魔法使いのおかげで怪我は確かに治ったのかもしれないが、体力が回復するわけではない。
二人ともさすがに疲れていた。
ギルドに報告しないといけないことはわかっていたが、体を休めることが優先だと考えた二人はお互いに宿に戻ることにした。
チカはこれからどうするべきなのか、次の日には話し合えると考えていたからだった。
怪我の影響なのか、戦闘の影響なのかはわからなかったが、チカはいつもよりも遅い時間に起きてしまった。
同じ宿に泊まっていたチカは宿の受付で確認をしたが、キキルはすでに出ているようだった。
慌てて用意を済ませたチカは、キキルが待っているであろうギルドへと向かった。
「えっと、来ていませんか?」
「ああ、来てねえな」
ギルドに入ると、待っていたギルドマスターの部屋へと通されたチカはキキルが来ているはずだと思って聞いてみたのだが、いないと言われてしまった。
もしかしてどこかに出かけているということなのだろうか?
そうは考えるが、キキルがこれまでチカに内緒でどこかに出かけることがなかったため、驚いている。
何をしているのだろうか?
そんなことを少し考えたが、付き合いが短いこともあって、どこにいるのかなんてわからない。
今は先に迷宮について、チカはギルドマスターに聞くのだった。
「迷宮の内容について、どうして隠していたのでしょうか?」
「その口ぶりだと、試練はクリアしたってことだな」
「はい。そのはずです」
チカはそう言葉にすると、あの剣を見せる。
「そうか……」
ギルドマスターも同じように、剣を見せた。
同じものを持っているということは、ギルドマスターも同じようにあの試練を受けたということなのだろう。
「わかっているとは思うが、迷宮でされた話は本当だ」
「そんなこと、あたしは聞いたことがありません」
「当たり前だ。このことを知るのは一部のものたちだけになるからな」
「では、それ以外の人は……」
この事実を知らないということだ。
ということは魔物がどこから生まれているのかということもわかっていない。
今の脅威だというのに……
だが、理由もわかっていた。
もし、そのことがわかってしまえば迷宮を壊そうと躍起になるだろうからだ。
そうなれば起こるのは、魔力爆発による世界の終焉になる可能性が高いからだった。
「ああ、考えている通りだな。冒険者になり、さらには、迷宮の主によって試練を出され、それをクリアしたものにのみ話すことになるということだ」
「わかっています」
「ああ、それで?どんな試練を受けたんだ?」
その質問の意図が分からないながらも、素直に答える。
「モンスターの討伐です」
「なるほどな、そうかそうか。どんなモンスターだったんだ?」
「赤いスライムですね」
チカがそう答えたとき、ギルドマスターは少し怪訝な顔をする。
何かおかしなことを言ったというのだろうか?
わからずにいると、ギルドマスターは言葉を紡ぐ。
「で?これからどうする?」
「どうするとは、どういう意味でしょうか?」
「真実を知った今、チカはどうする?」
「どうすればいいのか、わかっていません」
「わからないか?迷宮の真実を知った場合の選択肢は、いくつかあると俺は考えている。一つは俺のように、真実を知って、それをむやみやたらと口外しないような立場に立つのか、一つは真実を知り、冒険者を引退するのか。一つは真実は知っていても冒険者は続け、今後は困っている人たちを助けるためのものにとどめ、冒険者ランクを上げないようにするのか。あとは、最後の一つ。真実を知り、その真実を全て知るためにも迷宮を調べるかだ」
決めろと言われているように感じるが、チカはなんと答えていいかわからなかった。
一人で考えれることじゃない。
チカはすぐにそう結論付ける。
「少し、時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、何を選択しても間違いではないからな」
悩むことをわかっていたのだろう、ギルドマスターは優しい声音で言う。
「わかりました」
そう答えると、チカはギルドマスターの元を離れるのだった。
こういうことは、キキルに相談して決めないといけません。
チカはそう考えていた。
どこにいるのかわからないキキルを探すために、チカは宿の辺りを歩いていたときだった。
目の前から、見知った人が歩いてくるのを見つけてしまった。
「キキル?」
「チカじゃん……」
「どうかしましたか?」
キキルの様子がおかしいことに気付いたチカがそう言葉をかけるが、その声がちゃんと届いているのかわからなかった。
何かあったというのだろうか?
チカはそう考えて、キキルに手を伸ばそうとしたときだった。
その手はキキルに弾かれる。
「キキル?」
「チカ、ごめん。でも、もう一緒にはいられない」
険しい表情で言われても、チカには理由がわからない。
思わず聞いてしまう。
「どうしてでしょうか?確かに、一緒にやっていた時間は短いかもしれません。でも、協力はできていたと思っていたのですが」
「そう?本当に?」
「どういうことでしょうか?」
「チカは、うちの足を引っ張ってきただけでしょ?」
どこかバカにしたようにキキルはそう言うが、チカには無理をしているようにしか聞こえないて思わず聞き返す。
「キキル?」
「もうここで終わり。わからない?」
キキルは何を言っているのだろうか?
チカには意味がわからなかった。
確かにキキルの言う通り、チカも自身があまり役に立っていないのではないのかと考えることは多かった。
それでも、キキルはチカのことを認めてくれていた存在だった。
だから、拒絶されるようなことを言われると考えていなかったのだ。
それに、拒絶する言葉を口にするキキルが、どこか悲しそうだったからだ。
「キキル……」
再度チカがキキルの名前を呼ぶが、そのタイミングで何かを振り払うように頭を振るとキキルは、チカをしっかりと見据えて言う。
「チカ。わからないのなら、戦おう」
「キキル?」
「うちには弱い存在はいらない!」
これまでのキキルとは違い、その言葉には重みがあって、言い返せない雰囲気があったこともあり、チカはその提案に頷くことしかできなかった。
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