XLVII 霞救出作戦(物理)
激闘間近の霞と雷雨。
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視点交代:ミカエル視点
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「あれは…天使の能力、しかも…」
「ラファエル様の物、ですよね…」
ガブリエルの言う通り、ラファエルの能力を雷雨ちゃんは使っている。ラファエルが人に能力を与えた…?私ですら、霞ちゃんをよく見てきて、十年以上悩んで霞ちゃんに上げたのに、私より慎重な性格のラファエルが…?
「よくわかんないけど、勝ち筋は見えてきたね」
「私達は見守っているしかなさそうですね」
この戦いがどんな形で終わろうと、私達に口を出す権利はないのだろう…。
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視点交代:六城 雷雨視点
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「霞ちゃん!私だよ!雷雨だよ!」
私は呼びかけてみる。しかし、返答はない。
霞ちゃんは無言で私に襲いかかってくる。
キン!カン!!キィン!!
金切り音が鳴り響くが、私に傷はない。すべての攻撃を跳ね返しているのだから。
私の使っている”ランクロ・イアード”は先ほど、ラファエルなる人物からの貰い物で、私の能力ではない。しかも、使いすぎれば死ぬとまで言われた。
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時間は数十分前に遡る…
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「へ!?なに、ここ」
「よく聞け。私の能力を貴様に貸してやる。それで、あの小娘の能力の暴走を止めろ」
「…?は?あんた誰」
「…近頃の人間は生意気な者しかおらんのか…。いいだろう、説明してやる。私はラファエル。天界において、神たちに次いで最も偉い」
「病院行ったら?」
「少しは私の話しを信用しろ…。これを見ろ」
「何よ…。霞ちゃん!?」
ラファエルと名乗る奇妙な男が差し出してきた水晶玉に映されていたのは、ルシファー?と戦う、まるで生気を感じない霞ちゃんの姿だった。
「なにこれ!!どういうことか説明して!!」
「それを説明する前に、話を聞かなかったのは貴様だろう…」
「それは…」
「まぁいい。今、この小娘は一緒に居た娘の遺体を見、自我を失っている。ミカエルの能力は天界でもトップクラスだ。とてもじゃないが、自我を取り戻すのは不可能だ。殺すしかない」
「は!?何言ってくれてんの!殺せるわけ無いでしょ!!」
「それなら世界が滅ぶだけだ」
「………本当に止める方法は殺すことだけなの?」
「自我を取り戻せるのなら、殺す必要はない。ただ、気絶させるくらいではあいつは止まらん」
「…まぁ、お主が近くで訴えかけてみればチャンスはあるかもな」
「近づくにはどうしたら…」
「だから言っている。私の能力を貴様に貸してやる。それでどうにかしてこい。ただし、使いすぎたら死ぬがな」
「そんなことどうだっていい。どうすればいいの?」
「ふん、生意気だがその心意気は嫌いではない。少し眠って待っていろ。地上に戻る頃には使えるはずだ」
そして、ここに東京からとんできたというわけである。
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現在に戻る…
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「いい加減目を覚まして!!また霙さんが泣いちゃうよ!!霰も泣いちゃうよ!!それでいいの!?」
すると、少しだけ動きが止まった気がした。行けるかもしれない…。
「今も戦ってる部隊のみんなはどうするの!!あなたはプロスペリテのトップじゃないの!!」
「みぞれ…らい…あられ…」
今、かすかに霞ちゃんが喋った気がする。もう一押し…!
「心配してるのはみんなそうだよ!!ミカエルさんも!!ガブリエルさんも!!」
「ミカエル…?ガブリエル…?」
「ガァァァァアアアア!!!」
突如、霞ちゃんは叫び声を上げた。もう少しだったのに…。
「多分、ルシファーの呪いだよ!!」
後ろから声がする。声の主はミカエルさんだ。
「ルシファーが霞ちゃんが呪いをかけてる!!私達の名前を出すのは逆効果だと思う!!」
なるほど…。ルシファーの呪いも払ってあげないと行けないわけね…。
「ルシファーの呪いはこっちでなんとかするから、霞ちゃんは…」
「任せてください!!」
「…うん!!」
にしても、霞ちゃんの攻撃が、激しくなった気がする。これを捌くのは少し難しいかも…。
私の体には少しずつ切り傷が刻まれる。
「たまには、ストレスをぶつけさせてもらうよ!!!」
そう言って、私は能力の出力を上げる。事前に言われた限界値まで引き上げて、ここから持つのは5分程度だそうで、私はここで霞ちゃんの無力化、もしくは戦闘不能レベルまで追い込むことを狙っている。逆に言うとできなければ私の負けだ。賭けになる。でも私は成功させる自信があった。
「行くよ霞ちゃん!グラン・イアード!!」
私が急に霞ちゃんを押し始める。この形態で強化された今の私には、霞ちゃんの攻撃を避ける余裕さえある。そして0距離まで近づき、急所以外を殴る・蹴る。そして切る。普段から仕事増やされてストレス溜まってるからね。たまには。
そして霞ちゃんは力なく倒れる。いくら急所を狙われていないからと言って、1000発殴って蹴られて、100箇所以上の刀傷があれば、どんな人間だろうと流石に倒れる。今の医療レベルならば、急所に傷がないから生き残ることは可能だろう。もちろん今のまま放置したら死ぬが。病院へ行く前にすることがある。霞ちゃんは、まだ生気を取り戻していない。
「ほら…起きて…。みんな心配してるんだから…。霙さんに霰、雪さんに、ミカエルさんも。それから、私」
私は涙ながらに訴えかける。
「ら…い…?」
「アァァァァアアアア!!!」
突然うめき出した。霞ちゃんはすごく苦しそうだ。きっと、自分の中にいる暴走の原因と戦っているのだろう。そんな霞ちゃんを、私は抱きとめる。
「大丈夫。落ち着いて…?私はどこにも行かない。ずっといっしょ…ッ」
鋭利な刃物が私の背中を切る。私はそんなものを意に介さず、
「大丈夫…。大丈夫…」
「アァァァァアアアア!」
霞ちゃんは呻くのをやめて、体から力が抜ける。
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視点交代:七緒 霞視点
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「…ら、い…?」
「霞ちゃん…目が、覚めたんだね…」
私の上にいる雷雨の目は涙に濡れていた。私はルシファーを倒して…。雨が…。
「雨…!?」
「雨さんは…」
雨は死んでしまった。この事実は私の胸に大きな穴を開けた気がした。
ドサッ・・・
「雷雨…?雷雨…!」
「よ、かった…。いつもの、霞ちゃんに、戻ったんだね…」
よく見てみれば雷雨の背中には3本の刀が刺さっていた。見たことある刀が2本。
「どうして…!どうして私なんか…!!雷雨まで死んだら、私…!」
「だい、じょうぶ。私は、霞ちゃんを残して死ねない…」
そういって雷雨は目を閉じてしまった。
駅伝って面白いですよね。そういうことです。