XLVI 存在するものとしないもの
戦闘中の霞。
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視点交代:ミカエル視点
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霞ちゃんは、雨ちゃんが死んだとわかってから一言も発していない。今もなおルシファーと戦っているが、戦況は五分というところだろう。更に驚きなのが、私の能力は合言葉、というか言霊によって力を発揮できるようになっているはずなのだが、今の霞ちゃんは何も言わずに能力を発動している。まるで、能力自身が意思を持ち、霞ちゃんに呼応するかのように。
「面白い!!面白いぞニンゲン!!ここまで我の攻撃に耐えきる者は初めてじゃ!!」
さっきまで依代の攻撃でさえ避けていた霞ちゃんは、ルシファーの攻撃をすべて受けきっている。かなりの傷が刻まれてるが、戦えないほどではない。
「何故じゃ、何故話さないのじゃ。奇妙なニンゲンよ」
「ならば、これは耐えきれるかのぉ!!」
カキンッ!!
ルシファーの攻撃を、いとも簡単に霞ちゃんは跳ね飛ばす。それどころか、更に襲いかかっていく。
「あれは…暴走ですか…?」
隣に寄ってきたガブリエルが聞いてくる。彼女もかなりボロボロだ。私達天使は、地上で人間が死ぬような傷を負った場合、天界へと戻される。逆に言えばそれだけで済む。
「あれは…もう…」
暴走状態は、宿主の精神状態が不安定になった時に起こる。私達の能力は、身体に負荷をかけすぎるとメンタル不全によって暴走が起きるのだ。負荷が高ければ高いほど、その暴走状態による引き出されるパワーと理性を取り戻さない確率は大きい。霞ちゃんの暴走状態には、私にも一定の責任がある。
「私達には、あれを見てることしか出来ないよ…」
「ミカエル様…」
先程まで五分だった戦況は、徐々に霞ちゃん優勢に傾いてきた。いくら堕天使、天使といえど、スタミナは存在する。だが、今の霞ちゃんのスタミナは事実上無限と言って差し支えない。リミッターは外れている。そこが差となって現れているのだろう。
「我は…私は…!!負けられないのだぁーー!!!」
ルシファーが凄まじいエネルギー波を放つ。私達も少し巻き添えを食らったが、問題はない。霞ちゃんの方は、
立っていた。顔色一つ変えずに。あのエネルギー量を受けても立っていられるの…!?
「ニンゲンごときに負けてたまるかぁ…!!!」
捨て台詞を吐いたルシファーは瞬きをした瞬間には地に伏せていた。そこに立っているのは他ならない霞ちゃんだった。
「霞ちゃんが勝った…」
「あっ、あれ!!!」
ガブリエルが焦る理由はすぐに分かった。霞ちゃんはこっちを襲いに来たのだ。私も最後の力を振り絞る。
「霞ちゃん!!私だよ!!ミカエルだよ!!!変態で、霞ちゃん大好きの!!!」
霞ちゃんは表情1つ変えない。ダメだ…。今の霞ちゃんに言葉は届かない…。
私達に向けて振り下ろされる剣。それを受け止めたのは、雷雨ちゃんだった。
「雷雨ちゃん…?なんで…?」
「あなたがミカエルさんですか?ここは私に任せてください。霞ちゃんを叱るのは私の役割です」
そういって、雷雨ちゃんは霞ちゃんの剣を跳ね返した。あれ、?霞ちゃんが一瞬止まった?
そう思うのもつかの間、また襲いかかってきた。
「私も、貴方がたを守って戦える自信はありません!!どこか攻撃の当たらないところへ!!」
「うっ、うん!!」
私達はかろうじて残っていた建物の瓦礫の影から、霞ちゃん達を見ている。
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視点交代:六城 雷雨視点
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さーて、いきなり変なとこに吸い込まれたと思ったら、まさか霞ちゃんと戦うことになるとは…。勝たないと霞ちゃんを助けられないって言ってたし、知り合いを襲っちゃだめって叱らないと。
「天よ唸れ!地よ蠢け!世界よ!ここに見参!!ランクロ・イアード!!」