Ⅳ 領地拡大
東京方面へ下る霞達。
群馬を出て数時間程、私達は現在埼玉の深谷に居た。群馬よりも発展していたであろう埼玉の姿は、今はどこにもない。それなのになんで分かるかといえば、青看板が残っていたから。昔流行った’なんとかゲッサー’は今の世の中でもできそうだ。
「この辺には人がいるみたい。焚き火の跡がある」
「よし、みんな人探しだ。まだ生きてる人がいるようなら助けて上げて」
「はいっ!」
探し始めること数分後…
「霞さん!いました!」
「おっ、いたかー。じゃあ、話を聞きに行こう」
向かった先に居たのは50人ほど集団。この感じ、ろくに食べていないようだ。このままだと全員死んでしまうだろう。
「おじゃましまーす!」
「誰ですかあなたは!」
「今すぐ止まりなさい!じゃないと殺しますよ」
「待って待って、話を聞きに来ただけだよ。ほら、武器は持ってないでしょう?」
軽いボディチェックを受け、
「確かに持っていないようです。でも、こんなところに来る意味がない」
どうやら、まだ警戒している様子。
「落ち着いて。私は、人救けをしに来たの」
「人助け?そんなことをする人間は、いまの世界にはいないでしょう」
「もちろんタダとは言わないよ。仲間になって欲しいの。こっちは衣・食・住最低限保証する。どう?悪い条件じゃないでしょ?」
「そうは言っても、信じられません」
「でも、モンスターとか鬼たちが怖いから、こーやって隠れてるんでしょ?ここのリーダーは誰?」
「私です」
と、奥から出てきたのは、やや細身の女性。
「私の名前は、十露 雪。ここの団体を率いているのは私」
「今の話聞いてた?悪い話じゃないでしょ?」
「えぇ。本当ならば。本当にモンスターたちに勝てるとお思いで?あれは平和だった時代に化学で抑えつけていた存在。今の彼らにはその枷がない」
「んー?じゃあ、勝てばいいのね。どっか近くで見てて」
私は近くに居たモンスターを適当に煽って呼び寄せる。そして、
「煌めけ!我が太陽!溢れ出ろ!ソレイユ!」
その言葉と同時に剣が出現し、
「リエ・ソレイユ!」
そして私はモンスターを一文字に切り裂く。モンスターと言ってもたかだか下級モンスター1匹。だが、今の人間はそんな奴らでさえも勝てない。
「どう?これで本当だってわかった?」
「…本当に衣・食・住を提供してもらえるのですね?」
「うん。嘘つく意味ないしね」
「わかりました。みんな、今見ていた人たちも居るだろうけど、この人に私はついていこうと思う」
「「「雪さんが言うのなら…」」」
民衆もついてくるようだ。よし、人が増えた。
「随分慕われているんだな」
「いいえ、私はみんなの好意でリーダーをやっていただけです。私が一番年上でしたから」
「それだけじゃ人はついてこないと思うぞ」
◎●◎●◎●◎●◎●◎
現在私達は、一度群馬に戻ってきた。使えそうな車があったから雷雨の能力で走らせてみたら1時間位でついた。でも、燃料切れの様で、また東京方面に行くときは歩きになった。
「おーっす。みんな帰ったよー」
「あー!霞様ー!」
「おかえりなさいませ!霞様!」
みんな出迎えてくれるんだよなぁ。少し照れる。
私は周囲にある程度人を集め、
「おーおーみんな落ち着いて。今日から新しい仲間だ。雪さん代表して挨拶よろしく」
「はい。皆様微力ながらに皆さんのためになりますよう、誠心誠意尽くしますので、これからよろしくお願いします」
周りのみんなは、
「よろしくー」
「そんなに固くならなくていいんだぜー。仲間だからな!」
雪さんは、ホッとしたような顔をしている。
「みんな、あったかいですね」
「でしょう?自慢の仲間たちですよ」
実は雪さんは22歳らしい。私は年齢を隠して敬語を使ってる。バレるのコワeー…。
「さて、みんな。私達はまた、東京方面に行ってこようと思う。日本の復活には都市機能の復活が絶対必要だからね。今回は長くなるかもしれない。そこでだ、ここを守る部隊が欲しいなって考えてる。雪さん、お願いできませんか?」
「えっ?私?」
「はい、うちには十分な戦力がありません。見たところ、そこそこに戦える方がいらっしゃいますよね?1人でも戦える人達が欲しいんです」
「でも、私達は恥ずかしながら下級モンスターにも勝てない」
「それは戦い方を知らないからです。経験のある人を数人置いていきます。そこで、一緒に戦ってモンスターとの戦い方を学んでください。そうすれば問題ないでしょう?」
「それは確かに…」
「ここを取られたらうちの国は終わりです。深谷の復興は後になってしまいますが、どうか頼まれてくれませんか?」
一瞬の沈黙が流れ、
「わかりました。みんないいか?」
「もちろん!」
「雪さんが言うのなら!」
どうやら引き受けてくれるみたいだ。
「ありがとうございます。この恩は必ず返します」
「いいや、私達をあの生活から助けてくれたのは他でもない、霞さんです。この大きな恩を私達が返さなくちゃならない。このくらいは任せてください」
「よろしくお願いしますっ!」
「よーし、新しい仲間も加わったし、みんなぁ!宴の準備をしろぉっ!!!」
「宴だぁ!!」
「霞様サイコー!」
こうやって士気を上げて置かないと身が持たないからな。たまには息抜きも必要だ。
◎●◎●◎●◎●◎●◎
「すごいですね。こんなに活気があるのか」
「えぇ、これも全て仲間がやってくれたんですよ。周囲も頼れる仲間が交代で見張ってくれてるので、十二分に騒げますよ。と言ってもキャンプファイヤー焚いて、ビール飲んで騒ぐだけですけど。未成年はとりあえず水です」
「これが人を率いるってことなんですね」
「雪さんも今日からうちの仲間です。そんな辛気臭い顔してないで、楽しみましょう!」
「ですね」
その後、私達は夜が更けるまで宴を楽しんだ。
◎●◎●◎●◎●◎●◎
「おーい、霙ー」
「どうしたの?霞」
「うちの国さ、だいぶ食糧増えたじゃん?そろそろ群馬周辺も拓きたいわけ。ということで、霙にはこの辺を攻略、というか安全にして欲しいんだよね。私は東京行っちゃうけど、雲の部隊と一緒に。雲には後で言っとくからさ」
「急に言われてもなぁ…」
「お願いっ!」
「リーダーにそこまで言われたら断れませんなぁ。九十九 霙!その任務承りました!」
霙はその言葉と同時に敬礼ポーズをする。
その数分後、同じことを雲に伝えたら、雲にも同じことを言われたが、なんとか説得したのだった。
《六城 雷雨》:13歳。正義感の強い女の子。能力は”物体加速”。【能力ランク:C】