XXIII 小さな兄弟
西へ向かう霙一行。
※前日12時間に合わなかったので、2本めです!
「とりあえず、甲府にとうちゃーく」
現在私達は、激しい山々を無事に突破し、山梨の県庁所在地甲府市に居る。
「ここもこんなもんかぁ」
道中、私達が見てきたものといえば、”あの日”の群馬と全く変わらない光景だった。道行く道に、屍の山。私達は亡くなった人は全て火葬した。途中、ユキに、
「なぜそのようなことをするのじゃ」
と聞かれたが、
「それが私達のすべきことだから」
というと、何も聞いてこなくなった。やっぱり、魔人は人間より知性が高いのかな。私は部隊のみんなに指示を飛ばす。
「やることはいつもと一緒。5人一組で行動すること。いいね?」
「「はーい」」
返事が緩いのはうちの部隊の愛嬌。民衆にもそれを受け売りにしている。ついでに隊律も緩い。私はユキと行動を共にし、歩きまわっているうちに廃墟を見つけた。周辺に建っている建物で、崩れていないのはここくらいだった。
「ヒェッ…」
「いっ、妹に近づくな!!」
中に入ってみれば、小さな兄弟が居た。服はボロボロ、体は痩せこけている。正直この状態は危ない。
「大丈夫。私達は何もしない。ついてきて。ご飯食べてないんでしょう?」
「大人たちなんか信用ならない!!ここにいた大人は全員、奪い合って全員死んだ。俺達は必死に生きてるんだ!!」
ありゃりゃー、これはどうすべきかなぁ。流石の霙ちゃんも手をこまねきますよ。
「ふん。物わかりの悪いやつじゃのぉ。着いてくれば飯をやると言っているのに、何故ついて来ん。もう限界ではないのか?」
グウウゥゥゥ・・・
どうやら兄のようだ。
「行こ?」
私は笑顔で目線を合わせながら、なるべく優しく言う。ユキ!ナイスパス!
「妹に触ったらただじゃおかない」
「わかってるよー。さ、行こ。妹ちゃん、お名前は?」
「…”参宮 露”」
「露ちゃんね。可愛い名前だねぇ」
◎●◎●◎●◎●◎●◎
「美味しい…!」
「うっ、うまい…」
うんうん。喜んでくれたようで霙ちゃんは満足です。
「ふっ、ふん!こんなの出されたところで…」
「往生際の悪いお兄ちゃんだねぇ。露ちゃん、お兄ちゃんの名前はなんていうの?」
「霖。参宮 霖!」
「おっ、おい。何を勝手に、」
「なるほどー、霖ね。霖さ、私達の国に来ない?そしたら妹を守れるし、美味しいご飯も食べられる」
あえて私は、露ちゃんに聞こえないくらいの声で言う。露ちゃんは見たところ7歳くらい。そろそろ話してる言葉の意味もわかるようになってくる頃合いだろう。女の子はね。勘が鋭いから。
「そんな言葉、信用できるか、」
と、口で言いながらも困っている様子の霖。この子も小学生くらい。きっとその頭を回転させて、考えてるのだろう。私達が信用できる大人か。
「もちろん、国に住むのにはタダとは言えないよ。仕事をしていかなくちゃならない。そのくらいはわかるでしょ?」
コクッ、と頷く霖。
「そこで、霖たちには家に来てもらおうと思ってるんだ。で、大人になったら自由な仕事につけばいい。これなら露ちゃん近くで見守ってられるし、ね?いいでしょ?」
霖は黙ってしまった。此処から先は本人が決めることなので、口出しはしない。
「…感謝はしないからな」
どうやら来ることに決めたようだ。いやー、ほしかったんだよね。可愛い兄弟。これは仕事が捗りますなぁ。その後私達は、他に数十名ほど保護したため、一旦東京へ帰ることにした。
(うちの部隊、緩いが売りだから、あんまりスパルタはね…。)
《参宮 霖・露》:10歳と7歳。いわゆる戦災孤児のような子たちで、大人を完全には信用していない。能力はまだ開花せず。