Ⅱ 運命の日
元いた世界に戻ってきた私。
気がつくと私は元いた世界に戻っていて、立っていた。何故かはわからないが、あの世界ではこちらの世界の時間が経たない仕様らしい。周りの連中には、私が急に立ち止まったように見えたのかもしれない。そのまま席へ着く。先程のことが夢でないことはすぐに分かった。体の至る所から力が溢れてくる。まるで自分の体ではないようだった。
「おい、席につけー。授業だ」
私達のクラスは落ちこぼれの集まりである。つまり、その中でも落ちこぼれだったのだ。先程までは。
私達落ちこぼれクラスには、まず座学というのが学園の方針だ。でも、そんなのどうでもよいくらい私は、この力に興奮していた。
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「おい、ランクE。なんで教室にいんだよ。目障りなんだよ」
私はいつもこうやって理不尽な絡み方をクラスメイト数人にされる。
面倒くさかったので、教室から出ていくことにした。すると、
「てめぇ!なに無視してんだ!ちょっと来い。立場ってのを教えてやる!」
と、連れて行かれた先は、使われていない教室。
「なにするわけ?」
私は挑発するように聞く。
「お前、いつからそんな口聞けるようになったんだ…?」
相当苛ついているようだ。
「この学園は実力主義だ。てめぇが死んでも問題ねぇ」
「だから?」
「もう一回最弱ってのが誰か教えてやるよっ!」
その戯言と同時に襲ってくる。だが、天使と契約している私にはまるでスロー映像だ。全員の背後に回って、そのまま一発殴ってやる。
「は?そんなはずねぇ!」
喚き散らしながらまた向かってくるので、今度は気を失わせてやった。
まさかここまでとは。能力を使っていないが、契約の効果は凄まじかった。
するとまた、私は気を失ってしまった。
「何?今、忙しいんだけど。ミカエル」
「そんなこと言わないでよー、霞ちゃん。伝え忘れたことがあってねー。この後、世界が壊れるらしいのー」
「は?世界が壊れる?頭おかしくなっちゃった?」
「ホントのことだよぉー」
「だとしても、なんで壊れるなんてわかるの?」
「なんで壊れるかはわからないけど、そうやって未来が見えちゃったんだもーん。ほら、私って天使で2番目に偉いじゃん?」
そういえばそんな事も言っていた。
「で?いつ壊れるの?」
「よくぞ聞いてくれましたっ!それはー、2026年 11/11 ですっ!」
「は?2日後じゃん!なんでもっと早く言わないの!」
「そんなこと言ったってぇ、契約したの数時間前だしぃ…」
「そうね、驚きすぎちゃって…。ごめんなさい」
「別に気にしてないからだいじょうぶだよぅ。そうそう、2日後にはこの学園はないよー。それと、世界は路頭に迷う人、犯罪に遭う人、好き放題しちゃう人だらけみたい。霞ちゃんはどうする?」
「どうするも何も…」
私が押し黙っていると、
「じゃあ、困ってる人を見捨てるの?自分より弱い人を?」
「それは…」
一瞬の沈黙を挟んで、
「救ければいいの?この力たちで」
「そう!それでこそ、私が見込んだ霞ちゃんだよっ!じゃあ、後はお願いねー」
あれ?私乗せられた?
私はまた、気を失ってしまった。
そうして気がつくと、先程倒した数人は気を失ったままだった。時計を確認する。やはり時間は一切経っていないようだ。
ミカエルの話を信じるべきか…。私は少し考え、学園を後にしていた。
学園を後にした私は、来る2日後に向けて能力を使えるように人一倍。
いや、人二倍の努力をした。
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2624年 11/11
私は外に立っていた。ミカエルの話では今日のお昼ごろに、その「運命の瞬間」が訪れるらしい。12:00になった。突然、私の周りを強烈な地響きが襲う。その瞬間、大きな地震へと変わり、地面が裂け、建物はすべて崩れる、もちろん立っていられるわけがない。周囲はパニック状態、当然だ。私もこれを知っていなければ、周りと同じだっただろう。
どのくらい経っただろうか。長かったような短かったようなものがやっと終わり、周囲はまるで戦後直後のように廃れていた。
「よーし、ちゃちゃっと救けますかー」
「煌めけ!我が太陽よ!溢れ出ろ!ソレイユ!」
その言葉と同時に、私の腰に剣が出現する。
「リエ・ソレイユ!」
私は多少使えるようになったミカエルの能力を使って、人救けを始める。この能力は身体強化と、ソレイユを出現させる能力だ。崩れた建物から救けられるだけ救け、一つだけ崩れていない建物があったので、そこを本拠地にすることにした。何をするにしても拠点は必要だ。
2時間くらい経っただろうか。気づけば私は100人以上を救けていた。救けた人々からは「ヒーロー様」「女神様」そんなことを言われているが、決してそんな高尚なものではない。私はミカエルに言われたことをしているに過ぎないのだから。
「あの、助けてくれてありがとう」
ふと、少女に声をかけられた。確か…駅前のビルが崩れそうになってたから救けた子だったかな。私の能力”絶対記憶”が珍しく役に立った瞬間である。
「別に大したことはしてないよ」
私はそう言って、外へ出ようとすると、
「私の能力は”物体加速”きっと役に立てるはず」
居ても邪魔なはずだが、何故か断れなかった。代わりに、
「知らないやつに能力をバラしちゃだめだよ。今、信頼できる人なんて自分しか居ないんだから」
少女は自分のしでかしたことに気がついたようで、顔がシュンとなった。
「ついてくるなら好きにしな」
それから10日ほど経っただろうか。人救けをしているうちに彼女の名前を知った。六城 雷雨というらしい。私は初めて友達(?)ができた。今までずっと一人だったので、友達というものがどのようなものかはわからない。ただ、この世界で唯一信頼できる人を見つけたかもしれない。
2人で人救けをしているうちに、気づけば救けた人数が1万人を超えていた。救けられなかった人々はしっかり火葬した。病気もあるし、なにより臭い。ただ、人を救けるということは、新たな問題が起きるということでもある。
《七緒 霞》:天使の能力を扱う17歳の女の子。【能力ランク:X】