3
次の日、騒ぎがあった。
木山の奥さんがいなくなったそうだ。
「うちのやつ、知りませんか」
と旦那がうちに聞きに来たそうだ。
もちろんお母さんは知らない。
おそらくお父さんも。
しんやも当然、知らなかった。
数日過ぎても何の手掛かりもなかった。
木山家は旦那と真矢の二人となった。
その状態が続く。
しかしある日、お母さんがお父さんに言った。
「木山さん所の旦那さんだけど、ここのところ姿が見えないの」
「そうか、たまたま見ないだけじゃないのか」
「まあ毎日見ていたわけではないけど。それにしてもここ最近全く見ないのよ。真矢ちゃんの方は、毎日見てるんだけど」
「うーん、そんなに気にすることじゃないだろう」
「まあ、そうだけど」
会話は終わった。
その後も木山の旦那さんを見ることはなかった。
仕事に行ったり帰ってきたり、奥さんがいなくなったので、買い物をしたりもするはずなのだが。
お父さんの言うように、ちょっとしたずれなんかでたまたま見ないだけかもしれない。
お母さんも、毎日顔を合わせていたわけではないし。
だいたい真矢がいつもとかわらないのだ。
父親がいなくなってもいつも通りにすごす八歳児なんてどこにもいないだろう。
ある日、満月の夜。
しんやは夜中に目を覚ました。
時計を見ると、午前二時。
こんな時間に目が覚めることは、めったにない。
そのまま寝ようとしたが眠れない。
しんやはベッドから出て、何げなく窓の外を見た。
そして見た。
街灯の明かりに照らされて、真矢が立っているのを。
――なにしてるんだ、こんな時間に。
しんやが見ていると、真矢がしんやに気づいた。
そして笑う。
真矢が笑ったところをしんやは初めて見た。
背筋が凍り付くような笑顔。
――!
すると真矢が飛んだ。
二階建ての家を軽く飛び越えると、そのまま見えなくなった。
次の日、真矢は学校に来なかった。
先生が訪ねると、家はもぬけのからだったと言う。
その後、真矢を見た者は誰もいない。
終