第九話 あなた、意外と大きいのね(笑)
「げ……」
「げ、って何よ?」
寮に備え付けられた風呂にて、俺はプルシュナと出くわした。
流石は貴族学園ってだけあって、風呂には様々なバリエーションがある。
が、そんな様々なバリエーションのある風呂の内の一つで寛いでいたら、丁度プルシュナも入ってきたって訳だ。
昼間、プルシュナと剣を打ち合ったからと言って、心が開けた訳ではない。
裸を晒すには、まだ早い。
あー、恥ずかしっ。
つっても俺は、心は男だから、世間一般的には眉を顰められる状況なわけだけど。
まあ、俺はそこまで女性の裸に興味がある訳じゃない。
ぶっちゃけどうでもいい方だ。
そんな事より、落ち着いて風呂に入れればそれでいいのだ。
てか、三大欲求に性欲が入っているのはあんまり納得できないな。
もしも俺が偉い哲学者になったら、食欲、睡眠欲、ゲーム欲だけにする。
性的感覚より、FPSでヘッドショットの方が気持ちいのはこの世の真理だと思う。
まあ、そんな事はどうでも良く。
この状況はどうしたものか……
「……あなた、意外と大きいのね」
片目でチラチラ見ていると突然、プルシュナは突拍子もないことを言った。
理解できないその言葉に、思考がフリーズする。
コイツ、何を言っているんだ?
「それは……どういう意味で?」
「ほら、アレの話よ」
そこで、ようやく理解した。
ああ、さっきから胸の方ばかり見てくるな、とは思っていたが、そういう事だったのか。
自分の精神は未だに男であるため、少し理解が遅くなった。
「両親には恵まれましたので」
「良かったわね。私は両親には恵まれたけど胸には恵まれなかったわ」
そう言って、平らな胸を撫でた。
それにしても、なんだ?この状況。
てか、なんで胸の話?
チョットヨクワカラナイ。
「そう言えば、あなた弟とどういう関係なのよ」
そしてまた、何の前触れもなく話を変えるプルシュナ。
てか、話すのがめんどくさくなってきたな……
俺は落ち着いて風呂に入りたいだけなのに。
でもなあ、ここで黙りんこすると気まずい雰囲気になるんだよな。
「……普通に友人関係です」
なので、ここは直ぐに会話が終わりそうな友人関係って事にしておく。
「そうなの。あの鼻たれバカに友達なんか居たのね」
ボロクソ言われてて草。
「あいつは才能はある癖に、友人だけは作らなかったからね。少し意外だわ。まあ、そんなところがムカつくのだけれど」
達観に似た表情を浮かべながら、プルシュナは哂った。
「へえ」
「あいつには煌めく才能がある。認めるのも嫌だけど、やっぱり圧倒的ね」
「へえ」
「小さいころから、あいつには応用力で勝てたことが無い。剣を振るっても、あいつの創造性には舌を巻くばかりだったわ」
「確かに」
「だから、あいつの事は気に食わないわ」
へえ、ブレストにもそんな複雑な事情があったんだ。
確かにあいつの剣には別格の才能が宿っているね。
でもまあ、飽くまでも才能しか宿っていないってのはある。
アイツにはまだ経験が足りていない。
まあ、偉そうに言える立場でもないけど。
てか、早く話終わんないかな。
話が長くなりそうなんだけど。
「この世界には不公平が溢れている。簡単に不公平は見つかるわ。例えば、背の高いあの子、脚の速いあの子。この世界には様々な不公平に溢れている。そんな事を幼いころに弟から学んだわ」
「不公平ね」
「そう。不公平」
まあ、この世界は確かに不公平で溢れている。
貴族などその最たる例だ。
血でその人間の人生が決まるのだから。
「だからこそ、私は不公平を信用するわ」
「ふーん」
「支配。支配こそが不公平の最たるものにして、弱者の特権」
おっと?
なんか、話の流れが不穏だぞ?
「昼間、あなたと剣を合わせてみて分かったわ。あなたはこっち側の人間よ。確かにあなたには多少の才能があるかもしれない。けれど、あなたは男爵家の娘。どこまで行っても不公平が付きまとうわ。否定してもいいけれど、あなたは間違いなく弱者よ」
「確かにそうかもね」
「だから、こっち側に来ないかしら?歓迎するわ」
ここで勧誘か。
こちらの実力の片鱗を嗅ぎ付けたようだ。
良い嗅覚をしている。
だが、断る!
そういうのめんどくさいんでな。
「断らせていただきます」
「あら、即答?」
「うん」
「なんでかしら?あなたにとってもかなり魅力的な話だと思うのだけれど」
あー、なんて言おうかな。
まあ、適当でいっか。
「普通に、そういうのに興味が無いからです」
少し、プルシュナの表情が曇った。
「あらそう。それなら、しつこく言うつもりわないわ。でも、弱者に残された道は不公平を利用することのみ、って事は覚えていて欲しいわ」
そう言って、自虐的に笑った。
俺には、彼女が何を考えているのかとか、何を目指しているのかとかは知らない。けれど、仮にもブレストの姉って事で一つだけ言っておこうか。
俺はこれでも40を超えているのだ。多少は言葉に重みもあろう。
それに、この言葉を言わなければ、俺自身の存在意義を否定することになるからな。
「まあ、この話は無かったって事にしていて欲しいかもしれない。だけど、一個人として言いたいことがあります」
「なによ?」
「自分は、割と屑でして。ただ一つの目的の為ならば、100万人を虐殺しても心が痛まないタイプの人間です。なんなら、この世界を滅ぼしたって良い」
「最低ね」
「だからこそ、その一つの目的だけは絶対に死守する。そして、そのためには不公平とか何でも利用する。例え残虐だと言われようとも」
「だから何が言いたいのかしら?」
「まあ、そんな自分だからこそ分かる事が幾らかあります」
ただ一言。
「あなたは強い。それは確かな一つの事実です」
彼女にとっての努力の根底にあるのは、ブレストへの嫉妬と羨望。
故に、彼女の行動には確かな地がある。
そして、地がある人間は強い。
冒険者になって五年ほどが経過したが、その努力と活動を支える何らかの地がある人間は限って強かった。
その時は、あまり強くなくとも、いつかは覚醒する。
彼女にとっての覚醒がいつなのかは分からないが、いつかは開花するだろう。
「意味深ね。というか、随分と上から目線ね」
「すいません。まあ、平凡な一生徒の独り言だと思って下さい」
そして、のぼせてきたので湯から出て、湯室から出ていく。
部屋から出ていくとき、後ろから一言聞こえてきた。
「不思議な人間ね」
その後、自室に戻り、ベッドにて睡眠をとることにした。
が、教師が突然部屋の中に飛び込んできた。心臓が飛び出そうになったのは秘密である。
突然入ってきた教師曰く”女子寮にて大爆発があった”とのこと。また、その爆発はプルシュナの部屋にて起こったらしい。何らかの侵入者がこの学園に入ってきたとも言っていた。
つまり、これはアレだ。
よくあるラノベテンプレの”学園立てこもり事件”だ。
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