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第八話 相手にならなかったら殺します

 この学園の授業はそこまで難しくない。 

 数学や化学などは、日本で学んだ知識には遠く及ばない程度のものだし、魔学や剣術はなおさらのことだ。


 まあ、目立ちたくも無いし、正体がバレたらめんどくさいから実力は誤魔化してるけど。


 そんな訳でへなっちょろい素振りをしつつ、ボーっとしていた。

 

「一!二!三!」


 剣術指南の教師の掛け声に合わせて剣を振る。

 

 剣から発せられる風切り音があちこちから聞こえてくる。


 大体の生徒は、まだ未熟な感じの音。

 俺が剣術を始めた辺りで出していた音と同じだ。

 

 が、しかしそんな中に一つだけ異質な音が混じっていた。


「シッ!」


 居合呼吸と共に繰り出される一閃は、上位の魔獣すら一太刀で鎮められるモノ。

 一般生徒とは別格の音を出していたその生徒の方を一瞥してみると……


 案の上プルシュナだった。

 

 流石は俺より基礎魔力が多いだけあって、身体強化が尋常じゃない。

 それに、剣の扱いも常人の域ではない。

 恐らく戦い慣れているのだろう。


「おいおい、マジですげえな」

「ありゃ別格だ……」

「あれがこの学園の生徒会長か……」


 周りの生徒がヒソヒソと噂話をしている。

 しかし、当の本人は全く気にすることなく剣を振るい続けている。

 

 そんな感じでプルシュナを時折眺めつつ、素振りをしていること数分。


「素振り止め!これからペアを作ってもらう。それぞれ互いに時雨流の型を確かめ合いなさい!」


 あー、出たー。

 こういう剣術指南があると、絶対に『ペアを作りなさい』を言われる。

 ぼっちである俺からすると本当に苦痛だ。


 日本にいたころからこういうのが本当に苦しかった。

 ぼっちであることは楽なのだけれど、こういう時は悲しくなってくる。

 マジでないわー。


 暫くペアを組もう、と自ら誘うことも出来ずにただ立っていると、俺ともう一人だけ残った。


 恐らくもう一人も俺と同じぼっち民……きっと分かり合える人種だろう。

 ペア作れ、の唯一の救いは、こうやって残ったもう一人もぼっちである点だ。

 活動するときとかそのペア相手だと心が楽である。


 そんな悲しいことを考えつつ、残ったもう一人の方を見てみると……


(お前かよ!)


 プルシュナだった。

 

 きっと、実力が高すぎて誰からもペアを作る事を敬遠されてしまうのだろう。

 それに彼女はペアを作るなんて人間じゃないしね。

 誰もがヤクザとは分かり合えないし、ペアなんて組みたくないのだ。


「そこの二人はペアを組みなさい」


 剣術指南の教師がペアを指定してくる。

 

 流石に嫌だ、なんて言えないんで渋々ペアを組む。

 

「よ、よろしくおねがいします」

 

 変な生唾を喉に流し込みつつ、ペアの相手であるプルシュナに一礼。


「相手にならなかったら殺すからね」


 物騒な事をサラリ、と涼しい顔をして言うプルシュナ。

 こ、怖ぇ……


「……頑張ります」


「そうね、頑張りなさい」


 そして互いに剣を交える。

 二人の間には会話は無い。


 実戦形式に近い模擬戦。

 互いに剣を受け流し合い、剣術の祖である時雨流の型を振るい合う。


 俺が攻撃の型を振るい、それを鮮やかに受け流すプルシュナ。


 次はプルシュナが攻撃を加えてくるのを俺が受け流す。


 魔力は制限し、体内にある魔道具を全て切る。


 周りでは激しく打ち合っているが、意外にもプルシュナは俺に合わせてくれている。


 時折好奇の目が向けられるが、無視する。

 その目の中にヴィシーの物が混じっている事にも気付いたけど、何も言ってこないあたり約束は守ってくれているようだ。


「貴女、筋は良いわね」


「ありがとうございます」


「でも、まだまだね」


 プルシュナの剣は意外にもちゃんと基礎に基づいたものだった。

 彼女はまごうこと無き天才で有る筈なのに、基礎を軽視していない剣だ。

 少し、意外である。


 天才とは、その才故に自身の剣に絶対の自信を置いてしまう。だから、どうしても基礎をおろそかにしがちになってしまう。


 が、彼女はそんな事は関係なしに、基礎に則った剣だった。

 

「もう少しギアを上げるわよ」


 そして、少し剣戟が激しくなった。

 俺も少しギアを上げて対処する。


 周りの生徒と同等程度の攻防に見えるように実力はセーブする。


「いい剣ね。弟を見ているみたい。嫌いだわ」


 唐突な嫌い宣言。


「すいません……」


「いえ、良いのよ。貴女は何も悪くない。けど、私は嫌いな剣筋だわ」


 何を言っているのかは分からない。

 けど、なんとなく、ニュアンスは分かるかもしれない。


「弟と同じように、何か光る物がある」


「どうも……」


「調子に乗らないで。私は嫌いな剣だから」


 なんやねん!と心の中で突っ込みつつ、彼女の心中を少し理解した。


 剣を合わせれば、その人間の事がある程度分かる。


 天才には様々な種類があるのだが、恐らく彼女は秀才と呼ばれる部類の人間なのだろう。


 才で勝負するのではなく、努力で勝負する人間。


 彼女の剣が、基礎に則ていた物である理由は、彼女には煌めく才能が無いからなのだろう。


 天才の剣とは基礎に則るとか則らないとか関係なく、何か煌めく物を感じるものだ。


 ブレストの剣には、煌めく何かがある。

 

 しかし、今の手合わせで分かったがプルシュナの剣には煌めく何かが無かった。

 

 故に、彼女の心中は苦しい物だろう。

 弟の剣は才能の宿ったものだが、自分の剣にはそれが無い。

 その苦しみは容易に想像できる。


 また、彼女の剣はその苦しみから来る努力によるものだろう。


 だからこそ、俺は彼女に一言だけ言いたい。


「……美しい剣ですね」


 努力だけで得た剣には、才能による剣にはない、『美しさ』という物が宿る。


「なにそれ?嫌味?ぶっ飛ばすわよ」


「いや、そういうつもりじゃ……」


「まあ、いいわ。終わりにしましょう」


 彼女は剣を鞘にしまい、片付け始めた。

 授業が終了したようだ。


 今日はもう疲れたんでさっさと帰りたい。

 俺は多少の返答を返してから、寮に帰った。

お読みいただき、ありがとうございました!


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