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第三話 飯が不味いです。弟子が出来ました。は?

 この世界の飯は基本的に不味い。

 

 前世で暮らしていた日本では、当たり前に少ない金で美味い飯が食えたのだが、この世界ではそうも言えない。


 先ず、美味い飯を食うには結構金が要る。

 如何に貴族と言えども、毎日豪勢に美味い飯を食うって訳でも無く、基本的には質素な物で三食は構成される。


 まあ、俺が男爵家の令嬢ってのもあるだろうが。

 

 美味い飯はあるにはある。

 例えば、フランス料理っぽいスープ料理とかは美味しい。

 だけど肉とか魚とかがそのまま使われた料理は不味い。


 なんて言うんだろうか……

 鮮度が全くなってないと言うべきだろうか。

 元日本人としては生魚で食えない魚は耐えられないのだ。

 

 と言っても、そういう不味い飯しか食えない環境な訳で、そこは我慢するしかないというのが現状である。


 そんな訳で現在進行形で俺は不味い飯をマイファミリーと囲っている。


「ベーリヤ、最近の魔学の調子はどうだね?」


「はい、最近は結界術を学んでいますが、なかなかに楽しいです」


 涼しい顔で答える俺の姉であるベーリヤ。

 彼女を一言で表すならばツンツンデレである。


 同じ家族とは思えないほど真っ黒な髪、真っ赤な瞳。

 俺は全身真っ白だから本当に血が繋がっているか疑問である。


 まさか、マイパピーがそんなことしてるわけないよね?

 いや、有り得るかも?

 

 そう思い髪を後ろに流したマイパピーを見やる。

 なんか、マイパピーは結構ハンサムである。

 

 前世の俺は、中年デブだったため、同年代としてはちょっと嫉妬してしまうことがある。

 まー、そんなこと言えないけどね。


「ん?なんだね、エパンジェ」


 あ、じろじろ見過ぎた。

 なんて返事しよ。

 俺は生粋のコミュ障であるため、こういうのの返事が分からない。


「……」


 返事が思いつかないんで黙りんこ。


「そう言えば、最近のお前はと言うとずっと屋敷に居ないな。また近所の子供どもと遊んでいるのか?」


「……あ、はい」


 家族には俺が冒険者をやっていることを伝えていない。

 だから、屋敷に朝から晩まで居ない事の言い訳として、近所の子供と遊んでいることにしている。


 まあ、俺の専属メイドであるアルテには本当の事を伝えてはいる。

 ──口止め料を添えて。


「全く……これだから落ちこぼれは。ベーリヤを見習って欲しいものだ」


 俺は遊び惚けているという設定にしているため、家族からはどうやら落ちこぼれ何て思われているようだ。

 

 一方の俺はと言うと、パピーと話す機会なんて殆んど無いし、なんか話すのも気だるいんで、落ちこぼれ設定はそのままにしている。

 ぶっちゃけ落ちこぼれだとかどうとか言われてもそこまで気にならない。

 なんてったって前世から俺は精神だけは無敵の人だからね。


「あ、はい」


「お前もあと二年で学園に入学するのだぞ?」


 この世界では15歳で成人する。

 そして、同時に貴族の子息は王都の学園へ入学する義務を負う。

 

 お偉いさん曰く、我が国を担う者たるもの、教養を身に付けなければならないとのこと。まあ、ぶっちゃけ言うと勉強とかクソだるいし、冒険者やって屋敷でダラダラしてたい。しかしお偉いさんはそれを許してくれないのだ。

 こういうのってどこの世界でも同じなんだね、とは思った。

 あー、ないわー。


「ん?なんだ?入ってくるときは礼の一つでもしろ」


 そんな事を考えていると、突然食堂に門番が駆け込んできた。

 そして、マイパピーに耳打をする。


「なに!?」


 門番より伝えられた内容に、驚愕の表情を浮かべるマイパピー。


 俺は魔力による身体強化で聴力を強化して、耳打ちの内容を盗み聞きした。

 その内容は、どうやらこの国の第三王子が突然来訪してきたとのこと。

 てか、第三王子って俺がこの前ダンジョンの奥地で戦ってたあの少年のことだよね?

 

 あー、嫌な予感しかしねー。


「今すぐに通せ!」


 その命令に従い、門番は訪問してきた第三王子を通した。

 応接間まで招き、家族総出で迎える。


「わ、私はこの地を収めるグレイズです」


「私はブレスト、もう少し気を楽にしてもらえると助かる」


 雲の上の存在に、ビビりまくるマイパピー。

 さっきまでの威厳ある父親っぽい感じはどうした!?なんて心の中で突っ込んでおく。


「と、ところで急な来訪ですが、ご用件は?」


「あー、その件をなのだが、そこの娘さんに用があるだけだ」


 そう言って俺の方へ指をさす第三王子。

 うん、クソが!

 

 心の中でありったけの罵詈雑言を吐く。

 その様を他の人が見たらドン引きするだろうな。


 そんなことはさておき、この状況はどないしたらええねん。

 

「エパンジェにどの様な用が?」


「それは言えない」


 用件を引き出そうとするマイパピー。

 それをバッサリと切る第三王子。


 おー、なんか怖い雰囲気やな。 

 コミュ障の俺にはいささかこの空気はキツイかも。


 ビリビリと両者は視線をぶつけ合うこと数秒、遂にパピーが折れた。


「わ、分かりました。では、私はこれにて」


 そう言って部屋から私と第三王子を除いた全員が出ていく。

 

 そして、二人っきりになった。

 カチカチと秒針が部屋の中に響くこと数秒、先に第三王子の方が口を開いた。

 

「さて、一つ聞きたいことがある」


 ゴクリ……

 生唾っぽいのを飲み込む。


「あの時、私を助けて下れたのは貴女なのか?」


 あー、こりゃバレてるわ。

 でもなー、これがブラフの可能性もあるんだよなー。 

 ま、ここは嘘をつくのが安牌かも?


 てなわけでコミュ障なりに考えて、返答する。


「いや、人違いだと……」


「そんな訳がない。ギルド長に聞いたぞ?中々にヤツは手ごわかったな。金に釣られないんで、苦労したな」


 あー、これって犯罪ですよね?

 ギルドの情報漏洩って確か滅茶苦茶重罪な気が…… 

 

「それって、犯罪では……?」


「いや、そんな事はどうでもいい。私が聞きたいことは一つだ。あの時、私を助けてくれたのは貴女なのかと聞いている」


 うん、後で憲兵に密告しとこ。

 確かギルドの情報漏洩は打ち首獄門だったと思う。

 ギルド長のおっさん、頑張れよ。


 ま、そんな事を考えていてもしょうがない。

 ここは認めるしかないか……


「あ、うん、多分そうだと思います……」


「そうか……では……」


 次の瞬間、第三王子が美しい弧を描き土下座した。


「私を弟子にしてください!」


「は?」


 訳の分からない状況に狼狽してしまう。


 美しいフォームの土下座は、元日本人としても思わず拍手してしまいそうになるものだった。

 この国の王室って、土下座のやり方も教えんの?

 

 だが、それよりももっと気になる事がある。

 

「なんで、弟子に?」


「初めて、あの時貴女の魔法を見たとき、大変に興奮しました。先ず、あの重力魔法はどうやっているのでしょうか?魔術規模に対する詠唱が大変少ないように見えました。他にも、同時並行で魔術を行使していたようですが、どうしているのでしょうか?まだまだ疑問はあります。なので、この疑問を全て解決するには貴方に弟子入りするのが一番早いと考えたからです!」


 ペラペラと早口で話す第三王子。

 あまりもの勢いに、仰け反ってしまう俺。


「あ、うん、そうなんだ」


「では、弟子入りしてもよろしいですか?」


 俺は暫く考え込む。

 普通に弟子を取るとかめんどくさいし、話すのがめんどくさい。

 やっぱり、それが一番でかいんだよね。

 だから俺としては弟子なんか取りたくない。


 それに、なんで急にこんなことになっているのかまだ、イマイチ理解も出来ていない。


 でも、このまま断ったら何をされるかわからない。

 相手はこの国の王子だ。

 俺の平穏な生活がぶち壊されるなんてことも有り得る。


 それだけは、絶対に避けたい。

 では、どうするか?

 妥協しかないだろう。


 まあ、適当にほっとけばええやろ。

 弟子って設定にしておきながら、放置しておけば解決である。


「あー、うん、いいと思います……」


「ありがとうございます!」


 第三王子ははしゃぎ喜んだ。

 それを見て罪悪感を感じながら、追加で条件を述べる。


「でも、何かを教えるなんて事は出来ないと思います。ついてくるってだけならギリギリ……」


「成程……師匠も忙しいですからね。それだけでも私は大丈夫です」


 トーンダウンして納得してくれた。

 

「でも、一つだけ聞いてもよろしいでしょうか?」


「まあ、一つだけなら……」


「師匠はどうやってそこまで強くなったんですか?」


「あー、それは……普通に毎日一時間魔力操作と魔術練習。そして、10キロランニングと筋トレをした。あと、一日一個魔道具を体に差し込んでいると思う」


「は?」


 俺の答えを聞いて第三王子の表情が固まった。

 あれ?俺またなんかやっちゃいました?

 

「それだけでその強さを?」


「あ、うん」


「それだけな訳がないじゃないです。流石に特S級冒険者にそれだけで成れるわけがないですよ。冗談もほどほどにしてください、ハハハ」


「そ、そうですね……は、はは」


 引き攣った笑いを浮かべる俺と第三王子。

 暫くその気まずい雰囲気が流れた。


 そして、幾らか経過した頃、第三王子の方から立ち上がり、部屋を後にした。


「で、では帰りの時間が近づいておりますので、私はこれで……」


「そうですね、では……」


 その日は家族に第三王子とのやり取りを質問されたが、幾らか誤魔化した後に寝ることにした。


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