第十五話 カスティーリャの悪魔
エハイジェ王国の下部に位置するカスティーリャ共和国東部の森林にて──
「ハア、ハア、ハア!」
金髪の長身の男が走っていた。
その表情は、恐怖に引き攣り、この世の地獄でも見たかのような顔だった。
「なんだ、なんなのだアレは!?」
走る、走る。
ただ、生きるために走る。
少しでも遅れれば死ぬのだから。
「ギルドの情報では、ただのA級レベルの魔物と聞いていた筈なのに!何故、この私がこんな目に遭わなければならないのだッ!?」
彼の名はエハイジェ・フォン・ハイツ。
エパンジェが暮らすエハイジェ王国の第二王子である。
エハイジェ王国では、数人の王族がその王座を求めて互いに我こそが王座に相応しい、という事を示すために、互いに功績を残さんとする。
当然、ハイツもまたその通りであった。
そんな彼は、功績を残さんとして、最近カスティーリャ共和国に湧いた強力な魔物を討伐しようとしたのである。
その魔物の名は『カスティーリャの悪魔』。
カスティーリャ共和国東部にて、突然出現したその魔物は、周囲に甚大な被害を及ぼしていると聞く。農地を焼き払い、家畜を食い殺し、人間を引き裂いたと言われるその魔物には、大きな懸賞金が付いていた。
なので、その魔物を倒せば、大きな功績を残せると考えたハイツは実際にギルドに情報を訊いてみた。そして、返ってきた返答は、A級程度の魔物であったとの事。
ラッキーだった。
A級程度ならば簡単に討伐できる。さらには、大きな功績も残せるのだ。
彼にとってこれ以上ない美味い話は無かった。
その為、早速討伐に出ることにした。
そして、今に繋がる──
「アレは……アレは間違いなくS級を超えているッ!」
先ほど見たあの魔物は、明らかにA級などと言う物では無かった。
あの魔物は、一目見ただけで分かる。
異次元の存在だ、と。
「嫌だ!まだ死にたくない!」
彼の引き攣れた騎士団は、最早誰一人としていない。
全員、あの魔物に引き裂かれたのだ。
「ハア!ゲホ!」
走り過ぎて、脚が動かない。
魔力は枯渇し、肉体を強化する分などとうに使い切った。
「グロロロ……」
低い、心臓の奥からつかみ取られるような恐怖を与えんとする唸り声が聞こえてくる。
「嫌だ!止めてくれ!まだ、私はやりのこした事があるのだ!妻もいる!来年には子供もできる!だから、殺さないでくれッ!!!」
必死に懇願した。
が、その行動になんの意味もない。
何故ならば相手は意思なき邪悪なる存在である魔物なのだ。
森の薄暗い先に、あの魔物の赤黒く光る眼が見える。
獰猛に光るその目を見るだけで、腰が竦む。
「嫌だ!嫌だああああああああああああああああああああああ!!!」
次の瞬間、地面が紅く染まった。
王子の悲鳴が森に響き、後に静寂が訪れる。
翌日、王国では王子行方不明のニュースが大々的に報じられる事となった。
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