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第十三話 伝導卿

 莫大な魔力から生まれた紫電が、地下室を吹き抜けた。

 ヴィシーはその魔力に中てられ気絶した。


「な、なんだッ!?この魔力は!?」


 ゼルバードは顔を歪ませながら、その魔力の奔流に耐えた。


 すると、その莫大な魔力の中心に、ペストマスクを被った少女が立っていた。


 白銀色の髪を靡かせ、ロングコートを纏った小柄な少女は、彼の主にも匹敵しうる魔力を放っていた。


「貴様ッ、何者だ!?」


 その少女は、少し小首を傾げ、答えた。


「答えることに意味が?お前はここで死ぬのだから」


 マスクによってくぐもった声。

 心臓を掴むような、背筋を撫でられるような、感覚をゼルバードは感じた。


 その感覚から彼女の正体がある程度分かった。

 奴は恐らく特S級冒険者だ。

 その中でも、あの特徴的なマスクから考えると、伝導卿であると考えられる。


 伝導卿はつい最近特S級になったばかりの新人(ルーキー)だ。

 確か……先代の白亜卿を殺し、特S級の一席に添えられたと聞く。

 

 彼女と戦った人間は、軒並み殺されており、確かな情報はない。

 伝導卿は六席ある特S級の中でも、最も謎に包まれた人物である。


 しかし、今この場で彼女の魔力を見たことでその実力の正体が見えてきた。


「その魔力。いったいどうやって自壊せず操っている?人間に操れるものじゃないぞ」


 恐らく、彼女は魔力バカと呼ばれる類のタイプだろう。

 その魔力の多さではロクに魔力操作も出来なかろう。

 本来ならば内側から破裂して自壊している筈だ。

 ならばこそ、彼女の魔力は質ではなく量と考えられる。

 が、魔力こそ量ではなく質を最も顕著に表す。

 

 故に、彼女はそこまで強くないと伺える。

 つまり、自分でも勝てる。


 そんなことを僅か数秒でゼルバードは思考した。


「だが、馬鹿め。魔力は量より質だぞ?手本を見せてやろう」


 次の瞬間、地面を蹴った。


 残像を残し、伝導卿の後ろへ回る。


「ハッ!これが見えぬか!」


 剣を薙ぎ、彼女の背を切り裂く──

 

 筈だった。


 ガキイン!


 鈍い音を立てて、ゼルバードの剣は弾かれた。


操魔剣具(ゲル・シュヴェール)かッ!」


 彼女を廻る蒼い剣が彼の剣を弾いたのだ。


 それは、操魔剣具(ゲル・シュヴェール)と呼ばれる、宙に浮く剣を操る事が出来るという魔道具である。


「ッチ!勘だけはいいな!」


 舌打ちし、間合いから外れる。


 今度は、魔道具の範囲外から魔力を指弾で弾き、魔力をぶつけた。


 流石にそれを剣で弾くなどという芸当は出来ないため、空中に躍り出ることで回避。


「掛ったな!」

 

 空中に躍り出ることで、身動きが取れなくなった彼女に対しゼルバードは蹴りを叩き込んだ。


 地下室の彼方まで吹き飛ばされるエパンジェ。


 そこに跳びかかるゼルバード。


 剣を何度も何度もエパンジェに突き刺し、血を吹かせる。


「やったか?」


 大理石の粉末が立ち込め、辺りは霧の様に曇っている。


 やがて、霧が晴れると……無傷だった。


「その程度か……」


 ゾワリ、と本能が警告を発する悪寒を感じた。


 次の瞬間、伝導卿の姿がブレた。


 否、高速で動いたのである。

 

 実力者であるゼルバードですら認知する事が出来ず。


「速いッ!?」


 咄嗟に剣を構えたことにより、命拾いした。


 そして、漆黒に染まった幾多もの線が襲い掛かる。


 ゼルバードは何とか体を動かし、対応。


 漆黒の刃と、白銀の刃が交差する。


 何度か剣を合わせるうちに、ゼルバードの腕、脚、顔のありとあらゆる場所が切り刻まれた。


 ボタボタと血が滴る中、何とかして間合いの外に逃げる。


「貴様、何故そこまでの出力が出る?何故それだけの魔力があってそれを扱えているのだ?」


 暫く、少女は考えた後に言い放った。


「修行あるのみ」


「ハッ!化物め。認めよう、その実力。いいだろう。私も本気を出すとしよう」


 そして、懐から注射器を取り出した。


「これは、龍魔種の血。これを取り込めば死を代償として莫大な力を得る。だが、ここで死ぬのは惜しくないな。誇れ、お前を殺すためにこの代償を受け入れてやる」


 ゼルバードはそう言って、注射器を己の腕に刺した。


 次の瞬間、膨大な紅い魔力が解放された。

 

 瞬時にしてゼルバードが消費した分の魔力が満たされてゆく。


 また、その肉体は膨らみ、より屈強な肉体へと改造された。


「ハハハ!素晴らしい!素晴らしい気分だ!これならば、貴様を殺せる!」


 ゼルバードは狂喜した。


 己が力のその大きさに。


 が、その様を見てエパンジェは哂った。


「フフフ、ハハハ、フハハハハハ!」


「なにが可笑しい?」


 不快そうにその顔を歪めるゼルバード。

 彼の顔を覆う仮面は、彼自身の魔力により粉々になった。

 そのため、彼の顔は露出している。


「ああ、それが龍魔種の血か。ハハハ!そんな訳が無いだろう!フハハハハハ!!!お前のそれは、ただの上位古龍の血だぞ!!!」


 何が可笑しいのか、狂気的に哂い続けるエパンジェのその言葉に、さらにその眉を顰めるゼルバード。


「嘘を吐け!俺は!間違いなく最強だ!」


 が、エパンジェの言葉を気にすることなく、再び余裕の笑みを浮かべた。

 

 剣を構え、一閃の構えを見せる。


 それを前にして、エパンジェは言い放った。


「いいだろう。最強の貴様に我が力を見せてやる」


 剣を捨て、腕を広げた。


 指の一本一本から紫電が走り、魔術を構築する。


 円形上の幾多もの魔法陣が浮かび上がり、稲妻の様に、雷撃の様に、地面に魔力が走る。


 カタカタと地面が揺れ、全てが彼女に吸い込まれてゆく。


「答えよ我が力。我が道の為さん所に顕現せよ。我が道に居る輩を食らい尽くせ」


 未だかつて見たこともない圧倒的な魔力を前にして、ゼルバードは驚愕した。

 この圧倒的な魔力。

 主のそれすら超えていないか?


 そして、何故それだけの魔力が操れる? 

 ただそれだけの疑問が心の中に何度も反芻される。

 

 いや、そうか。

 彼女はアレか。

 そう、化物だからか。


 何故か、納得してしまった。


「や、やめ──」


 伝導卿(エパンジェ)はその拳を広げ、眼前にて合わせた。

 

 幾多もの魔法陣が合わさり、その効果を発揮する。


 魔法陣の効果は収縮。


 収縮する魔力はやがて土系統魔法の理に従い、重力を得る。


 さらに、魔増具(ゲル・ブース)は1万人の魔力を生成するという魔道具である。本来ならば、溢れる魔力に身を割かれるという呪いの如き魔道具なのだが、伝導卿の名を冠する彼女の得意とするところは魔力操作。


 つまり、彼女の身に差し込まれた1000もの魔増具(ゲル・ブース)により得られる1000万人分の魔力を操ることが出来る。


 彼女の絶技はその魔力をただ一点に集めることによりこの世にブラックホールを出現させんとするもの。


 単純にして最強にも等しい魔法。


「絶技──核重烈明アトミック・グラビティ

 

 合わせた手のひらを離したその瞬間、その究極魔法は解放された。

 

 総てが黒い光に飲み込まれた。


 ゼルバードを、


 空間を、


 果てには音すらも。


 すべてを飲み込み消滅させた。


 超重力を顕現するその究極魔法により総てが消滅したのだ。

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