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第十一話 やれやれ、大人しくしておけば苦しむことは無かったのに

 突然現れたゼルバードに対して、ヴィシーたちが抱いた感想はただ一つ。

 ”こいつはヤバい”。


 背筋を撫で上げられるような感覚を覚えつつ、彼女たちは一味から奪った剣を構えた。


 絶望的な実力差を感じるが、それでもプルシュナを救出するには戦うしかない。


 ならば、先手必勝。

 戦いに置いて先手を取る事こそが、勝利につながる一つの要素なのだ。

 だからこそ、ヴィシーは危機を大音量で告げる本能を押さえつけ、踏み込んだ。


 そして、剣を突き出し、ゼルバードの喉を貫かんとした。


「うああああああ!」


 叫び、己を鼓舞する。


「──遅い」


 が、突然ゼルバードの姿が消えた。ヴィシーの剣は標的を見失い、空を突いた。


 次の瞬間、ヴィシーの仲間たちがうずくまった。


「グハア!」


 地面に無数の血の花が咲いた。

 

 そして、大理石の地面を紅く染め上げながら、目にも留まらぬ速さで、ゼルバードは動いた。


「お、お前は何者なんだ!?」


 仲間たちが倒れ行く中、何とか勘のみでゼルバードの剣戟を受けた。


 ビリビリ、と腕が痺れる中、彼女は一つの疑問を抱いた。


「なに、しがないただの戦闘員だ。だが、そうである事も叶わなくなってしまったが」


 憮然とした表情をその仮面の下で浮かべながら答えた。

 

 そして、彼の姿が再び消えた。


(ヤバいッ!)


 死の警告を全力で鳴らす本能に従い、回避行動をヴィシーは取った。


 ザクッ


 が、しかしギリギリの所で回避が間に合わず、脚が吹き飛んだ。


「ガアアアアアアアァァァァアアアアアア!!!」


 激痛が全身を駆け巡った。

 今まで、感じたこともない激痛に悶え苦しむ。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い


 脳が震え、恐怖に身が震える。

 股間の方から生ぬるい液体が零れた。


「やれやれ、大人しくしていれば苦しむことは無かったのに」


 地面に這いつくばり、悶えるヴィシーを睥睨し、ゼルバードは冷酷にそう言い放った。


 そして、剣を持ち上げ、関節に刺した。


「アアアアアアアアァァァアアアアアア!!!」


 再び、意識を喪失しかける程の激痛が襲った。

 

「こうやって、動かないようにしないと、抵抗するからな。お前は、ただそうやって蹲りながら仲間の死を見届けていればいい」


 ゼルバードは無様にもがくヴィシーを眺め、嗤った。

 

「さて、儀式を始めるとするか。そろそろ騎士団の連中も突入してくるからな。急がなければ……」


 そう言って、魔法陣の各角に生徒たちを並べ始めた。

 当然、その中にはエパンジェも混ざっている。

 どうやら、先ほどの剣戟に巻き込まれ、腹を貫かれたようだ。


 そんな中、未だに気絶していないヴィシーは腹に穴の開いた仲間たちを見て涙を流しながら絶望した。


◆◇◆◇

 

 絶望な力量差だった。


 あの男には絶対に敵わない。

 

 そんな事が本能で分かってしまう。


 そして、同時に自分の考えがどれだけ甘かったのか知った。なぜ、周りにあれだけ止められていたのに、振り切ってここまで来てしまったのだろうか?それこそ、大人に任せておけば良かった。まだ死にたくない。

 

 自分は、ぬくぬくとした寮で、ぬくぬくと育った。

 目の前に居る男は死の薫りを濃厚に纏っている。

 一目で分かる。住む世界が違う、と。

 

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない


 激痛に脳が軋む中、その言葉がグルグルと回った。

 

 激痛で思考が霞む中、静かに緩やかに走馬灯の様な物が流れてきた。

 あの日の事もまた、流れてきた。



 ──学園に入学したころのアタシは、どこにでも居る、平凡な学生だった。

 

 しかし、ある日、カースト上位の女子たちに目を付けられた。


 アタシは、どうやら顔だけはいいらしい。しかし、どうも美が何だとかの感覚には疎いらしく、化粧とかにはあまり興味が湧かなかった。

 そんなところに女子たちは腹だったらしく、美貌を持つのにイマイチ疎いという点でケチをつけてきた。


 そんな訳でアタシは陰湿ないじめを受けるようになった。


 教科書をトイレに沈められ、財布をドブに捨てられ、挙句の果てには殴られまでした。


 いじめられること一年、アタシはこの現実に絶望していた。

 このクソみたいな世界を呪った。

 何度、人類が滅びればいいと思っただろうか。


 そんな中、あの日、プルシュナ様がアタシの前に現れた。

 

 初めて見た彼女は、輝いていた。

 どこまでも自信に満ち溢れ、美しき覇気を纏った彼女を思わず女神だと見間違えたくらいだ。


 そんな彼女は、アタシをいじめていた連中を一蹴した。

 

 曰く、”気に食わない”と。


 そして、アタシを取り巻くすべてのいじめは総て無くなった。

 

 アタシは、その日、あのお方に忠誠を誓うと決心した。

 あのどこまでも美しいお方に一生使えることが自分の使命である、と考えるようになった。


 そして、努力に努力を重ね、あのお方に役に立つことを示した──



 そんな事を思い出し、再び意識は鮮明になっていった。


 ああ、プルシュナ様を助けなければ。

 

 そうだ。アタシは、あの時の恩を返さなければならないのだ。


 そう。自分は、あの日決意したのだ。


 腕は、関節を断ち切られて動かない。


 しかし、胴は動ける。

 芋虫の様に這う事は出来るのだ。


 この魔法陣は明らかにヤバい。

 間違いなくこれが起動されればプルシュナ様が消えてしまうヤツだ。

 本能で分かる。


「頼む……」


 視線の先に居るのは、入学して早々に自分の首を掴み上げてきた新入生。

 名前は……エパンジェ。

 彼女は、初めて見たときからその異質さに目を惹かれた。

 何だろうか……あの銀髪ガスマスク男と同じ、濃厚な死の薫りを纏っていたのだ。

 恐らく、彼女ならばアイツに対抗できる筈。


「もう……お前しか頼れないんだ……お前だけが頼りなんだ」


 血と涙と、鼻水で汚れた顔で、懇願した。

 エパンジェも魔法陣の一角にて倒れていた。


「お前が……いや、あなた様が天使でも、悪魔でもいい。だから、プルシュナ様を救ってくれ……」


 そして、エパンジェのもとに辿り着いた。


「頼むから……プルシュナ様を……」


 エパンジェの腕に触れた。


 ──次の瞬間、膨大な魔力が地下室を震わせた。

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