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第十話 監禁されし少女

───事件数日前───


 薄暗い下水道にて、男は歩いていた。


 銀髪を後ろに纏め、素顔はガスマスクで隠している。

 屈強な肉体が衣服の隙間から覗き見ることができ、歴戦の猛者の風格を感じる。


 そんな男が、下水道の一角にてその歩みを止めた。


 そして壁を一定のリズムでノックする。

 すると、音を立てて壁が動いた。


 後にはさらに奥へ通ずる通路が現れた。


 男はさらに奥へ向かって歩いて行く。


「お待ちしておりました」


 通路の奥にて、レザーベストを纏った戦士風の門番が、一礼した。


「ヴァルゼイド様は?」


「──奥に」


 それを聞くと、目を閉じ一息付いた。

 

 一息つき、気持ちを落ち着けた後にさらにさらに奥へ進んだ。


 暫く歩いていると空気が変わる。


 凍てつく様な、肺を焦がす邪悪な魔力を感じる。

 

「ゼルバード、只今参りました」


 圧倒的な魔力を持つその主に対して跪き、首を垂れる。


「少し、遅くは無いか?」


「大変申し訳ございません」


「まあ、どうでもよいが」


 すると、玉座に寛ぐその主は足を組んだ。


 主の顔は、いつも通りフードに隠れて良く見えない。

 しかし、細身のシルエットであることは分かる。 

 中性的なその肉体からは性別を把握することは出来ない。


「──例の件はどうなった?」


「準備は着々と進んでおります。現在、学園の外部侵入を防ぐ結界に対しての対抗魔術を準備している所です」


「ほう」


「あの学園長が生成した魔術が中々に硬くて……少し時間がかかっております」


「あの髭眼鏡か。確かに、奴は結界術に長けているな」


「ヴェルゼイド様の助力があれば、直ぐに破れるのですが……」


「ならん。他の特S級冒険者に勘づかれると面倒だ。それに、神変卿に気付かれるといくら俺でもたまらん」


「成程……」


 少し、不機嫌そうに主は眉を潜めた。


「だが、少しは力を与えよう。受け取れ」


 すると、眼の形を模した魔道具をゼルバードの方へ投げた。

 

 それをキャッチし、観察してみる。


「これは──」


「ああ、魔破具だ。それがあれば一発で学園の結界を破る事が出来る」


「素晴らしい物を……」


 再び深く跪いた。


「では、私はこれにて」


「さっさと王家の血を持ち帰ってこい。そろそろ例の計画を動かしたい」


「──了解しました」


 そして、一礼した後にゼルバードはその場を後にした。


◇◇◇◇

───事件当日───


 はて、と首を傾げる。

 気づけば暗がりの中で粗雑な椅子の上に縛り付けられていた。

 自分にはこんな趣味は無かった筈。


 では、誰かにここに縛り付けられたのだろうか。


 内心で疑問に思いつつ、次の瞬間全てを思い出した。


 確か、自分は、プルシュナは突然起こった爆発に巻き込まれて意識を失ったのだ。

 

 女子寮の自室にて、いつも通り魔学を勉強していた時、突然爆発が起こった。

 空間が急に歪みだし、背筋が凍てつく様な魔力を感じたのちに、空間を歪ました魔力が解放され爆発が起きた。

 

 その爆発に巻き込まれ私は気絶したのだろう。

 

 恐らくだが、あの爆発は学園に張られた侵入者を弾くための結界を破るための物なのだろう。


 ならば、これはなんらかの悪意ある組織による計画的な物だろう。

 そして今、私が縛られているのも計画していたものでは?


 自分は、この国の第三王女。

 さらには表向きには才覚溢れる王女を演じている。

 王国を弱体化させたい帝国の工作なのでは?

 それに、最近急速に帝国との外交は冷え込んでいると聞く。

 

 では、今すぐにここを脱出しなければ。

 でないと父上に、弟に迷惑をかけてしまう。


 そう思い、魔力を体内に回し、自分を縛り付けている鎖を吹き飛ばそうとした。

 が、魔力を回し始めてすぐに違和感に気付いた。


「──魔封じの鎖……」


 まあ、予想はしていた。

 誰が捕縛対象を縛る時に通常の鎖を使おうか。

 

「そうだ。それは魔力を打ち消す性質を持つ鎖。貴様では破れんだろう」


 独り呟いたその言葉に返答が返ってきた。

 暗がりに目を凝らすと、銀髪の、ガスマスクを被った男が居た。


「あなたは……見たこと無い顔ね。帝国の回し者かしら?」


「俺が答えるとでも?」


「そう、帝国の回し者ではないのね」


「なぜそう考える?」


「帝国人はどうも冷徹な雰囲気を纏っていてね。どういう訳か、話すだけで分かるのよ。帝国人かどうかが」


「成程……いい嗅覚だ」


「そうね。私には弟程の才能は無いけど。勘だけはあるのよ」


 小さなころから自分は才能で弟に勝つことは出来なかった。

 そもそも、魔導書を一目見ただけで総てを理解できる者に勝てるとでも?

 まあ、そんな弟にただ負けているだけなんてムカつくから努力はした。


 時折弟を呼んでボコボコにしたのは……少し悪かったとは思っている。

 しかし、ムカつく奴を殴るのは気がスカッとする。


「あと、この魔封じの鎖、欠陥品ね。破れてしまったわ」


 魔力封じとは、言わば電波妨害のそれと同じだ。

 周波数に干渉してきて、魔力を練る事を妨害してくる。

 簡潔に言えば以上が魔力封じの仕組みである。


 だからこそ、この周波数への干渉を対策してしまえば魔力封じを破るのは容易い。

 

「ほう……破るか」


「そうね。私を縛りたかったらもう少し質のいい魔力封じの鎖を用意する事ね」


「そうか。だが、貴様には次は無いが」


「そうかしら?案外物事はやってみないと分からないものよ?」


「剣も持たぬ貴様にどうこうすることが出来ると?」


「出来る。少なくとも、あの人なら出来る」


「あの人?」


「世間では伝導卿と呼ばれる人」


「ああ、あの新人(ルーキー)か。確かに奴ならば出来るな。だが、貴様は奴ほどの力はないぞ?」


 その言葉を聞き、プルシュナは不敵に笑った。


「……まあ、やるだけやるわ」


 そう言い、男に殴りかかった。  

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