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ドール  作者: 竹取 裕基
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第十六章

やがて夕食を食べ終わった後は入浴だ。あかねが順番を仕切った。最初に紗耶香、麗香が二人で入る。その後は、絵里、未祐、が入り、沙羅、由香里、最後に、田中とあかね、の順番となった。最初は、田中が風呂に入る際に、沙羅と由香里が風呂に一緒に入ると言って聞かなかったのだが、トラブルの原因となるから、田中と一緒に入るのは、やめた方がいいと、あかねがなだめ、また、あかね一人で風呂に入るのも大変だから、田中とあかねが一緒に入る事にする、あかねの入浴を田中が手伝う、と言ったところ、渋々二人は同意したのだ。沙羅はあかねが田中と風呂に入る事は内心面白くない様子だったが、何も言わなかった。

 総勢八名いるので、シャワーだけ、という事になったのだが、それでも入浴は思ったより時間がかかった。

 田中とあかねが入る時には零時を回っていた。

 酔っぱらった絵里が、廊下でビキニのまま、だらしなく床で寝込んでいるのでそっと毛布を掛けてやり、先に入った紗耶香と麗香はダイニングの隅で二人、毛布をかぶって横になっている。未祐はリビングの隅で横になり、沙羅と由香里は田中の隣で寝ると言って聞かなかったが、また喧嘩になるといけないので沙羅も由香里もリビングの隅で寝てもらう事にして田中は一人、ベッドで寝る事にした。

 あかねは、ちょこまかと歩き回っては様子を見ている。

 田中は、薄暗い寝室の天井を眺めながら、先ほどあかねと風呂に入った事を思い出していた。

 洗面器に湯を入れてやり、そこで気持ち良さそうに湯船につかっていたあかねの右足の裏に、黒い星型のあざのようなものがあったのだ。よく見ると五芒星だ。これはなんだ? と、あかねに尋ねても解らない様子だった。まるで印刷したかのようにくっきりと見えた。

 何だろう? 何かの印だろうか? その事が気になって、頭から離れなかった。

 それにしても、それまでの静かな暮らしが、ドールが覚醒した事でまるで女子高のようになった事は嬉しい反面、やはり大変だ。今夜の夕食の費用を見ても解るように、生活費もこのままでは足りず、ドールたちにも働いてもらわないといずれ破綻するだろう。

 だが、ドールにいったいどんな仕事ができると言うのだ? 戸籍もない。身分証明書もない。健康保険証もない。預金通帳もない。もしドールたちが病気でもしたらどうするのだろう? 保険証もなければ物凄い金がかかる。既に自我が芽生え話す事も動くこともできるドールを捨てたり殺したりできるだろうか? それは心情的に無理だ。

 そんな事を考えていたら、頭がパニックになりそうな気分がしてきた。

 寝よう、そう思って目を閉じたが頭がますます冴えてきて、寝付けなくなった。

 近くに歩いてきたあかねに、散歩してくる、と告げてそっとベッドを抜け出す。薄暗い中、ドールたちを残して、玄関を出た。深夜のマンションの通路を照らす灯りだけが点々と見えた。通路の窓からは、真っ暗な海が見える。

 静かにエレベーターの扉が開き、そこに乗り込んだ。

 マンションを出た。

 駐車場の街灯が白く冷たい光でアスファルトを照らしていた。

 暗い夜空を見上げる。

 星が広がっていた。無数の星を眺めた。宇宙には、きっと地球のような惑星があって、人間のような生き物が住んでおり、向こうからも、こちらを眺めているかも知れない……と思った。

 この広大無辺な宇宙には、きっと様々な生き物が住んでおり、信じられないほど文明が進んだ星もあるに違いないと思うと、ロマンを感じた。

 そう考えると、人形が覚醒するなど、取るに足りない事にも思えてくるのが不思議だった。

 しばらく、星でも見ているか。田中はそう思って、星空を見上げていた。

 


その日の夜。

 田中をはじめ、皆が寝静まっている暗い部屋の中で、小さな人影が蠢いていた。

 あかねだ。あかねが、音もたてずに、開いていた窓からベランダに出た。白々と明け始めた空に褪せた色の月が、西の空に傾いている。

「フフフ。うまくいってる。これからが楽しみだね」

 独り言をつぶやきながら、あかねは月に向かって笑った。

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