第十四章
絵里と田中は、シャワーを浴びリビングに戻った。絵里は、ビキニを干し田中のトランクスを履き、そして田中のTシャツを借りた。
リビングに戻ると、沙羅が紗耶香と話をしている。その隣に麗香が沙羅と紗耶香の顔を交互に眺めながら、うなずいたり、微笑していた。
「そうだ、沙羅」
「何?」
沙羅がキョトンとした目を向けた。
「……これ、一体どういう事?」
「どういう事って……?」
沙羅が良く解らない、と言う表情をした。
「どうして、他のドールもすべて覚醒したんだよ?」
田中は聞いてみたのだ。
「解らない。私も解らないの。朝、起きたらもう、こうなっていたんだ」
沙羅は、何が何だかわからない様子に見えた。
「そうか……」
それ以上、追及するのは、やめた。もしかしたら夢日記を沙羅が盗み見したのか? とも思ったが、あの日記は鍵付きの小さな扉の中に入れてあるし、その鍵はいつも持ち歩いているから沙羅が開けられるはずはない。
そう思うと、理由は解らなかった。もしかすると、あの呪文には仙人が説明してくれていない何か別の作用があって、他のドールも、覚醒させてしまうのだろうか? そう考えてもみたが、自分でも良く解らなかった。
とにかく、家に帰ってきたらまるで女子高の教室のようになっている自宅を見て、今でも信じられない思いだ。先ほどは絵里に迫られ童貞を奪われるという嬉しい事態も起きた。まるでハーレムと化したこの家に住むのも面白くなってきた。
ドール全員と好きなだけセックス出来たら、どんな気持ちになるのだろう?
そう思うと、思わず笑みがこぼれてきた。
「何をニヤニヤしてるの?」
突然、沙羅がそう言った。
「変な事、考えてないかな?」
そう言って、口を尖らせている。少し、怒っているようだ。
「そ、そんな事、ないよ」
「嘘。絶対いやらしい事、考えてる」
そう言いながら田中の腕をつねった。
「痛い!」
思わず声を上げた。
沙羅は、そんな田中に向かってフン! と声を立てて去って行った。結構、怒っている感じがした。もしかしたら、絵里を抱いたことがバレてしまったのか? と心配になった。
「ちょっと出かけてくるよ」
そう言って、プリプリしている沙羅を後にして、家の玄関を開けた。背後では、女たちの笑い声やしゃべり声が聞こえてくる。
一夜にしてハーレムになってしまった家も悪くはないが、夜勤明けで全く仮眠していない事に気が付いたのだ。さすがに体がへとへとになっていた。騒がしいドールたちに占領されている家では落ち着かず、車でどこかに出かけて、仮眠しようと思ったのだ。
車に乗り込もうとすると、誰かに肩を叩かれた。
「どこへ行くのですか?」
後ろを振り向くと、そこにはメイド服を着た女がいる。
由香里である。ふっくらとした胸がはちきれんばかりだ。
「ああ、ちょっと出かけようと思ったんだ」
「私も、行きたいです」
そう言うと、満面の笑みを浮かべている。断るのが悪い気がした。
呪文で覚醒した由香里は、どこから見ても生身の人間にしか見えない。
「ああ、いいよ。でも、俺、疲れているから、どこかで車を止めて休みたいんだ。それでもいいかい?」
「ええ、いいです」
由香里は嬉しそうに言った。
「じゃあ、乗っていいよ」
そう言ってやると、由香里はありがとうございます! と言うと大きな胸を揺らしながら、嬉々として乗り込んだ。
車を出した。既に太陽は高く上っている。
時計を見ると、既に午後一時に近い。強烈な眠気が時折襲ってくる。
「眠らないように見張っていてくれないか?」
「解りました」
由香里がそう言うと、そっと田中の頬に触れた。
思わずドキッとした。ハンドルを握り続ける。
坂道を降り最初の交差点を左に曲がってすぐのところに、いつもよく行くコンビニがあった。
「着いた。ちょっと寝るよ」
そう言いながら、シートを倒す。
瞼を閉じる。エンジンはかけたままだ。
「おやすみなさい」
由香里もシートを倒し、そう言ったのが聞こえた。
目を閉じる。エンジンの音とエアコンの風がやがて遠のいていった。シートに自分自身が溶けてゆくような心地よさを感じながら意識は遠のいていった。