無双と夢想編 その4、蛸とオバケの世界
新たな時代へと投げ出された高雅は周りを確認していた。
これと言って知っている場所ではなく、目印になるような建物もない。
少し田舎染みた場所に来ていたのだ。
高「何もないな~」
ア「人も全然いないね」
エ「歪みの反応を感じられない」
三者三様の言葉を並べ、途方に暮れていた。
ただ、最後の言葉に高雅が口を挟んだ。
高「おい、歪みの反応が無いって、どういう事だ?」
エ「多分、極度に小さな歪みなのだろう。それ故、反応を完治することが出来ないのだ」
高「手掛かりゼロか・・・ん?」
高雅は耳を澄ますと、聞き慣れた大嫌いな音が聞こえてきた。
それと同時に、鼻をくすぐる潮の匂いもして来た。
高「波の音・・・海・・・あっ!!」
ア「どうしたの?」
アリアは気付いておらず、高雅のリアクションが不審に思えた。
高「海だよ。ここは、前に皆で行った海辺の周辺だ」
ア「そう言えば、どことなく・・・そんな気が・・・」
エ「身に覚えがあるなら、そこに行ってみるのがいいだろう」
高「それもそうだな。よし、音と匂いを頼りに海に行くか」
ア「カナヅチの高雅がそんなことを言う日が来るなんてね」
高「・・・アリア、後で殴らせろ」
ア「あはは、ごめんごめん」
アリアが苦笑いしながら謝るも、高雅は全然許す気はなかった。
それを感じ取ったアリアは心から謝り、何とか許してもらったのであった。
さほど時間はかからず、海に到着した。
そこは人が一人もおらず、波音だけが響いていた。
高「気候的に夏だな。なら、もしかすると・・・」
ア「リンちゃんの家の私有地かもね」
高「あの時か・・・」
そう言って思い出に浸り始める。
しかし、巨大蛸との戦いで頭がいっぱいで他の記憶は殆ど消えていた。
高「・・・つまらなかった」
ア「そうかなぁ、ビーチバレーとか天体観測とか面白かったよ」
アリアの記憶はきちんと残っており、高雅の感想に疑問を抱いていた。
エ「おや、車がこっちに来てる」
高「ん?」
ふと首を横に向けると、大きなリムジンカーのような車がこちらに向かっていた。
高「マジでこの日かよ」
ア「と・・・とにかく隠れなきゃ。ここは私有地だし、居るだけで怪しいよ」
エ「しかし、ここら一体は何もないぞ」
見渡す限り、砂浜で建物や漂流物などは一切ない。
つまり、隠れる場所は陸地にはなかった。
だったら、隠れる場所は一つ。
高「アリア、活性の力で肺を強化してくれ」
ア「まさか・・・溺れる気!?」
高「そんな類だな」
高雅は一目散に海へダイブした。
浜辺からだから、深い所までは少々時間が掛かったが、その間に活性の力で準備をした。
そして、高雅はそのまま沈んでいき、水深10メートルの所まで沈んだ。
もちろん、普通に水中を普通に二足歩行をしている。
高(ふぅ、何とかなったぜ)
ア(息はどれくらい持つの?)
高(まぁ、5分は持つだろう。その間にどっか遠くに行っておかねえとな)
取りあえず、なるべく遠くに離れるように水中を歩き始めた。
その束の間だった。
ピタッ
高「ゴボボッ!?」
ア(コウガ!?)
突然、蛸が高雅の顔にくっ付いて来た。
高雅は驚いて空気をかなり吐き出してしまった。
高(この・・・邪魔だ!!)
蛸を引っ張り、何とか顔から引き離すと、そのまま蛸はどこかに行ってしまった。
ア(コウガ、だいじょ・・・・ぷっ)
アリアは突然、吹き出しそうになり、喋るのを止めて耐えようとしたが、少し吹き出してしまった。
次第にそれは、空気の入った風船に穴を開けるようにすぐに爆発した。
ア(あははははははははははは)
高(何だよ?)
ア(だ・・・だって・・・顔が・・・あはははははは)
高(だから、何だよ!?)
エ「コウガ君、顔に吸盤の跡が付いてるよ」
高(!?///)
高雅は慌てて顔を確認しようとするが、水中で自分の顔を見ることは出来ない。
アリアは焦った高雅の姿を見て、さらに笑い声を上げる。
人間状態なら、腹を抱えてひっくり返っているだろう。
高雅は自分の顔を確認するため、急いで遠くに行き、海中から上がった。
この時、高雅はあの蛸に重大なミスをしてしまっていた。
高雅の吐いた空気には、活性の力が混じっていたのだ。
それによって、あの蛸の細胞は急速に成長したのであった。
この事は高雅達に知られることはなかった。
高「ふぅ~、えらい目にあったぜ」
高雅はあれから、かなり離れた浜辺にいた。
吸盤の跡が引くまでずっと待機していたのだ。
その間に、アリアを制裁していたりしていた。
エ「コウガ君、この辺りに歪みの反応を感じる」
高「そうか。よし、行くぞアリア」
ア「うう~・・・痛いよ~・・」
アリアは頭に出来た五重のタンコブ塔を擦りながら泣いていた。
高「笑い過ぎたお前が悪い。さっさと行くぞ」
ア「は~い・・・」
アリアは反省をし、高雅の恐ろしさを改めて知ったのであった。
エクスの後ろをついて行くこと数分。
エ「これだ。これが歪みの原因だ」
高「・・・・なぁ、一ついいか?」
高雅は付いた場所と歪みの対象に納得がいってなかった。
場所は、先ほどの場所から変わらず浜辺である。
そして、歪みの原因は小さな生物であった。
高「本気でこれが歪みと思うのか?」
エ「間違いない。こいつから感じるのだ」
高「ただのヤドカリじゃん!!!!」
高雅の大きな声にビックリしたのか、ヤドカリは殻に籠ってしまった。
ア「さすがに、ちょっと疑うよね」
高「ちょっとどころじゃねえよ!!」
エ「しかし、本当に歪みを感じるのだ。僕を信じてくれ」
ア「コウガ、一応、騙されたと思って・・・」
高「・・わーったよ」
高雅は足を振り上げると、ヤドカリの殻を粉砕しつつ、中のヤドカリを潰した。
無関係なヤドカリを殺すことに少し罪悪感を感じていた。
すると、信じ難い事に、目の前の空間が歪み始めたのであった。
高「・・・マジかよ」
エ「ほら、僕の言った通りだろ?」
ア「あはははは、まさか本当だとは・・・」
流石のアリアのこれには苦笑いで答えた。
高雅は歪みの事を改めて新しく認識したのは言うまでもなかった。
高雅は歪んだ空間へ飛び込み、新たな時代へ飛んだ。
次についた場所は薄暗い夜の校舎だった。
高「夜か・・・あれ?、エクスは?」
いつも近くに漂っていた謎の光、エクスの姿がなかった。
何度も周りを見渡すけど、どこにもエクスの姿は見えなかった。
ア「ほんとだ。一体、どこにいるのだろう?」
高「ま、腹減って飯でも食いに行ったんだろう」
ア「いやいや、この状況であり得ないでしょ」
高「冗談に決まってんだろ。しかし、いないとなると、歪み探しに手間が掛かる」
今まで、全ての歪みはエクスのお陰で見つかっていた。
しかし、いないとなると探すのにどれ程時間が掛かるか分からない。
ア「エクスの事が気になるけど、ジッとしてても始まらないよ」
高「・・・仕方ねえな。移動するか」
ア「展開的に、旧校舎に行ったらいいんじゃないかな?」
高「展開的・・・」
取りあえず、突っ込むのも時間の無駄だと思い、高雅は旧校舎に向かった。
フードを被り、なるべく誰かに見つからないように遠回りをしながら。
その所為でいつもより時間が掛かった。
高「何とか、ばれずに入口まで来たが・・・」
ア「この時代の私がいるね」
入口付近には昔のタイトとアリアが待機していた。
ア「まさか、肝試しの時とはね」
高「どうして、俺が行くところに(昔の)俺がいるんだよ・・・」
そんな呆れながらも、気配や姿、足音を消しつつ、真横を通り過ぎていった。
そのまま中へ入ると、行くあてなどもないので、適当に教室めぐりを開始した。
あるもの全てを一つ一つ調べていくが、歪みの感覚など詳しくは分からない。
それでも、高雅は探し続けた。
高「はぁ~・・・エクスがいれば、目安は付くのにな」
ア「とにかく、エクスと歪みを探そうよ」
高「今、探してるっつの」
そう言って、次の教室へと入って行く。
ボロ机やそのままの黒板など、丁寧に調べていった。
しかし、そんな同じ行動に高雅は飽き飽きしてきていた。
高「かったり~。アリア、お前も手伝え」
ア「え~・・・やだよ~」
高「愚痴を言うな。手伝えよ、ほら」
そう言ってブレスレットを適当な方向に投げる。
ア「え!?、わわわ!?」
アリアは突然の事に慌ててしまい、反応が遅れてしまった。
そして、目の前には机が待ち構えていた。
ガタン!!
人間状態になって着地しようとしたが、豪快に机に頭をぶつけてしまった。
ア「いった~。酷いよ」
高「いいから探s「やっと仕掛けに遭ったか?」!?」
突然、廊下から聞こえてくる声。
それは幽霊などではなく、聞き覚えのあるセリフだった。
ア「この時代のコウガだ」
高「安心しろ。俺達の声や姿は分からない。ジッとしてれば見つかりはしない」
そう言って廊下の方をジッと見つめる。
すると、入口の小窓から人影が映った。
高「・・・そっか。わざわざ入れさせる必要が無いな。アリア、扉を固定しろ」
ア「わざわざそれもする必要が無いんじゃ」
高「変に長居されては嫌だからな。入れなければすぐに諦めるだろ」
ア「そっか。じゃあ、固定するね」
アリアは方向の力を使い、扉が開かないようにした。
案の定、影を見る限り懸命に開けようとしているが、扉が開くことはなかった。
そして、影が離れ、安心しきったその時だった。
ア「・・・ん?、鼻がムズムズする・・・」
さっき、机にぶつかったとき、大量の埃がアリアの周りに舞い上がっていたのだ。
そして、それはアリアの鼻をくすぐっていた。
ア「ふぁ・・・ふああ・・・・っくしゅん!!!」
ガララッ!!
高・昔高「な!?」
扉が勢いよく開いてしまった。
アリアがくしゃみをしてしまい、その時に力が誤作動を起こしてしまったのだ。
高「バカ野郎!!」
ア「ご・・ゴメン!!」
アリアは手を合わせ、謝るジェスチャーをする。
それで高雅の怒りが収まるはずもなく、頭に鉄拳を浴びせられた。
この時代の高雅は首だけを回して辺りを見渡すと、何もない事を確認し、扉を閉めた。
高「ほ、さっさとどっか行ってくれたか」
ア「あう~、痛いよ~」
高「ったく、逆に滅茶苦茶怪しかったじゃねえかよ。何とか長居されずに済んだけどよ」
ア「だって~・・・」
しょうがないよ、と涙目で高雅に訴えるが、高雅は全くもって許していなかった。
高「とにかく、こんなドジはこれだけにしてくれよ」
ア「はい、気を付けます」
アリアが心から謝ると、高雅もやっと落ち着いて来た。
高「じゃ、歪みとエクスを探すか」
エ「その必要なねえ」
ア「えっ!?」
いつの間にか、いつものように高雅の周りに光が漂っていた。
しかし、その光は黒みを帯びていて少し変わっていた。
高「あれ、染めた?」
エ「ああ?、偉そうな口きいてんじゃねえよ」
ア「え・・あ・・・ほんとにエクス?」
変わり果てた口調にアリアは戸惑っていた。
それでも、高雅は何ら変わりもなく接していた。
エ「はん、その様子じゃ、もう一人の俺から聞いてねえようだな」
ア「な・・何を?」
エ「はぁ、全く。あいつは隠してんじゃねえよ」
そう言ってエクスはため息を吐いた。
光の塊がため息する所を想像すると、全く見当がつかないだろうが、そこは勘弁(笑)。
エ「俺は夜に現れるもう一人のエクスだ」
ア「それってつまり・・・」
高「二重人格者ってことだろ」
エ「ほほぉー、お前は冷静なんだな。こんな性格の俺を何とも思わねえのか?」
高「別に。関係ないな。それより、歪みの場所を教えてくれ」
エ「へへ、気にいったぜ。お前みたいなやつは初めてだ」
高「いいから、教えてくれ」
エ「あー、隣の部屋の机の中にあるティッシュだ」
高「かなり具体的に答えたな」
エ「へん、俺は昼間の俺より遥かに強力なんだぜ。こんな事、軽い軽い」
ア「ティッシュについて、ツッコマないんだ・・・」
アリアの呟きは聞こえることなく、高雅はさっさと隣の教室へ移動した。
そして、数ある机の中からティッシュの入った机を探し当てた。
高「めっけ」
エ「んじゃ、さっさと壊しちまいな」
高「壊すと言うより、破くだな。いや、この際焼くか?」
ア「何でもいいから早くしようよ」
取りあえず、破くことにした高雅はビリビリに破き捨てた。
すると、いつもの様に目の前の空間が歪み、次の時代へと繋がった。
高「後、何回歪みを壊せばいいんだろうか・・・」
エ「半分は進んでるぜ。あと一息だ」
高「ふん、口調に似合わずいいこと言うじゃねえか」
エ「るっせーよ」
そんな減らず口を叩きながらも、高雅は笑っていた。
そして、歪みへ飛び込み、次の時代へと飛んで行った。