消えた主人公、現れた主人公
フ「そ・・・そんな・・・」
高雅が消えた場所を見て、フィーラは愕然としていた。
A「嘘だろ。あいつが!?」
Aも信じられないでいた。
しかし、仲間の死に思い浸っている暇はない。
ア『キアアアアアア』
目標を倒せば次の目標を狙う。
アルテマが次に狙うのはフィーラかAか、それとも両方一偏にか。
どちらにせよ、ジッとしている暇などない。
フ「くっ・・・コウガ様とアリア様の敵です!!」
A「お・・おい!!」
フィーラが自棄を起こしてアルテマに突っ込む。
高雅とアリアが死んでしまった事がフィーラの暴走原因だ。
夢幻なのに接近にもつれ込むところで感情を抑えきれてない証拠である。
ア『ガアアアアアアアアアア』
フ「はっ!?」
フィーラが落ち着いた時にはアルテマが拳を振り上げていた。
フ「やばいです!!。夢幻が間に合わないです!!」
フィーラは目を閉じ、顔を庇って衝撃に備えた。
A「あぶねぇ!!」
Aが直撃寸前でフィーラを抱えて避けた。
しかし、すぐに二発目のパンチが飛んで来た。
フィーラ救出の事だけを考えていた為、その先は全く検討していなかった。
A「やべぇ・・・」
Aはフィーラを庇うように背中を向け、限界まで活性化して防御しようとした。
ボゴッ!!
そして、思いっきり殴られた音が鳴り響いた。
A「・・・え!?」
しかし、Aが殴られた訳ではなく、アルテマが自分の顔を殴っていたのだ。
Aに向かったパンチは途中で途切れ、アルテマの顔の近くに続きがあった。
A「な・・何だ!?」
?「空間の力でございますよ、A様」
A「え!?」
学校の屋上から声が聞こえ、その方を見るとレオを介抱している執事が立っていた。
A「あ・・あなたは」
セ「お久しゅうでございます。セバスチャンと申します」
A「あー、海に行った時にいた人か」
セ「思い出してくれましたか?」
A「はい、なんとか」
Aは一旦セバスチャンのもとへ移動し、フィーラを下ろしてあげた。
セ「さて、早速参りますぞ」
A「え!?。早速すぎねえか!?」
セ「時間がありませんのでしょう?。後、8分ぐらいで崩壊しますよ」
フ「そ・・そうです。早くしないとです。でも・・・コウガ様とアリア様が・・・」
フィーラはまた高雅とアリアの事を思うと俯き始めた。
セ「ほっほっほ。そのようなことですか」
フ「むっ!!、そのようなことってどういう意味です!!」
セバスチャンの言動にフィーラが怒りを覚え、怒鳴った。
セ「失敬。言い方を誤ってしまいました。コウガ様とアリア様は生きています」
フ「・・・え!?」
セ「ですので、ありもしない事を落ち込むことは無駄な事だと」
フ「そ・・そう言う意味です?」
セ「はい」
セバスチャンはにこやかに笑い、フィーラは怒り損だと分かると疲れがドッと沸き出てきた。
セ「さて、事情は後で説明するとして、5分間持ってください」
A「何故5分?」
セ「経ってからのお楽しみでございます。それより、敵様は待ってはくれませぬぞ」
セバスチャンがそう言うと、痛みから回復したアルテマが右目に黒い塊を創っていた。
A「げっ、あれはもう勘弁だぜ」
セ「では、動きましょう。動かなければ格好の的でございます」
フ「何か納得がいかないですが、仕方ないです」
A「とにかく、フィーラちゃんは俺が守ってやる。紳士の名に懸けて!!」
フ「逆に危ないので一人で大丈夫です」
A「そんな堅い事を言わz「来ましたよ!!」えっ!?、のわっ!!」
セバスチャンはレオを抱え、その場から離れた。
フィーラもAの言葉に耳を傾けず、さっさと避難していた。
お陰で、Aは避難し遅れて、黒い球に吹き飛ばされるようにして逃げた。
セ「では、こちらも参ります」
レオを安全な場所に避難させ、速度の力で一気に接近した。
セ「さて、これ以上壊させる訳にはいきません。コウガ様から復興作業は極力減らさせるように言われましたから」
セバスチャンはどこからか槍を取り出し、アルテマの首を突いた。
高速の槍は絶大な威力を誇るものの、アルテマの首は貫くことはできなかった。
セ「くっ・・硬いですね。さすが、天魔獣でございます」
これでも、活性の力も加わっている。
かなりの威力だったが、アルテマにとって蚊に刺されたみたいだった。
アルテマは微動だにせず、首にいる蚊を潰すようにセバスチャンを潰しにかかる。
しかし、叩いた場所はセバスチャンのいる所ではなかった。
セバスチャンは最初は意味が分からなかったが、すぐに理解した。
セ「ありがとうございます。フィーラ様」
フ「どういたしましてです。・・・?、どうしてボクの名を知ってるです?」
セ「ほっほ、これでも無知な老人ではありませんぞ」
フ「・・・まぁ、その言い草だと、ボクが楽園の者だと分かっているのです?」
セ「ええ、分かっています」
フ「お前、何者です?」
セ「しがない執事でございます」
セバスチャンが意地悪そうに笑顔で答えた。
フ「・・・何か、納得がいかないです」
セ「それより、後4分間頑張りましょう」
セバスチャンはそれだけを言って、また戦いに戻った。
セバスチャンの行動、言動が全く持って理解できないフィーラだった。
変わって、別の恐怖を味わっている場所。
?「さ~て、次は誰を食べさせようかしら?」
バ「キシャアアアアアアア」
バオは速く食べさせて欲しいのか、翼を広げて地団駄を踏んでいた。
?「慌てない。待てが出来ない子は餌を抜きにするわよ」
バ「シャアア・・・・」
?「よしよし、いい子ね」
巨大な生物を鎮める謎の女性。
とてもシュールな光景だが、そんなことを考える余裕などなかった。
一般人達は逃げることすらできず、餌にされるのを待つしかないからだ。
?「う~ん、そ~ね~・・・あの子を食べていいわよ」
龍「えっ!?・・・・」
女性は指を指して食事の許可を与えた。
その対象は龍子だった。
その瞬間、周りの人たちが龍子から一斉に離れた。
バ「イシャアアアアアアアア」
バオは待ちきれんとばかりに空へ飛んだ。
龍「・・・やだ・・・死にたくない・・・」
必死に懇願する龍子の表情を見て、謎の女性は笑っていた。
?「そうそう、その顔よ。死を恐れる恐怖の表情。たまんないわ~」
そして、空へ飛んだバオは一気に降下した。
人間の目では見ることすらできない速さだ。
龍子は目を瞑り、懇願し続けた。
バゴッ!!
バ「キエエエ!?」
龍「えっ!?・・・」
瞳を開けると、目の前に黒いフードをかぶった人がバオを殴りとばしていた。
バオは近くの建物の中に埋もれた。
?「なっ!?。あの速さを見切ったと言うの!?」
?「そうだよ。名無しのばーちゃん」
?「誰が婆よ!!」
?「取りあえず、ザコキャラなんだし、さっさと消えてくれ。お前じゃ俺に勝てねえよ」
?「舐めた口を。バオ、やっておしまい!!」
バ「キエエエエエエエエエエエエ」
雄叫びと共に、瓦礫を吹き飛ばしながらフードの青年を睨みつける。
?「殺気が出来てねえな。殺気は・・・こうだ!!」
バ「ッ!?・・・・・・」
フード越しで睨みつけられたバオは固まって動かなくなった。
そして、重い音をたてつつ、固まったまま倒れた。
?「ヘボい肝っ玉だな」
そう言うと背伸びをして、軽く骨を鳴らした。
女性は意味が分からず、取りあえずバオに近づいた。
すると、驚くことに気が付いてしまった。
?「・・・死んでる。殺気だけで!?」
?「悪いな。俺は容赦できねえんだ。諦めて死ぬかどっか消えろ」
?「ふ・・・・ふざけんじゃないわよ!!」
敵の挑発に乗った女性は無謀に突っ込んだ。
?「哀れな奴だな。実力が無過ぎる」
青年はため息を一つこぼし、どこからか蒼い双剣を取りだした。
そして、瞬速の速さで斬り刻み、女性を倒した。
もちろん、宝石も一緒に斬り崩した。
?「呆気ないな。さて・・・」
戦闘が終了すると、青年は龍子に近づいた。
龍「えと・・・あの・・・ありがとう・・・ございました」
?「どういたしまして」
龍(・・・あれ・・・この声・・・聞いたことあるような)
?「そうだ。一つ願いがある。聞いてくれるか?」
龍「えっ・・はい」
?「あれはもうすぐ倒されるから、皆にもう大丈夫だと伝えてほしい。できるか?」
そう言って青年はアルテマの方を指さしながら説明した。
龍子は指を指す方を向こうとすると、青年が頭を掴んで止めさせた。
?「アホ。お前が見たら恐怖で気絶するぞ」
龍「あ・・」
?「とにかく、俺はもう行かなきゃならねえから、後は任せるぜ。もう、怯える必要はねえよ」
それだけを伝えると、青年は空間を歪めてどこかへ行こうとした。
龍「ま・・待って!!」
龍子が必死に大きな声を出して止めると、青年は止まって振り向いてくれた。
龍「その・・・あなたは誰!?」
青年は困ったように頭を掻きながら空を仰ぎ、何かを閃いたように答えた。
?「俺は主人公だ」
それだけを言って、青年は空間の中へ消えていった。
そして、今ので龍子は確信を掴んだ。
龍「・・・やっぱり・・・高雅君だったんだ」
夢「大丈夫!?、龍子!?」
安全だと感じた夢はすぐさま龍子に近づいた。
龍「うん・・・大丈夫だよ・・・」
夢「・・・ゴメン。友達がピンチなのに、逃げちゃった私は最低だよね。ほんと、ゴメン」
夢は申し訳なさそうに俯き、謝罪の言葉を述べた。
龍「しょうがないよ・・・私だって・・・夢ちゃんの立場なら・・・逃げてたもん・・・だから・・・・・落ち込まないで」
夢「・・・全く、あんたは優しいね」
龍「龍子ちゃんもだよ・・・そうだ、皆に・・・もう大丈夫だって・・伝えるの手伝って」
夢「大丈夫って?」
龍「もう・・・怖がる必要が・・・・ないってこと」
夢「ほんと!?」
夢は目を丸くして、龍子の肩を思いっきり揺さぶった。
龍「ほ・・ほんと・・・だから・・・揺らさないで・・・」
夢「あっ、ゴメン。よ~し。じゃ、伝えて来る!!」
夢は一人駆けだして、皆に大丈夫だと伝え始めた。
龍子も遅れて伝えに行った。
納得できな人もいたが、このお陰で9割の人間は恐怖から解放された。
タイムリミットまで、後5分。
セバスチャンが加わり、戦況は少し傾いたが、それでもアルテマの方が上だった。
セ「くっ、ここまでとは。やはり、契約者のいない私では役不足でしょうか」
三人とも肩で息をしていて、既にボロボロの状態だった。
フ「みゅ~、夢幻があまり通用しないです」
A「き・・斬れねぇ・・・」
タ「拙者の力では太刀打ちできぬか」
半ば絶望状態に陥っている彼らは諦めムードになっていた。
ア『キアアアアアアアアアアアアアアア』
アルテマが叫ぶだけで大気が揺れ、恐怖が倍増されてゆく。
そして、アルテマはまた黒い物体を創り始める。
セ「全く疲れを見せませんね。こちらは既に疲れ果てていますのに」
放たれる黒い球を見て、三人は再び動き始め、回避した。
しかし、今回の黒い球は違った。
セ「ッ!?、パターンが違う!?」
黒い球は突然破裂し、中から先の尖った触手のようなものが出てきた。
A「うわっ!?」
フ「きゃっ!?」
Aとセバスチャンはなんとか反応できたが、フィーラは反応が遅れ、横腹を斬られてしまった。
セ「フィーラ様!!」
A「フィーラちゃん!!」
すぐに援護に向かおうとするが、他の触手がそれを許さない。
セ「くっ」
A「邪魔だ!!」
何度も何度も斬り伏せるが、触手の数は減らない。
余った触手がフィーラを捕え、主人の前に献上していた。
セ「しまった!!」
A「おいおいおい、やべぇぞ!!」
アルテマはフィーラを手で包み込む。
一時して手を放すと、黒い塊が出来上がっていた。
そして、大きく口を開けると、それを一気に呑みこんだ。
セ「なんと!?」
A「フィーラちゃんが喰われた!?」
その光景に完全に見入っていた二人は触手の事を忘れてしまっていた。
その隙をついて、触手はセバスチャンとAを拘束した。
セ「くっ」
A「このっ、放せ!!」
タイミングを見計らっていたのか、アルテマはまた黒い塊を創りだしていた。
A「くそっ、力が入らねえ!!」
セ「この触手、静寂の力が込められています」
A「マジかよ、ちくしょおおおおおおおおおお」
無理だと分かっても、もがき続ける。
しかし、どんなにもがき続けようが体力が減っていくだけだった。
セ「どうやら、ここまでの様です」
A「おい、あんたが言っていた5分後のやつは!?」
セ「残念ながら、4分しか経っていません。5分ちょうどに来るため、諦めましょう」
A「くそおおおおおおおおおお、死にたくねえええええええええ」
そんなAの為に待ってくれず、アルテマは黒い球を放った。
その球は標的に最短の距離で近づいて来る。
セ「万事休すですね」
セバスチャンは危機的状況にも関わらず、笑っていた。
?「死ぬ寸前に笑うなんて。どうかしてるぜ、セバスチャン」
セ「!?、その声は!?」
一瞬だけ耳を疑ったセバスチャンは目の前の人物を見て、さらに驚いた。
A「こ・・・高雅!?」
高雅が堂々と立っていた。
そして、黒い球を振り向きもせずに真っ二つに斬った。
さらに、いつの間にか全ての触手が木っ端微塵に斬り刻まれていた。
ついでに、Aも数か所斬られていた。
A「いってえええええええええ!?」
高「お前、いい加減学習しろ」
高雅はAに剣先を向け、にじり寄っていた。
Aは新しい恐怖に震えながら後ずさっていた。
そんな光景を見ながらセバスチャンは深刻な顔をしていた。
セ(今の斬撃、見えなかったですね。まさか、ここまで成長するとは。それに、5分経たずに戻って来たってことは・・・)
高「お前の作った修行場を破壊したってわけだ」
セ「なんと!?」
自分の思考が読まれ、セバスチャンは目を丸くして驚いた。
そんな光景を見て、高雅は面白く思い、軽く笑っていた。