天魔獣
速度の力でさっさと屋上への扉の前まで着いた。
ドアノブを握って扉を開けようとしたが、何か殺気を感じ、思わず動きを止めた。
ア「?、どうしたの、コウガ?」
高「いや・・・何かヤベー感じがしてな」
ア「コウガが怯えるって事はそれほどやばいんじゃ・・・」
高「まぁ、やってみなきゃ分からねえって。取りあえず、行くぜ」
ア「うん」
止めていた動きを再生し、扉を開けた。
その先には最初から来ていた安理明が柵に座って空を眺めていた。
安「あっ、来たね。よっと」
こちらに気付き、足を振って、軽く勢いを付けて柵から降りた。
高「で、さっさと始めるのか?」
安「ん~・・・ちょっとだけ、お話しようか?」
高「何を話すんだ?。と、言うか、何故時間稼ぎをする?」
安「あははは。そこまで、ばれてるの?」
頬を掻きながら苦笑いする。
高「昼休みに何をしたかは知らねえが、それが大いに関係してそうだな」
安「うん、そうだよ。そこまで気づくとは、中々やるね」
高「まっ、色々と巻き込まれてるからな。それに、人間じゃなければある程度、疑いが掛けれるし」
安「それでも、そこまで気づくのは高雅君ぐらいだよ。ほんと、敵じゃなかったら恋人になるのにぃ」
高・ア「なっ!?」
サラッと爆弾発言した安理明に驚き、高雅は顔を赤く染めていた。
安「あっ、照れてる。可愛いな~」
高「て・・・照れてねえ!!///」
安「顔を赤くしながら否定したって、説得力が全然ないよ」
高「っせい!!。黙りやがれ!!」
安「あれ、否定しないってことは、意識があったの?」
高「~~~~っっ!!!///」
高雅はさらに顔が赤くなり、黙り込んでしまった。
安「ほんと、敵じゃなかったら両思いなのにね」
高「お・・俺はお前のことなど思ってねえ!!」
高雅は腕を組んでそっぽを向き、全力で否定した。
安「はぁ~・・・それじゃ、そろそろ始めようか」
高「ん?、殺り始めるのか?」
安「そうだね。後、好きだった人への最後の情けだよ」
そう言って背中を向けて、少しずつ柵へ歩いて行った。
安「今から20分以内に私を倒せなかったら、緑淵高校にいる皆が死んじゃうから。いや、ここだけじゃない。ここら一体が死んじゃうよ」
高「はぁ!?。何でそんなことをするんだよ!?」
安「私だって上の者がいるもん。その人の命令は聞かないといけないから」
今度は柵に乗らず、跨って乗り越えて行った。
その先はもう妨げる物はない。
安「それじゃ、始めるね。戦いが始まったら、私は・・・もう・・・」
安理明は言い終わる前に足を空間に投げ出し、飛ぶこともなく、落ちて行った。
高「・・・アリア、剣になれ」
ア「うん、分かった」
両手に剣を納め、次第に大きくなっていく殺気を感じながら戦闘態勢を取った。
高「さーて、何が出るやら」
ア「何だか・・・怖い」
高「恐怖付きの殺気か。洒落た殺気だな」
そう言って評価するも、安理明がいつまでたっても現れず、時間だけが過ぎて行った。
高「おっせーなー・・・ん?」
突然、パラパラと不思議な破片が降って来た。
それは、ガラスを割ったような青い破片だった。
高雅は適当に一枚、拾い上げて確認すると見たこともない破片だった。
高「何だ、これ?」
ア「上から降ってき・・・・コウガ!!、上!!」
高「ん?」
アリアは言葉を失い、急いで高雅に上を見るように促した。
空を見上げると、空間が欠けていた。
まるで、卵から雛が孵るかのように。
高「何だ、あれ!?」
目を丸くして、驚きながら眺めていた。
空間が割れるのは収まることなく、次第に大きくなっていった。
それと同時に殺気も大きくなっていった。
レ「コウガ殿!!」
フ「コウガ様~!!」
高「!?、レオとフィーラ。何でここに!?」
どこからか、レオがフィーラを乗せてこの場所まで来た。
レ「ただものならぬ殺気を感じてな。それに・・・この感覚。忘れもしない、あの感覚に似ているのだ」
高「何か、訳ありって感じだな。で、フィーラは?」
フ「コウガ様の危機に駆けつけて来たです」
高「そうか。でも、あんまり無理するなよ。今日は一番ヤベー敵かもしれねえし」
フ「その時はコウガ様が守ってくれるです」
高「あんまり、俺に頼るn『キシャアアアアアアアアアアアアアアア』ッ!?」
異常な奇声によって、体が反射的に恐怖を感じ取った。
そのまま反射的に空を見上げると、割れた空間から恐ろしい顔が覗き込んでいた。
その顔は巨人を思わせる大きさで、顔中に包帯が巻かれ、辛うじて左目だけが巻かれていなかった。
?『キシャアアアアアアアアアアアアアアア』
比喩に例えるなら、一度叫ぶだけで体が震え、この世の希望が全て無くなるだろう。
そんな化け物を目の前にしている高雅達は自然と体が震えていた。
高「恐ぇ・・・純粋に恐ぇな」
まだ異次元から覗きこんでいるだけなのだが、高雅の体は震えが止まらなかった。
そして、化け物は一度首を引っ込めると・・・
?『キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』
ガシャーン!!
奇声を上げながら、巨大なガラスを割るように、化け物の周りの空間を粉々に破壊して出てきた。
出てきたと言っても、逆さまのまま上半身だけが異次元から出てきているだけだ。
体中が巨大な鎖で巻かれ、手には巨大な手錠が掛けられていた。
レ「・・・こいつはまずいぞ」
レオが小さく零した言葉を高雅は聞き逃さなかった。
高「何がまずい!?」
レ「奴は『アルテマ』と言って、生贄によって数分のみ存在できる天魔獣だ」
高「てんまじゅう?。どういうことだ?」
レ「天魔獣は生贄によって存在が許されるものだ。生贄の器にもよるが、天魔獣はその生贄を喰らっている時しか存在する事が出来ないのだ」
高「じゃあ、勝手に時間が経つのを待てばいいじゃねえか」
レ「だが、アルテマはそうはいかん。生贄を喰い終えると周囲10キロの空間を破壊してから消えるのだ。それは、ここら一体が死ぬと言う意味だ」
高「マジかよ!?」
ア「随分知ってるね」
レ「奴が、我が故郷を破壊しつくした奴だからだ」
高「なっ!?」
レオはアルテマを睨みつけると、自然に足に力が入り、怒りを込み上げていた。
レ「故郷の皆の敵を討つ!!!!」
高「バカチン」
高雅はレオに剣の腹で殴って意識をこっちに向かせた。
レ「何をする!?」
高「復讐は結構だが、それで我を忘れて突っ込んだら秒殺されるぞ。もっと落ち着け」
レ「あ・・・ああ、分かった。すまない」
高「分かればいいさ」
フ「あっ!!、あいつの胸に誰かいるです!!」
高「何!?」
高雅はアルテマの胸あたりに目をやった。
高「あれは・・・安理明!?」
そこには、安理明が体中に鎖を巻かれて束縛され、徐々にアルテマの体に取り込まれていた。
レ「あれは・・・アリア殿!?。どういう事だ!?」
高「あれはアリアと瓜二つの奴だ。いつものアリアはこっちにいる」
そう言って軽く剣を振って気付かせると、レオは納得した。
レ「そうか。しかし、あまりにも似ているな」
高「まぁ、声色も一緒だし、二人並べたら区別がつかねえし」
フ「・・・それって、『ホープミラー』じゃないです?」
フィーラからの見知らぬ言葉が出てきて、一同は首を傾げた。
高「何だ、それ?」
フ「あっ、ホープミラーと言うのは楽園の賜物の一つで、対象者の将来なりたい姿になるです。それで、誰かがアリア様を映した、というのがボクの推測です」
レ「成程。あながち間違ってはおらぬかもしれんぞ。アルテマの生贄素材は『力』だ。力の数が多ければ、それだけ長くこの場に存在できる」
ア「じゃぁ、誰かが知らない内に私を映したってこと?」
高「そう考えるのが妥当じゃねえか?」
フ「一体、誰がホープミラーを・・・」
?「うわー!!!???、何だあれ!!??」
恐怖の奇声を聞いて気になったのか、学校にいた先生や生徒達が外に出て来ていた。
高「グダグダ考えてる時間はない。多分、安理明を喰い終えるのは20分程度だ。その内にケリをつけるぞ」
レ「分かった」
フ「オーケーです」
高雅はアルテマの周りに点々と足場を創り、次から次へと跳んでアルテマの周りに移動し始めた。
レオも人間状態になり、フィーラも飛んで高雅の後を追った。
ア「コウガ、一般人に見られちゃうよ」
高「終わったら、あいつらの記憶を消す。どっちみち、こんな化け物を見てるんだ。消すのは確定だ」
ア「そっか」
高雅はある程度近づいた所で止まり、敵の様子を窺った。
アルテマは何もせず、ただボーっと高雅を見ていた。
高「さて、どこを攻撃したらよいか」
取りあえず、弱点らしき弱点を探すも、見当たらず途方に暮れていた。
そんな時。
A「とぉう!!」
高「あの野郎・・・」
Aが綺麗に三回転ジャンプをしながら高雅の隣の足場に着地した。
A「主人公登場。ヒーローは遅れて来るもんだぜ」
高「誰も聞いてねえよ」
A「ならば、見せてやろう。主人公の実力を」
高「ダメだこいつ。聞いちゃいねえ」
哀れなAにため息をしながら首を振り、その間にAは再び大きく跳躍し、アルテマの顔面前に剣を振りかざした。
A「ホァアアタアアアアアアアアアアアア」
威勢よく振りかざしたのはいいが、アルテマの顔面は堅く、呆気なく弾かれた。
ア『グオオオオオ・・・』
高「?」
すると、アルテマの左目に不気味な黒い気が集まりだし、巨大な顔を覆うような黒い塊が出来上がった。
ア『ガァッ!!』
A「うお!?、何だ!?」
それをAに向けて撃つと、Aは黒い塊に呑みこまれ・・・
ガシャーン!!
塊ごと粉々に散った。
あまつさえ、破裂した場所は空間さえ割れていた。
高「うわ、空間ごと破壊したよ」
ア「かなり強い破壊の力だね」
敵の攻撃にそれなりの評価を付けていると、まだ割れている音がしているのに気付いた。
高「ん?・・・〈バリーン〉うおっ!?」
突然、足場が砕け散り、高雅は落下していった。
他の足場も同様に砕け散っていた。
高雅は冷静に足場をまた創って、そこに着地した。
ついでに、Aがいた空間を再生してやると、Aは何事もなく復活した。
Aはキョロキョロと不思議そうに見渡し、何が起きたのか把握していなかった。
高「よっと。波動でもあったか?」
ア「分からない。レオ君に聞いてみたら」
高「だな。だが、そろそろこっちも攻撃するか」
高雅は速度+活性の力で思いっきり跳躍して、マッハの速さでアルテマの顔面前に着いた。
高「おらよ!!」
曝け出された目に向けて剣を思いっきり突いた。
しかし、目玉も異常に堅く、簡単に弾かれてしまった。
高「くっ、並みの攻撃じゃビクともしねえか」
ア「コウガ、下!!」
高「ん・・うおっと!?」
鎖が意識があるかのように高雅に襲い掛かって来た。
アリアが気付いていなければ、巨大な鎖で思いっきり打たれていただろう。
高雅は辛うじて避け、巨大な鎖を斬った。
高「鎖は脆いな」
鎖は意外とすんなり斬れ(それでも、十分に活性強化はしている)、高雅はその場から一時撤退した。
レ「次は我だ」
高雅が撤退したのを見計らって、レオが隙なくアルテマに突っ込んだ。
レオは己の手刀でアルテマの左目を突き刺した。
一回だけではなく、何度も何度も目に突きを入れた。
しかし、堅過ぎる目はレオの手をあり得ない方向へと曲がらせていた。
それでも、レオは攻撃をし続けた。
痛みを感じていないかのように。
ア『グウウウウ・・・・・グアアア!!』
流石に同じ所の連続攻撃には耐えられないのか、目を瞑って首を振ってレオを吹き飛ばそうとした。
しかし、レオは既にそこにはおらず、少し離れた場所で高雅に曲がった手を再生してもらっていた。
高「やるな。さすがだぜ」
レ「いや、フィーラ殿のお陰だ。さすがの我も痛みには敵わぬ」
レオが手をボキバキに折ってでも連続攻撃できたのは、フィーラが夢幻で痛みを消していたからである。
高「まぁ、やっぱ弱点はあの目だな。あっこに集中攻撃すれば、いずれ倒せるだろう」
レ「しかし、急がねばここら一体が消え去ることになる」
高「把握してる。だから、ここからは俺も本気で行く。アリア、真の契約だ」
ア「うん・・・分かった・・・」
アリアは剣から人間状態に戻り、恥ずかしそうに高雅の前に現れた。
高「どした?。やっぱ、恥ずかしいのか?」
ア「あのね・・コウガ・・・これは、契約としてのキスでもあるけど、異性としてのキスでもあるからね」
高「?、どゆこと?」
ア「も~っ!!///」
レ「コウガ殿、とにかく契約を早くするのだ」
高「あ・・ああ、分かった」
アリアの肩に手を置き、そして二人の唇を重ねあった。
ちなみに、Aと一般人からは見えないようにレオを盾にしている。
しかし、フィーラは見えているので、フィーラは不服そうに頬を膨らませていた。
契約を終え、アリアは剣になり、高雅はアルテマを殺気全開で睨みつけた。
高「さぁ、あいつを瞬殺するぞ」
ア「うん!!」
レ「出来るならな」
フ「やってやるです」
A「お前ら、サポートをたのm〈ドガッ!!〉ギャフン!?」
偉そうに言うAに一発蹴りを入れて黙らせ、再びアルテマの周りへ跳んだ。




