絶交
10月の朝。
本格的に肌寒くなっていく季節の移り変わり。
しかし、高雅にとってそれはどーでも良い事であった。
高「はぁ」
深いため息を零しながら机に突っ伏す。
ここ数日、アリアとレオからは軽く軽蔑され、フィーラとは顔を合わせてなかった。
龍「・・・どうしたの?・・・」
高「何でもねえよ」
龍「でも・・・もう4回目・・・」
4回目とは高雅のため息の回数である。
高「4回ため息したぐらいで気にするな」
龍「普通・・・気にする・・・」
ア「いいよ、リュウコ。コウガが悪いから」
龍「?」
高「だーかーらー・・・」
ア「ふんっだ」
龍子だけが分からず、二人のギクシャクはより深まるだけであった。
ア「コウガはA君と語ってればいいのよ」
高「・・・・・・」
ア「A君と一緒にいつまでも語っt「いい加減、黙りやがれ!!!」ッ!?」
遂に高雅がキレてしまった。
今まで抵抗しないで来たが、さすがにこれ以上は耐えられなかった。
高「さっきから偉そうに言いやがって、調子に乗るんじゃねえ!!」
腕にあるブレスレットを乱暴に外すと、それを思いっきり床に叩きつけた。
ア「いた!?。何するのよ!?」
アリアも怒りが爆発し、人間状態に戻った。
龍「二人とも・・・喧嘩は・・・」
高雅とアリアが取っ組み合いをし、龍子はそれを鎮めようとするが怖くて手が出せない。
力は高雅の方が上でアリアは完全に押されていた。
高雅は女だからって容赦なく、顔面や腹を殴ったりもした。
そして、首を掴み、壁に叩きつけた。
ア「がっ・・げほっ・・・」
高「俺が黙って聞くとでも思ってんのか!?」
高雅は完全に我を忘れていた。
また、昔の人を拒む目と共に。
高「調子づいていい気になりやがって。テメーなんざ、絶交だ!!」
ア「!?・・・分かった・・・もういい!!」
アリアは高雅を蹴っ飛ばし、距離を取った。
高雅はすぐに詰め寄ろうとしたが、自分の胸からあるものが出ている事に気付いた。
それは、契約した時の光る紐だ。
アリアはその紐を手に取るとそのまま引き千切った。
この奇怪は高雅でも理解できた。
契約を破棄したのだと。
もう、他人同士になったのだと。
ア「もう知らない!!」
アリアは窓から飛び出し、どこかへ飛び去って行った。
龍子は何が起こったのか分からず、ただ茫然と見ていた。
高「・・・・ちっ、胸糞わりぃ。帰る!!」
落ち着きを取り戻した高雅は鞄を手にとって教室を出ようとした。
龍「はっ・・・待って・・・高雅君!!」
高「何だよ?」
高雅は龍子の制止の言葉に素直に立ち止まった。
龍「その・・・これで・・・いいの?」
高「何が!?」
高雅は何かは分かっていたが遠回しに聞かれた事に少し腹を立てていた。
龍「その・・・アリアの・・・こと」
高「いいんだよ。あいつから勝手にやったんだ。俺が知ったことじゃねえ」
龍「ほんとに・・・そう思ってる?」
高「何?」
龍「アリアが・・・いなくなっていい・・・って思ってる?」
高「当たり前だ。あんなトラブルメーカーが消えれば清々する」
龍「それ・・・嘘・・・」
高「嘘じゃねえよ」
龍「嘘だよ・・・だって・・・目が潤んでるよ」
高「!?」
高雅は焦って目を拭った。
しかし、服には水が付いた跡などなかった。
龍「拭ったって事は・・・アリアを思っている・・・だよね」
高「テメー・・・誘導尋問か?」
龍「・・・ゴメン・・・」
さすがにやりすぎたかと龍子は頭を下げた。
高「・・・・・・じゃあな」
高雅はこれ以上いられないと思って教室を出た。
龍子が何か呼びとめていたのが聞こえたが構わず出た。
あのまま教室にいたら、龍子の言葉で自分の心がグシャグシャになりそうだったから。
緑淵町とは少し離れた森の中。
アリアは思い切ってどこか遠くへ行き、気付けば見知らぬ森だった。
適当に切株に腰を掛けて、一人空を眺めていた。
ア「・・・・・・少し・・・やりすぎたかな?」
高雅との大喧嘩。
殴り合いもするほどの喧嘩は初めてだった。
最も、一方的に殴られたのだが。
ア「まだ、頬がヒリヒリする。あんなに思いっきり殴られたの初めてだよ」
頬を擦ると少し熱を帯びているのを感じられた。
赤く腫れ上がっているのだろうと判断できた。
ア「それにしても、思い切って契約解除しちゃったけど・・・いいのかな、これで?」
今思えば自分が間違っていたのかもしれない。
高雅は何かが言いたかった。
それを、自分の嫉妬でそれを塞いでしまっていた。
自分勝手な発言で高雅を怒らせた。
ア「・・・何だか、全部私が悪い見たい・・・」
そう思いつつ、顔を正面に戻すと、そこに一人の少女が立っていた。
ア「?、あなた、どうしたの?」
?「・・・虹のお姉ちゃんだよね?」
ア「!?」
突然、ピンポイントな質問をした少女をアリアは警戒し始めた。
ア「何者!?。地獄の使い!?」
マ「そうだよ。私はねー、マイゴって言うんだよ。お姉ちゃんの敵討ちに来たよ」
ア「お姉ちゃん?、敵討ち?」
アリアは理解できなかったが、敵だと言うことが分かっただけでも十分警戒する対象になる。
ア「よく分からないけど、戦うってこと?」
マ「へぇ?、戦わないよ。お姉ちゃんは新しい玩具になってもらうの」
ア「意味が分からないけど、お断りよ」
マ「人の玩具を壊して偉そうにするの。悪い子だね。人のモノを壊したら弁償だよ。それで、弁償が出来ないなら体で払うのが道理だよ」
ア「あなたの玩具なんて知らない。初見なのにあなたの器物を破損したなんて心当たりがない」
マ「じゃあ、こう言えば分かるかな?。私の玩具はラビリンスお姉ちゃん」
ア「なっ!?」
アリアはマイゴの言った通りすぐに理解した。
しかし、まだ納得出来ない部分がある。
ア「姉が玩具ってどういうこと?」
マ「そのまんまの意味だよ。お姉ちゃんの悲痛な声や絶望した顔、死にたいと絶叫する魂、あんな面白いモノを壊しちゃんなんてね」
ア「っ!?、こいつ・・・」
今のセリフで大体分かった。
この子は危険な奴だと。
ア「悪いけど、私は玩具なんてなりたくないの。だかr「無理だよ」え!?」
マ「無理だよ。だってお姉ちゃん、もう、まともに動けないんだもん。それに、喋ることも」
ア「!?」
「どういうこと!?」と聞こうとしたが、突然、腕が活性化した。
ア「!?」
「一体、何!?」と喋ろうとしたが、今度は爆破の力が数キロ先で起こった。
マ「あっははははは、面白い。面白いよ、お姉ちゃん」
ア(何!?、喋ろうとしたら力が勝手に!?)
アリアは何か力を掛けられてしまっていると思い、静寂の力で力を止めようとした。
ア(!?、あれ!?)
しかし、何故か前に歩きだした。
マ「あっはははははは、お姉ちゃん、面白過ぎる。お腹痛い」
ア(一体、どうなっているの!?)
敵が何かした事は確かである。
しかし、それが何なのか見当もつかなかった。
マ「あっはははは・・はぁ~。さーて、もっと踊ってね」
ア(!?)
マイゴがナイフを持ってゆっくりと近づいてきた。
そして・・・・
高「ただいま~」
家に着いた高雅はそそくさに自分の部屋へ向かった。
レ「速いな、コウガ殿・・・?、アリア殿はどうした?」
高雅の腕にいつもの蒼いブレスレットが巻かれていない事に気付いたレオ。
高「しらね。どっかに散歩でもしてんじゃねえか」
レ「散歩って・・・おい、コウガ殿」
適当な相槌を打って部屋へ行くことを止めない。
レオの言葉も無視してさっさと部屋に入る。
高「・・・ったく、朝っぱらから気分がわりぃ」
ベッドにダイブして、気だるい体を布団に預けた。
そのまま、目を瞑って眠ろうとした。
レ「コウガ殿」
しかし、それを妨げるようにレオが入って来た。
レ「コウガ殿、学校はどうした?。それに、アリア殿も一体?」
高「うるせえな。知らねえよ、んなもん」
レ「そんなはずなかろう・・・!?、コウガ殿、契約の印はどうしたのだ!?」
高雅の左手の甲にあった羽のような紋章がきれいさっぱり消えていることに気付いた。
高「見ての通りだ」
レ「まさか、契約を破棄したと言うのか!?」
高「そうだよ。もういいだろ、さっさと寝かせてくれ」
レ「いいや、良くない。詳しく話すまで寝かせはせんぞ」
高「あー!!、もう!!。話せばいいんだろ!!、話せば!!」
高雅は学校で起こったことを話した。
レ「・・・・・・そうか。それは、コウガ殿g「だから、テメーらは適当に解釈してそれを過信するな!!」どういうことだ?」
高「勝手に俺がフィーラの事を好きみたいに言いやがって。あの時はそんな想いじゃなかったんだ!!」
レ「では、どういう・・・!?」
突然、レオが首を90度回転させた。
そして、窓から見える遠い場所を真剣に見ていた。
高「ん、どうした?」
レ「向こうに力が見える。それも、妙な色だ」
高「どんな?」
レ「ピンク色とオレンジ色が混ざっておる」
高「じゃあ、お前がどうにかしてくれ」
レ「なぬ!?」
レオは驚いて顔を高雅に戻すが、高雅は既に眠っていた。
レ「・・・仕方がない。我が行くか」
レオは家を飛び出すと、人目が付かないように人間の状態で走っていった。
走ると言っても、普通の人間の50倍の速度だが。
行きかう人は皆突風うだと思い込んでいた。
フ「・・・コウガ様?」
戻って、家ではフィーラが高雅の部屋に入って来た。
高「Zzz・・・」
フ「・・・寝てるです」
高雅の顔を覗き込むと寝息と立てて眠っていた。
試しに頬を突っついてみるが起きる気配はなかった。
フ「みゅ~・・・あれ、印がないです」
フィーラも契約の印がない事に気付いた。
フ「コウガ様、起きるです」
気になったものは速く聞くのがベスト。
そう思ったフィーラは高雅を揺すり、意識を覚醒させた。
まだ寝たばっかなので、すんなりと起きてくれた。
高「んあ・・・ったく、何だよ?」
フ「その・・・契約の印はどうしたです?」
高「また、その事か。あいつとは契約を破棄した」
フ「な・・何故です!?」
高「あいつがうるさかったんだ。人の話も聞かないであーだこーだ言うからぶん殴ったら契約を破棄してどっか行ったよ」
フ「コウガ様!!、それは最低です!!」
突然、フィーラが身を乗り出して高雅に顔を近づけながら言った。
高雅は気圧され、少し身を引いた。
フ「女の子に手を挙げるのは最低な行為です!!」
高「じゃあ、黙ってあいつの腹癒せを聞いていろって言うのか!?」
フ「そうじゃないです。コウガ様は本当にアリア様に伝えようとしたのです!?」
高「したさ!!。だけどあいつが全部聞こうとしなかったんだ!!」
フ「それはコウガ様の気持ちが足りないからです!!。伝えたい事ははっきりと伝えるのです!!。相手にどんなに拒絶されてもです!!」
高「・・・・・・・」
フ「黙りこんでしまうのなら、コウガ様の気持ちはその程度って訳です」
フィーラの言う通りだった。
確かに、高雅は伝えようとしたがアリアは聞こうとしなかった。
しかし、それで終わっていた。
今思えば、誤解を本当に解きたい気持ちなんてほんの少ししかなかったのかもしれない。
だから、―――――
高「・・・・ちょっと、出掛ける」
高雅はベットから立ち上がり、部屋を出ていった。
フィーラは高雅の後ろ姿を微笑みながら見送った。