風邪をこじらせて
いつも通りの朝を迎えた訳だが、今日は少し違った。
フ「あみゅ~・・・」
いつもの気の抜けた声でも、今日だけはどこか元気を感じられない声であった。
フィーラは今、体温計を口に咥えてベッドの中にいた。
高「ひょいっと・・・8度6分か・・・ったく。昨日、風呂上りにちゃんと髪を拭かねーから、こうなるんだよ」
体温計を引っこ抜くと、完全に異常な体温を表示し、高雅は呆れていた。
それもそのはず、昨日は見たいテレビがあるからと言って風呂を適当に済ませたのであった。
それが、今となって帰って来たのだ。
フ「みゅ~・・・ゴホッゲホッ・・・」
ア「大丈夫、フィーラちゃん?」
高「ほっとけ。自業自得だ」
レ「コウガ殿、それは言い過ぎだろ」
高「事実だ。ほら、アリア。さっさと学校へ行くぞ」
冷たく当たり、部屋を出て学校へ向かおうとした。
フ「ゲホッ・・・い・・行かないでです・・・」
フィーラが必死に手を伸ばし、高雅に制止の言葉を送った。
高「少しは反省しろ」
しかし高雅は振り向きもせず、ドアを強く閉めると静寂の空気が訪れた。
ア「じゃあ・・・行ってくるね」
アリアも高雅に続き、部屋を出ようとした。
しかし、フィーラが今にも泣きそうな顔で腕を掴み、行かせまいと力を込めていた。
フ「行かないでです・・・」
ア「う~ん・・・困ったなぁ・・・」
フ「お願いです・・・ゲホッ・・い・・行かないでです・・・」
高「まだか~」
いつの間にか戻って来た高雅がドアに寄りかかりながら腕を組んでいた。
ア「ねぇ、コウガ。今日h「ダメだ」どうして?。いつも学校サボりたいくせに」
高「もうすぐテストだろ。疎かにする訳にはいかねえんだよ」
ア「それはそうだけど・・・」
アリアは横目でフィーラを伺いながら言葉を考えていた。
しかし、高雅は待つことはせず、ドアを閉めて出ようとしていた。
フ「ごめんなさいです・・・だから・・ゴホッ・・一人にしないでです・・・」
その時、高雅の動きが止まり、逆再生され、また腕を組んでいる状態に戻った。
高「レオがいるだろ」
フ「レオだけじゃないです・・・コウガ様・・・もちろん、アリア様も・・ゲホッ」
ア「フィーラちゃん・・・」
フ「皆・・・皆一緒がいいです・・ゴホッゲホッゲホッ・・・はぁ・・」
すると、力尽きたのかアリアを掴んでいた手を放し、ベッドからずり落ちようとしていた。
ア「!?、フィーラちゃ・・・」
だが、アリアが言い終わるより早く、高雅が瞬時にフィーラに駆け寄り、受け止めた。
高雅はフィーラを持ち上げ、ベッドに戻し、布団を掛けた。
高「ほんっとうに反省してるだろうな?」
フ「はい・・・です・・・」
高「・・・・・・・・ったく、我が儘な奴だな」
ぶっきらぼうに言い返すと、高雅は部屋をそそくさに出ていった。
アリアは一応、高雅の後について行った。
高雅が行った場所はリビングにある電話。
手慣れた速さで番号を打つと受話器を耳に当てる。
一時すると高雅は喋り出した。
高「もしもしおはようございます2年の崎村高雅です突然ですが妹が高熱で親がいない為休みます意義は認めませんそれでは」
息継ぎをせず、一方的に喋って受話器を置いた。
アリアはその光景をただ茫然と見ていた。
ア「コウガ・・・」
高「何してるんだ?。さっさと部屋に戻れ。俺は着替えてから行く」
ア「ふふ、わかった」
アリアは高雅の照れ隠しに笑いながら部屋へ戻って行った。
高雅も制服から私服に着替え、部屋へ戻った。
高雅が部屋に戻ったとき、フィーラは不思議そうな顔をしていた。
フ「みゅ?・・・コウガ様、学校は?・・・ゴホッ」
高「今日は不吉な予感がした。学校行けば面倒事に巻き込まれるとな。だから休んだ」
その言葉を聞いた瞬間、フィーラの顔がパァと明るくなった。
フ「ありがとうです・・・ゴホッ」
高「礼は要らねえ。さっさと治せ」
フ「はいです♪」
高雅はフィーラの顔をろくに見ず、机に向かって座り勉強を始めた。
アリアとレオはその光景を見てはにかんでいた。
それからというもの、高雅は時折フィーラを見ながら勉強し、アリアはフィーラの手を持って安心させ、レオは人間の状態になって本を読んでいた。
フィーラは安心したのかよく眠っていた。
高「・・・そろそろ、飯の時間か」
ふと時計を見ると既に二つの針が上を向いて重なろうとしていた。
高雅は立ち上がって台所へ向かおうとした。
フ「・・・どこに行くです?」
ア「あっ、起きた」
タイミング良く目を覚ましたフィーラが部屋を出ていこうとする高雅に目が入った。
高「ん、ちょっと飯を作りに行くだけだ」
フ「・・・みゅ~、行かないで欲しいです」
高「おいおい、たかが台所に行くだけだろ」
フ「それでも・・・です・・・」
同じ屋根の下を移動するだけであるのに、フィーラは高雅が視界からいなくなるのを本当に悲しんでいるようだった。
ア「ねえ、コウガ。さすがに今、離れるのはまずいんじゃないかな」
高「つまり、俺に死ねと言う事か」
ア「人間は1日何も食べないぐらいで死なないよ」
レ「コウガ殿、少しはフィーラ殿の甘えを聞いてやってもいいじゃないか」
高「甘やかしすぎるとダメになるから、やだ」
レ「しかし、今日だけは特別という事にはならんのか?」
高「ならんな。同じ屋根の下を移動するだけだろ。ささっと作って戻ってくるから」
レ「コウガ殿は鬼畜か?」
ロ「鬼畜だな」
高「・・・・おい、テメーはどっからやって来た?」
いつの間にか、ログナが部屋に混じっており、話しに参加していた。
ロ「いやー、久しぶりに登場したいな~って思って来たぜ」
高「来たぜ、じゃねえよ!!。何しに来た!?」
ロ「飯を頂きに」
高「テメーは食わなくてもいいじゃねえか」
ロ「バッキャロオオオオ。俺っちじゃなくて蓮田の分だ!!」
高「そんなこと言ったって、やらんもんはやらん」
ロ「人でなし!!、鬼!!、鬼畜!!、悪魔!!、化け物!!」
高「不法侵入者が気取るなああああああああああああ」
高雅は沸点に達し、ログナに回し蹴りを喰らわそうとした。
しかし、ログナは腰を後ろに折って簡単に避けた。
ロ「はっはっはっは、無駄なエネルギーを消費すると腹減るぜ」
高「だったら今すぐ帰れ!!」
ログナは渋々壁をすり抜けて帰っていくと高雅はその場に座り込んだ。
高「はぁー・・・疲れた」
ア「ほんと、いきなり現れるね」
高「何か、動く気失せたな~・・・」
そう言って壁にもたれかかりながら天井を見上げた。
すると、高雅はゆっくりと目を閉じ始めた。
ア「?、コウガ、眠いの?」
高「んあ?・・・ああ・・・何か眠い・・・」
ア「そんな所で寝たら風邪引くよ」
高「そうだけど・・・ねみい・・・」
首がコックンコックン動き、最早、眠る寸前の状態である。
ア「布団、持ってくる?」
高「頼む・・・Zzz・・・」
結局、耐えるも虚しく眠り始めた。
意識をなくしてバランスを崩したのか、壁を引きずって横に倒れた。
ア「じゃあ、ちょっと布団を取ってくるね」
フ「え!?・・・」
立ち上がるとフィーラが悲しそうにアリアを見つめるとアリアは頭を撫でながら落ち着かせた。
ア「少しだけ、ほんの少しだけだから」
フ「でも・・・いやです」
ア「あっ・・・」
アリアの撫でている手を両手で掴むと、それを胸に押し付けて離れさせようとしなかった。
ア「困ったなぁ」
アリアは苦笑いしながら腕を解放させようとした。
しかし、思いっきり掴んでいる手を振りほどくのは少し可哀そうに思えてきた。
ア「・・・仕方ない?。レオ君、コウガをお願い」
レ「分かった。だが、君付けをどうにかしろ」
ア「いい加減慣れない?」
レ「慣れぬ」
レオは本を閉じ、座っていたイスに置いて立ち上がると、獣状態になり高雅を包むように丸まった。
ア「うん、ありがと」
レ「我もこのまま少し眠るとしよう」
レオも腕を枕にして眠り始めた。
ア「ほら、もうどこにも行かないよ」
フ「・・・・本当です?」
ア「うん、また手を握っててあげる」
フィーラはアリアを信用し、少し惜しみながらも腕を放させてあげた。
アリアはまた横に座り、フィーラの手を握った。
ア「ふぁ~・・・何だか、私も眠たくなってきた」
周りが眠っている所為か、腕を枕代わりにして、アリアも眠り始めた。
フ「皆・・・一緒・・・」
フィーラも安心しきり、ゆっくりと瞼を閉じた。
高「・・・・んあ・・・くぅぅ~~・・・」
高雅は目を覚ますと同時に背伸びをしつつ、掛け時計を見た。
時刻はいつの間にか夕方になっていた。
高「ふぁ~・・・寝過ぎたな~。タイムサービスが終わってる。食材が尽きてきてるってのによ」
まだ眠たい欲を堪え、立ち上がって周りを見る。
高「何だ、皆寝てんのか」
高雅は勉強机のイスに座りながら皆を見渡した。
高「・・・皆一緒か・・・」
ふと、フィーラが行っていた言葉を思い出すと、自分の過去がよみがえり始めた。
高「・・・叶わない、願いだったっけ」
それは家族を失う数ヶ月前の事だった。
その頃の高雅は兄の勇人と一緒に公園で遊んでいた。
ブランコに揺られながら、高雅は勇人に聞いてみた。
高「ねえ、勇人兄ちゃん。大きくなったらお母さんとお父さんに恩返ししようよ」
勇「そうだな・・・俺らが大きくなったら母さんと父さんを遊園地に連れてってやるか」
高「いいね、それ。だったら、おばあちゃんもおじいちゃんも連れて行こう」
勇「よし、いっそ親戚も連れて皆一緒に遊園地に行こうぜ」
高「うん。皆一緒、だね」
勇「ああ、皆一緒にだ」
そんな契を交わした無邪気な過去を高雅は今でも覚えていた。
高「・・・・あれ、フラグだったんだな」
そんな事をぼやきながら片手で頬杖をつきながら遠くを見ていた。
何も感じず、ただ漠然と見るだけ。
フ「・・・コウガ様?」
高「!?、起きたか?」
突然、声を掛けられて驚きつつもすぐに平然とした顔になった。
フ「・・・コウガ様・・・」
高「ん、何だ?」
フ「どうして・・・泣いているのです?」
高「え!?・・・」
高雅はそーっと頬に手を触れてみた。
そこには、知らずうちに涙の跡があった。
高「なっ・・・目にゴミが入っただけだ」
そんなレベルの低い嘘を吐きながら涙を服で拭う。
自分でバカだと後で気付いた時には既に遅かった。
フ「コウガ様、悲しそうです」
高「悲しくなんかねえよ」
見え見えの嘘を吐きながら言葉を遮断しようとする。
しかし、否定すればするほど涙は止まらなかった。
体が否定できないのだ。
残酷な約束をしてしまった過去があるため。
フ「・・・コウガ様?」
すると、高雅はゆっくりとフィーラに近づいた。
そして・・・
ガバッ
フ「みゅ!?」
強く抱きしめた。
フ「コウガ様!?」
訳が分からず、じたばた暴れ出すが高雅はなお一層強く抱きしめた。
高「こんな思い、知らせねえ」
フ「?、コウガ様?」
高「お前にこんな思いを知らさせねえからな。だから、一緒だ。もう孤独になんかさせねえ」
フ「ふぇ・・・・」
フィーラは暴れるのを止め、落ち着きを取り戻した。
しかし、内心は滅茶苦茶焦っていた。
ア「コ~ウ~ガ~」
すぐ真横にいたためか、アリアが起きた。
非常にドスの効いた声を発しながら。
高「ん、どした?」
ア「こんの、ロリコン!!!!」
パシンッ!!!!
高「いって!?」
アリアの容赦無しのビンタをもろに喰らった高雅は少し吹き飛ばされ、床に倒れた。
そのまま、アリアはマウンドポジションに入り、高雅の首を締めあげた。
ア「何してるの!?。フィーラちゃんを抱き締めて!?。どういうつもりよ!!??」
高「うが・・・バカ!!、誤解だ!!。俺はそんな不純n「問答無用よ!!!!」って、待て!!。剣はまずいって!!」
アリアは腕を剣に変え、今にも振り下ろそうとしていた。
レ「待て、アリア殿。一体、何の騒ぎだ!?」
この騒ぎに起こされたレオはこの光景を見てアリアの行動をすぐに止めた。
ア「コウガがロリコンだったのよ!!」
高「だから、違う!!」
レ「訳が分からぬ。少しは落ち着いてくれ」
ア「コウガが、私達が眠っている間にフィーラちゃんに抱きついていたのよ」
高「だから、それは誤k「それは、コウガ殿が悪い」待てって!!。話しを聞きやがれ!!」
ア「うるさい!!。人の気持ちも知らないで!!」
高「知るか!!。この、やられてたまるか!!」
高雅は体を横に転がしてアリアのマウンドポジションを脱出し、部屋から逃げた。
ア「こら、待て!!」
アリアも懲りずに高雅を追いかけはじめた。
レ「待つのだ、コウガ殿」
レオもアリア側につき、共に高雅を追い始めた。
一人残ったフィーラは顔を真っ赤にして茫然としていた。
フ「コウガ様に・・・告白されたです・・・///」
どうやら、ここにいる全員は誤解をしてしまったようであった。
それからというものの、フィーラの熱は別の意味で下がらなかった。
ベッタベタな落ですね。