体育大会 二人三脚
放「二人三脚に出場する選手は入場門に集まってください」
次の競技の召集がかかった。
B・Dと龍子・夢ペアは立ち上がり、入場門へ行く。
B「しゃー!!、いっちょやったるでーー!!」
D「キャラが変わったぞ」
B「気にするな。脇役なら何でもありだ」
D「脇役を認めるな」
こっち側は気合十分だった。
もう一方は冷静に確認をしあっていた。
夢「いい、龍子。左足からだからね!!」
龍「わ・・・分かってる・・・」
実はこの二人、あの練習の後、一度も上手く走れていない。
原因はもちろん、夢の所為だが、龍子はその原因を上手く切り出せていなかった。
高「よっ」
そこに先ほどの競技から帰ってくる高雅と会った。
夢「お疲れ。あんた、速すぎでしょ」
高「あいつらが遅いだけだ」
夢「いや、それは無い。取りあえず、次はあたし達だから、ちゃんと見てないさい」
高「はいはい。それより、龍子」
龍「ん・・・何?・・・」
高雅は何も言わず、龍子に手招きをした。
龍子は夢を先に行かせ、高雅に近づいた。
同時刻、アリア達は・・・
レ「先ほどのコウガ殿。中々速かったな」
ア「だーかーらー、殿は付けちゃだめ!!」
フ「もういいのです。殿も様も君もどうでもいいです」
ア「それでも・・・ん?」
ふと、高雅がいると思う方を見ると、その考えは的中し、高雅が龍子と何か話していた。
ただ、高雅は龍子の耳元で話していた為、結構距離は近かった。
それだけのことだったのに・・・
ア「何で・・・・胸が・・・苦しい?」
胸に手を当て、高雅と龍子の方を見る。
それだけで、何か突き刺さるような感覚に襲われた。
見ていて面白くなくて、ムカつく様な―――。
そんな、曖昧な気持ちに。
ア「・・・・・・・・」
フ「あみゅ?。アリア様、どうしたのです?。何、ぼっとしてるです?」
ア「え!?・・・あっ、何でもないよ!!」
両手を振りながら全力否定するアリアの様子から、何でもないはまず考えられなかった。
ア「わ・・私、ちょっとトイレに行ってくるね」
アリアはその場から逃げ出す様に走り去った。
フ「変なアリア様です」
レ「何かあったのだろうか」
その変わった後ろ姿をただ見ていたレオとフィーラだった。
戻って高雅の所。
高「―――と、言うことだ」
龍「でも・・・それって・・・」
高「いいから、反論するな。あのバカに合わせると思って俺の言う通りしてろ」
龍子の反論を許さず、自分の考えを指導させる高雅だったが、龍子は納得してなかった。
龍「でも・・・やっぱり・・・やだ・・・」
高「何でだよ。お前も気付いてんだろ。お前が右足から出せば、事は上手く行くぞ」
さっき、告ぎ込んだことは、龍子が左足からではなく、右足から出すと言う当り前な考えだった。
夢は自分まで左を出している為、上手くいかないので、こっちが勝手に右足から出すと言う戦法であった。
そんな誰でも思いつくようなことだが、龍子はもちろん、分かっていた。
それでも、龍子は左足から出していた。
龍「そうだけど・・・何か・・・」
高「何だ?」
龍「それって・・・夢ちゃんを・・・裏切るって・・・事じゃ・・・」
高「何だ、そんな事かよ」
龍「そんなことって!!・・・」
龍子はつい声が大きくなる。
友達を侮辱されることは、龍子にとって許されがたい事なのである。
高「落ち着け。何もそんな大げさなことじゃない。むしろ、いい方だ」
龍「・・・どうして?・・・」
高「だってよ、あいつは性格がコロコロ変わって訳分かんねえし、頭も悪いし、無駄に力強い奴だ。それは、お前も知ってて当然だ」
龍「それは・・・・うん・・・」
龍子は渋々、肯定してた。
龍子は心の中で夢に申し訳ないと思っていた。
それでも、完全に否定はできなかった。
龍「でも・・・バカじゃない・・・私に・・・・・・優しくしてくれた・・・・それに・・・・・私の・・・初めての・・・友達・・・だから・・・」
高「なら、尚更お前が右足から出さないとな。あいつの事を思っているのなら」
龍「でも・・・それは・・・」
高「それにな、あいつが言う通りにしなかったからってすぐに裏切るとか思わねえって。むしろ、自分の哀れさに気付くんじゃねえか」
龍「・・・・・・」
龍子は俯いたまま黙りこんでいた。
高雅はこれ以上、とやかく言うつもりはなかった。
高「まぁ、お前の好きにしろ。俺がどうこう言ったって、別に従えってわけじゃない。じゃあな」
高雅は龍子の肩を軽く叩いてから自分のクラスのテントへ戻った。
龍子も夢がいる入場門へ行った。
そして始まった二人三脚。
次々と白熱した競争を繰り広げて来た所に、BとDの出番が回って来た。
お互いの片足をロープで縛り、肩を組んでスタートの準備をする。
B「分かってるか?」
D「ああ、当たり前だ」
お互いの意思を確認し合ったその時、審判がピストルを空に向けた。
審「よーい・・・〈パンッ!!〉」
甲高い音と共に地面を蹴りだす選手達。
その中にあの二人はトップを走っていた。
もちろん、あの掛け声で。
B・D「えー、○ん、えー、○ん、えー、○ん・・・」
ご丁寧に腕まで振って余裕の素振りを見せる。
しかし、観客どころか、ここにいる全ての人が痛い目で見ていた。
2位と差をつけ、独走のゴールを飾った二人だが、視線は痛いまま。
そして、不意に零した一言。
B・D「・・・死のう」
そう言って、二人はその場に倒れた。
その後、二人は精神科に連れて行かれたのは言うまでもない。
あれから、重い空気は回復せず、遂に龍子・夢ペアの番になった。
夢「あいつら・・・この空気、どうしてくれるん」
龍「いない・・・人に・・・言っても・・・意味がない・・・」
夢「そりゃ、そうだけどさぁ・・・なんか、ムカつく」
龍「ははははは・・・」
龍子は苦笑いしつつ、やはり悩んでいた。
当然、高雅の言葉についてだ。
龍「・・・・・・・」
夢「ん?、どうしたの?。まさか・・・ビビッて士気が落ちた?」
龍「そ・・・そんなこと・・・ないよ・・・」
夢「ほんと~?」
龍「ほ・・・ほんと・・・だって・・・」
夢「あんたの声はいっつも小さいから分からない。今ぐらい大きな声ではっきりと言いなさい」
龍「うう・・・それは・・・恥ずかしいよ・・・」
夢「ったく、あんたは可愛いんだから、少しは自信持ちなさい」
龍「ご・・・ゴメン・・・」
審「そこの二人、速くスタートラインに着きなさい」
ずっと会話している内に、他の者は既に用意万全の状態で待機していた。
それに気付いた二人は慌ただしくスタートラインに着いた。
それを確認した審判がピストルを空に向けた。
審「よーい・・・〈パァン!!〉」
そして、二人は走り出した。
結果、ビリ。
何回も足が縺れ、かなりの差をつけられてのビリだった。
競技が終わって、テントに戻った途端、夢は龍子に怒っていた。
夢「あんた~、ほっとうに左足から出したの!?」
龍「う・・・うん・・・」
夢「じゃあ、何で何回も何回も躓くの!?」
龍「それは・・・」
クラス皆も注目していた。
龍子はやり場のない視線をキョロキョロ彷徨わせていた。
すると、高雅が近づいて来るのが見えた。
高「簡単だ。アホッ子がアホなだけだ」
そう言いつつ、高雅が話しに参加していた。
そして、今の言葉にクラス皆が頷いた。
夢「あんたね~」
高雅に鋭い視線を送りながら夢がゆっくりと振り向いた。
高「何だ、やるのか?。女だからって容赦しねえぞ」
そう言って拳を作り、夢の目の前に出した。
夢「あんたの顔はいつか殴りたいと思っていた所よ」
夢も理性がキレてきたのか顔が怖くなり始めていた。
そんな二人の様子を交互に見る龍子だったが、このままではまずいと動き出した。
龍「だ・・・ダメ!!・・・喧嘩はダメ!!」
二人の間を開けるように自分の体を割り込ませた。
いつもの物静かな声に似合わず、はっきりとした大きな声で。
龍「喧嘩・・・しないで・・・」
そして、啜り泣きしながら、とどめの言葉。
さすがの二人もこんな様子を見て喧嘩しようとは思えなかった。
高「・・・ったく、分かった。じゃあ、実証してやる」
夢「何を実証するつもり?」
高「いいから、黙って龍子と肩を組め」
高雅もさっきとは違って冷酷な声になっていた。
夢はそれに驚き、恐怖を感じた。
夢「わ・・・わかった・・・ほら、龍子。もう、泣かないで」
さっきの啜り泣きではなく、涙を零し、しゃっくり混じりで泣いていた。
龍「うう・・・ひっく・・・ぐす・・・」
それでも、高雅の言葉は届いていたのか、龍子はすぐに夢と肩を組んだ。
高「んじゃ、アホッ子。左足を出せ」
夢「アホッ子言うな!!」
夢は怒りを地面にぶつけるようにドシンと力強く一歩踏み出した。
そして、高雅が付け加える。
高「ここで、足が結ばれている為、龍子は右足を出す」
夢「・・・・・へっ?」
龍子は何も言わず、夢の出した足に並べるように右足を出した。
高「で、龍子は左足を出す」
そして、龍子は左足を出した。
夢は漠然とその光景を見ていた。
高「ここで、問題。龍子は気を付けの状態で夢が足を縦に開いているのは何故でしょう?」
夢「え・・・あ・・・まさか・・・」
高「やっと気付いたか、アホッ子」
夢「・・・・えっと・・・」
夢は静かに組んでいた肩を外し、距離を取って膝をついた。
夢「ごめんなさい!!」
そして、勢いよく頭を下げ、土下座した。
龍子は慌ただしく夢に近づいた。
あまりに驚いたことだったのか、もう涙は止まっていた。
龍「別に・・・いいよ・・・もう・・・分かってくれたなら・・・」
そう言って、夢の肩に手を置き、許しの言葉を贈った。
夢「でも・・・自分の所為なのに、私はあんたに酷い事を」
龍「許すよ・・・許すから・・・ね・・・ほら・・・立って・・・」
夢「ありがと・・・・あんたはあたしの最高の友達だよ」
龍「私も・・・夢ちゃんが・・・一番の・・・友達だよ・・・・」
夢「龍子・・・」
高「はい、ストップ。そろそろ百合が咲きそうなのでここまで」
龍「?・・・百合は・・・夏だよ・・・」
龍子が純粋にツッコミをする。
もちろん、高雅が言った百合はそんな綺麗な物ではない。
高「はいはい、取りあえず、終了。夢のアホも実証できたことだし、もう終わり」
夢「・・・・ねえ、一つ聞いてもいい?」
夢が大人しい声で高雅に質問する。
高「?、何だ?」
そんな様子に疑問に思いながらも夢の方を見る。
すると、夢の体は震えていた。
夢「この事って・・・皆知ってた?」
高「当然だろ。もちろん、龍子もその中に入る」
夢「じゃあ、何で教えなかったのよーーーーーーーー!!!!!」
夢に新しい怒りが芽生え、高雅に突っ込む。
高雅は軽く避けるが、夢は止まらず、クラスの方へ走っていく。
夢「あんた達も同罪だーーーー!!!」
矛先はクラス皆のようだ。
皆は散り散りに逃げていった。
龍子はそんな光景をポツンと見ていた。
龍「・・・・・・・」
高「どした?」
龍「いや・・・・高雅君・・・」
高「ん?」
龍「・・・ありがとう・・・」
高「どういたしまして」
夢「龍子ーーーーーー!!!!!!。あんたも同罪よーーーー!!!!!」
高「ほら、龍子。逃げるぞ」
龍「ふふ・・・分かった・・・」
その後、楽しい鬼ごっこは先生が注意するまで続いた。