緑の復讐編 その13、主人公<獣
高雅はエガルが攻撃する瞬間に空間の力で後ろに回った。
がら空きになったエガルの背中目掛けて剣を振るう。
ズブッ・・・
だが、斬れることなく、背中の肉に剣が沈み込むだけだった。
高「チクショー!!。何で斬れねえんだよ!?」
そんなことを呑気に考える暇はなく、エガルがその場で軽くスピンする。
その勢いで、高雅は壁に叩きつけられた。
高「つっ・・・」
ア「コウガ、大丈夫!?」
高「ああ、直前に消失で衝撃を消した」
高雅が再び立ち上がると、エガルはさっきのスピンで目を回していた。
高「あいつ、自滅してやがる」
ア「まるで、何も知らない子供みたいね」
高「まるで、じゃなくて、そうなんだろうな」
しかし、そんな相手でも高雅は容赦しない。
高雅は剣に赤と黒のグラデーションを帯びた光を生み出した。
高「外がダメなら中だ。アリア、この力をあいつの体の中に打ちこんでくれ」
ア「うん、分かった」
高「ただし、あいつの体は色んな力がへばり付いてある。その中に静寂とかもあるだろう。それに触れないように虚無で導きながら、この力を体の中に力を侵入させろ」
ア「分かった。でも、虚無の剣で斬れないなら体の中に力を送り込むのは無理じゃない?」
高「きっと、剣の斬る場所全てに力を込めるんじゃなくて、一点集中で虚無をぶつければ、体の奥まで届くかもしれねえから」
ア「そうか。成程ね」
高「それじゃ、刺した時に頼むぜ」
高雅は地面を蹴り、エガルに近づく。
幸い、エガルはまだ目を回していた。
高「こりゃ、すぐに作戦を実行できそうだ」
高雅はまだ視界が回復していないエガルの腹へ剣を突き刺した。
ズブッ・・・
その異常な肉質の前では鋭い剣でも1センチ程しか刺さっていない。
だが、作戦を実行するにはこれで十分だった。
ア「・・・よし、もういいよ」
高「オッケー」
アリアの完了の言葉を聞き、高雅はエガルを見失わないようにバックステップで距離を取る。
高「よし、爆破の力!!」
高雅はさっき注入した力の名前を叫んだ。
エ「ウ・・・ウウ?・・・・」
エガルも何か体の異変に気付いたように自分の腹を見る。
その腹はまるで水が沸騰したかのようにボコボコと沸騰していた。
エ「ウ・・・ウウウウウウウウウウウウ・・・」
次第に腹の沸騰は激しくなり、エガルも苦しみ始めた。
高「効いたか!?」
ア「多分。でも、油断できないよ」
高雅とアリアもエガルが初めて身体の痛みで苦しんだ姿を見て、期待と不安の狭間にいた。
エ「ウ・・・ウウ・・・」
しかし、腹が張り裂ける寸前で何故か腹の動きが鈍くなる。
次第に、腹の動きが止まってしまった。
高「おい、効いてねえのか!?」
エ「ウ・・・・・・・ウップ・・・」
エガルが次に、喉に何か詰まらせたかのように苦しみ始めた。
エ「ウウウウ・・・オエェェェェ・・・」
そして、気色悪い液体を吐き出した。
それは赤と黒が混ざったこの世のものとは思えない液体だった。
高「おい・・・まさか、爆破の力を・・・」
ア「あの液体に・・・変えた!?」
そのような根拠は何処にもありはしない。
もしかしたら、黒みが掛かった血かもしれない。
だが、エガルの状況と吐き出すタイミングによって、その仮定は即座に切り捨てられた。
高「こいつ、不死身か!?」
ア「色んな力が通用しないなんて・・・」
エ「ウワ・・・ウワアアアアアアアアアアアアアア!!」
エガルが突然叫び、あたりは地鳴りが響いた。
高「今度は何だよ!?」
ジッとエガルを見ていたが、エガルは音を立てず一瞬にして姿を消した。
高「消え・・・じゃない!!」
そう判断した高雅は速度の力で後ろへ高速跳躍した。
その刹那、高雅のいた場所の床が破壊され、下の階まで繋がった。
ア「何!?。何なの!?」
高「よく分からねえが、ステルス状態って訳だ。多分、空間の力の応用だろ」
ア「そんな・・・どうしていきなり力を上手く使えるようになったの!?」
高「こっちが知りてえよ。もう、あいつに普通は蚊帳の外だ。何が起きてもおかしくねえ」
高雅は説明している間も速度の力で逃げている。
高雅が一瞬着地してまた跳躍するたびに、着地した場所に穴が開けられてゆく。
ア「コウガ、行き止まり!!」
高「げっ!!、やべえ・・・」
逃げていると、運悪く行き止まりに追い詰められてしまった。
高「こうなりゃ・・」
高雅は壁に着地するとすぐに、反射するように来た道の隅に向かって蹴った。
頬に風邪を感じた瞬間に壁には巨大な穴が開けられた。
高「よし、Uターン完了」
少し勝ち誇ったように呟いた高雅は来た道を同じ速度の力で戻って行く。
だが、高雅は既に負けていた。
高「・・・うおっ!?」
突然、何かに引っ張られるようにして足が止められた。
足だけではない、手も体も頭も全て止められてしまった。
高「何だ!?、体が動かねえ!?」
エ「フフフフフ・・・・」
エガルの不気味な笑い声が聞こえた瞬間に、高雅の視界にあるものがゆっくりと映って行く。
高「ッ!?、これは!?」
見えてきたのは高雅の体に巻き付いていたもの。
それはエガルの飛び出ていた血管だった。
高「おわ!?」
血管は高雅を掴んだまま引き戻され、高雅はエガルの目の前に倒れた。
エ「・・・フフ・・・」
ドスッ!!
高「ぶはっ!!」
エガルはその巨大な足で高雅の腹を踏みつぶした。
高雅は辺りに大量の血を吐き散らした。
エ「オマエノ セイデ・・・・」
高「ッ!?」
エ「オマエノ セイデ オレハ コンナ ミニクイ スガタニ」
ア「まともに喋ってる!?」
高「テメー・・・意識が戻ったのか!?」
エ「オマエノセイデ・・・ウラミヲハラサセテモラウ」
エガルは高雅の質問に答えず、ただ高雅に対する憎しみを晴らすべく、足に力を入れてゆく。
高「あががががが・・・・」
ア「コウガ!!。くそ、何で力が入らないの!?」
エ「ムダダ。ソノケッカン ニハ セイジャクノ チカラガ アル。テイコウノ スベハ ナイ。シネ!!」
足の力は高雅を伝い、床にミシミシと罅を入れてゆく。
高「く・・・・・・そ・・・」
エ「シンデモ サイセイ デキルト オモウナ。オマエノ ツギハ ソノ ツカイノ イノチヲ ウバウ カラナ」
もう、高雅になす術は残っていなかった。
エ「モット イタブリタイガ マダ コロスモノガ イル。コレデ ツカイ トモドモ オシマイダ」
エガルが巨大な腕に無数の刺を創り付け、振り上げる。
高「チクショー・・・さすがに・・・ダメか・・・」
高雅はもう諦め、死を覚悟した。
ア「ダメだよ高雅。諦めたらダメ!!」
高「アリア・・・」
エ「オジョウギワノ ワルイ オンナダ。コノ ジョウキョウデ ドウスルノダ?」
?「ならば、これでどうだ?」
高・ア「!?」
シュシュシュ・・・
突然、無数の一閃がエガルの体を細切れにした。
ボトリボトリと肉体が血を垂らしながら地面に落ちてゆく。
エ「ウギャアアアアアアアアアアアアア」
高「な・・・何だ!?」
高雅は無数の血管から抜け出し、何が起きたか辺りを見回す。
すると、少し離れた所に誰かが立っていた。
フ「大丈夫です?、コウガ様?」
高「フィーラ、起きたのか」
フ「はいです。自分の夢幻をはね変えさせれるとは、情けなかったです」
そう言ってフィーラはショボンと首を落とす。
高「おいおい、そんなことを気にするなよ。それより・・・」
高雅はフィーラから視界を上げてゆく。
そこには見ず知らずの人が立っていた。
高「なあ、その人は・・・」
と、指を指しながら誰かに問う。
それは、黒いスーツを着た長身の男だった。
?「指を指すとは失礼ではないか?」
高「あ、すみません」
フ「ぷぷぷぷ・・・」
高雅は素直に頭を下げたことに、フィーラが口元抑えて笑いを堪えていた。
ア「何だろう?、初めてなのに初めて会った気がしない」
?「アリア殿はいい感をしているな」
高「ん?、殿?。まさかまさかのまさか・・・」
レ「コウガ殿が思っている通りだ。我はレオだ」
高・ア「嘘ーーーーーーー!?」
フ「あははははははは・・・」
フィーラは予想通りのリアクションだったのか、腹を抱えて笑いだした。
高「え・・・ちょ・・・形状変化ができたのかよ!?」
レ「我の能力はまだ一部しか見せておらぬ。この姿は戦いに特化した姿だ」
高「スーツが戦いに特化してるのか?。むしろ逆じゃね?」
エ「キサマラアアアアアアアアアアアアア」
姿が変わっても、相変わらず空気にされ続けるエガルは体の再生をし終えていた。
高「何だよ、まだ質問は終わってねえのによ」
エ「ダマレ!!。イマスグニ コロシテ ヤル!!」
レ「コウガ殿、ここは我に任せてくれぬか?」
高「悪いけど無理。あいつに負けたまま引けるか」
レ「ならば、共に闘うか?」
高「ま、それなら秒殺できそうだな」
エ「ナメルナ!!」
エガルはまた姿を消した。
高「レオ、場所は?」
レ「ゆっくり、と近づいて来ている」
高「そうか」
レオはわざと“ゆっくり”を強調させて言った。
高雅は敵の居場所を聞くと、両剣に力を入れ始めた。
高「それにしてもレオ、どうやってあいつを斬ったんだ?。刃物も見えにねえし、何よりあの肉質を?」
レ「我が力を見ることができるのは知ってるな?。それと同時にその流れも見ることができるのだ。我はただ流れが緩い所目掛けて斬っただけだ」
高「成程な。じゃあ、斬ったものは?」
レ「そのようなものはない。この手で斬ったのだ。それに、先ほどの速さも全て自分の潜在能力だ」
高「すご。本当に俺を越えているな」
レ「だが、すぐに追い抜かれてしまう。コウガ殿は我を超える潜在能力を秘めている」
高「ふ~ん・・・っと、そろそろ、いい頃合いかな?」
そう言って、レオから誰もいない行き止まりの方へ体を向ける。
高「レオ、力の流れが一番強い所はどこか?」
レ「左胸辺りだ」
高「じゃあ、そこに宝石があるだろうな」
そう推測すると、高雅は地面に片方の剣を刺した。
そして、もう片方の剣を両手で持ち、誰もいない道へ剣先を向ける。
高「あいつの失敗はゆっくり来たことだったな」
レ「コウガ殿、敵が走り出したぞ」
高「もう遅い。純度100%の虚無を喰らえ!!」
それは細いレーザーのように放たれ、透明なエガルの左胸がある所へ走った。
エガルは反応が遅れ、避けることができなかった。
透明になった姿も実態を現し始めた。
そして、虚無は正確に左胸を突いていた。
エ「ウガアアアアアア・・・コノ テイドデ・・・・」
だが、虚無のレーザーはエガルの肉体を貫いていない。
それでも、高雅は微動だに動揺しない。
むしろ、こうなると分かっていたようだった。
高「アリア、もう片方に溜めた虚無をこっちに送れ!!」
ア「分かった」
アリアは先ほど床に刺した剣に溜まってあった虚無をレーザーを放っている剣へ送った。
レーザーは見かけ上は変わっていないが、エガルは苦しい顔をし始めた。
エ「ウグ・・・バカナ・・・アリエナイ!!」
次第に左胸が窪んでゆき、遂に向こう側へと繋がった。
エガルはゆっくりと倒れ、地面に着く寸前で消えてなくなった。
それと同時に、地面から生えた壁も姿を消した。
高「ふう、終わった。レオのお陰だ、ありがとな」
高雅がレオの方を向くと、レオは既にいつもの姿に戻っていた。
レ「我は隣で敵の状態を報告していただけにすぎん」
高「だから、あんなに力を溜めることができただろ。お前がいなかったら、わざわざ波動を打ち続けて場所を確認しなくちゃならないから、奴を貫くほどの力が入らない。だから、お前のお陰だ」
レ「そうか。なら、素直に感謝を受け取ろう」
フ「それじゃ、後はあのツルツルだけです。最後の戦いにゴーです」
高「締めが取られたな」
フ「ボクを空気にした罰です」
ア「あはははは・・・」
高雅達は階段へ行き、ウルザスがいる場所へ向かった。
カタカナの所は読みやすいと思って空欄を開けてみました。
読みやすかったら幸いです。
その逆でしたら、すみませんでした。