緑の復讐編 その11、タネ明し
高雅は敵のトリックを見破れず、確実に追い詰められていた。
イ「はい、こっちだよーん」
ザシュ!!
高「うがあああああああああ」
斬られては再生、斬られては再生を繰り返し続けている。
イ「ほらほら、早く死なねえと苦しいだけだぜ」
高「ぐぅぅ・・・・」
高雅はまた傷を再生し、インジを睨みつける。
イ「もういい、飽きた。次は心臓を刺して、そのままお前の使いも殺してやる」
そう宣告するとインジは再び空間へ消えていく。
ア「どうしよう、コウガ。もう後がないよ」
高「・・・やっとか」
ア「へっ!?」
予想もしない高雅の言葉にアリアはキョトンとする。
高「アリア、空間と静寂の融合力を作れるか?」
ア「え・・・うん、やってみるけど、どんな力なの?」
高「やってからのお楽しみだ。とにかく、今からどんなことがあっても、その力を作って溜めておけ」
ア「待って、何やるか教えてよ」
高「簡単さ。あいつが攻撃を受け止め、そのまま敵の空間へ剣を投げる。まあ、それは一部にすぎないけど」
ア「でも、どうやって敵が攻撃する場所を捕えるの?。音もなく殺気もなく現れるのに」
高「もう、全てのタネは明かされている。てか、最初から分かってたし」
ア「そうなの!?。じゃあ、何で今までやられて・・・まさか、本当にM?」
高「んな訳ねえだろ!!。殺すぞ!!」
イ「ほらほら、執行猶予はもういいか?」
二人のやりとりにインジが口を挟んだ。
声は真後ろから聞こえたが高雅は振り向くことはしなかった。
高「ああ、いつでも来いよ」
イ「それじゃ、死刑開始ーーー。1分以内にお前の心臓を刺すぞ。精々、念仏でも唱えとけ」
インジがそう告げると瞬時に黙が訪れる。
聞こえるのは下で戦っているレオとフィーラの戦の音だけだ。
高雅は目を瞑り、意識を集中する。
高「・・・・・・・・・・」
高雅はただ黙り込み、目を閉じている。
その姿はもう、この世界に悔いがないような感じだった。
イ(これで、終わりだな。俺の力が通用しないと思ったら、それは肉体だけだったか・・・。直接、自分に及ぼす力を防ぐとは、後でおっさんに持ってくか)
そして、高雅の後ろに小さな空間を開ける。
その空間から鎌を持った手が現れ、高雅にゆっくり近づく。
それと同時に、剣の方にも一つ空間が開く。
こっちは何も持ってなく、剣についてある宝石に少しづつ近づく。
イ(死ね)
インジが音も立てずに鎌を振るおうとする。
その時・・・
パシッ
イ「!?」
高雅が目を閉じたままインジの鎌を持った腕を片手で掴む。
高「甘いぜ、バ~~カ」
ザシュ!!
次に空いている手で、自分の剣に忍び寄る腕を斬った。
イ「うがああああああああああ!?」
インジはどうして気付かれたのか分からず、パニックになった。
手首が血の糸に吊られながらボトリと床に落ちた。
イ「何故だ!?、何故分かった!?」
高「まだまだ!!」
高雅は鎌を持った手が現れた空間に向かって剣を投げた。
剣は自動的にインジの所へ案内される。
イ「くそ!!」
インジは高雅に掴まれた手を振りほどき、現れた剣に素早く反応して避ける。
インジはそのまま飛んで来た剣をみる。
剣の柄に付いてある紐が上へと曲がっていた。
イ「な・・・まさか!?」
インジが首を上へあげると高雅が残りの剣を両手で持ち、構えていた。
高「もらい!!」
イ「うお!?」
インジは辛うじて身を翻して避ける。
だが、完全には避けきれておらず、肩から斜めに軽い切り傷を付けられた。
高「ちっ、かすっただけか」
イ「こ・・・小僧!!、何故分かった!?」
高「んなもん、最初から分かってたに決まってんだろ。俺はバカじゃねえ。まあ、初っ端の奴は分からなかったが、一回見たらタネも分かった」
イ「まさか、全て演技だったと言う訳か!?」
高「ピンポーン。見破れなかったと言うことは俺の演技も捨てたもんじゃなんだな」
ア「それより、どこから相手が攻撃してくるのを分かったの?」
アリアは全ての糸口、インジは高雅の対策方法が分かっていなかった。
高「わーったわーった。お前はバカなことは分かった」
ア「どうしてよ!?」
高「ここまで来ると、天然だな。てか、さっき答え言ってたし」
ア「だから、どうしてよ!?」
高雅はアリアの問いに答えることなく、ため息を吐いてに髪を弄り始めた。
高「それじゃ、アリアの為に、タネ明かしをするか」
そう言って高雅は敵の攻撃について、自分の対策方法について話し始めた。
しかし、高雅は突然、指を鳴らした。
そして、アリアはその意味も分からずに説明を始めた。
高「まず、敵の攻撃だが。俺が意識を集中しても気付かなかったってことは、どういう意味か分かるか?」
ア「え・・・相手がそれほど暗殺に長けている?」
高「まあ、ある意味正解だな。だが、今は間違いだ。あいつは消失の力を使えるってこと。つまり・・・」
ア「あ、分かった。鎖がこすれて発生する音を消失の力で消しているって訳?」
高「まあ、そうだ。ただし、音だけでなく、殺気、空間の歪みなど、全てに関して気付かれないようにしている。音も殺気も、あいつの周りじゃないんだ」
ア「じゃあ、そんな中、高雅はどうやって気付いたの?」
高「蝙蝠が暗い中、どうやって飛んでいるか知ってるか?」
ア「うん。確か、超音波を発して、その音の跳ね返り具合で壁との距離を判断する」
高「それと全く同じ。俺はとてつもなく薄い波動の力を周りに発していたんだ。もし、別の空間に行ったなら、壁との距離が変わって跳ね返り具合も変わるからな。そこが狙い目」
ア「そっか。じゃあ、どうして最初からそれを実行しなかったの?」
高「いくら分かったとは言え、何処から出るか狙いが定まらない。だから、あいつが『次は心臓を刺す』と言えば・・・」
ア「必ず、心臓を狙える所に空間を展開するってことだね」
高「そう言うこと。まあ、そんなところだ」
ア「待って、最初にやった指パッチンは何だったの?」
高「こっちに行けば分かる」
説明し終わると高雅はインジの近くに寄った。
インジは説明の間、何もしてなかった訳ではない。
むしろ、今している最中だった。
ア「コウガ、インジはどうしたの?」
高「お前が作った融合力とその周りの空間に閉じ込めてある。身を翻した時にちょうどその空間を仕掛けていた所に入るようにしていたんだ」
ア「それと指パッチンの関係がどうあるのよ?」
高「お前がさっき作った力は時抑の力だ」
ア「時抑の力?」
高「簡単に言うと、『時間を遅くする力』だ」
ア「あっ・・・なんとなく分かった」
高「まあ、それでも一応説明するけど、あの指パッチンはその空間の発動を意味していた」
ア「それで、インジは変な体勢で止まっているように見えた訳ね」
インジは今にもこっちに走り出そうとしている。
その行動は非常に遅く、まだ地面を蹴りだして0.2秒ぐらいの姿だ。
レ「コウガ殿!!、無事か!?」
高「おお、レオにフィーラ。そっちは終わったんだな」
フ「はいです。こっちは全て片づけましたです」
高雅は一応確認するため、柵から身を乗り出して下を窺う。
そこには、虫の残骸が大量に転がっていた。
高「最初に見たより数が多くないか?」
レ「実は、戦っている最中に入口から数匹入って来て増えたのだ」
フ「それで、ちょっと遅れてしまったのです」
高「そうか。二人とも、怪我はないか?」
レ「無傷だ」
フ「同じくです」
高「よかった」
高雅は二人の無事を確認すると安堵の息を漏らした。
ア「仲間の様子を聞いて安堵するって、随分と変わったね」
高「ば・・バカ!!、こいつらは人間じゃねえからだ!!。人間だったらこんな事は聞かねえよ!!」
ア「はいはい♪」
高「テメー、信じてねえだろ・・・」
ア「きっと、リュウコやリンちゃんにも同じことを聞くだろうね~」
高「ここから落とすぞ?」
ア「私は飛べるから、落ちても意味ないも~ん」
高「じゃあ、殴るぞ?」
ア「それは勘弁して。コウガのパンチは威力高すぎるから」
レ「それよりも、この者はどうしたのだ?」
レオが二人のやり取りに歯止めを掛け、インジの状態について聞く。
フ「随分ブサイク顔で止まっているのです」
高「止まってはいないんだが、ゆっくり動いているんだ。それも、非常にゆっくりと」
レ「見たことない力だな。紫と青が入り混じっておる。さらに、その周りに紫が取り囲んでいるような」
高「全く持ってその通りだ。さーてと、そろそろ締めに入るか」
高雅は片方の剣先をインジに向ける。
その剣先は時抑の空間に触れている。
高「じゃあな。お前の試し、簡単過ぎだぜ」
そう呟いた瞬間に突然、インジを取り巻く空間が真っ黒に染まった。
その数秒後、真っ黒い空間はガラスが割れるような音を立てて崩れ落ちた。
中にいたインジは既に居なくなっていた。
高「これでよし」
レ「空間ごと奴を破壊したのか?」
高「ああ、どこに宝石があるか分からねえから全体に破壊の力を掛けた。まぁ案の定、身に付けていたみたいだな」
高雅は居なくなったインジの方を見て言った。
フ「よーし、早速、上に行くのです」
高「それもそうだな。だけどよ、上に行くって言っても何処にも上に通じる道は無いぞ」
外から見た限りでは、このタワーは30階程度では済まない。
もっと上階があるとは高雅は分かっているが、そこへ通じる道がなかった。
フ「みゅ~・・・壊すしかないのです」
高「壊す、か・・・よし、壊そう」
高雅は柵を越え、空中へ飛び出す。
そして、すぐに足場を創るとそこから活性+速度のちからで天高く跳躍する。
レオもそれについて行く。
天井まで3秒も掛からずに着くと・・・
シュン・・・
綺麗な円を描いた瞬間、その中心を勢いのまま蹴るとこれまた綺麗な穴が出来上がった。
天井は厚くなく、呆気なく31階に辿り着いた。
高雅が着地すると、遅れてレオも着地した。
高「まだ明るいな。あいつがいる所まで、まだまだだな」
部屋の明るさは全く変わっていなかった。
ただ、あたりには障害物は無く、ただ広々とした空間だった。
そのお陰で、上の階へと繋がる階段がすぐに見つかった。
高「ここには階段があるみたいだな」
フ「そんなことより、早く壊して進んだ方が早いのです」
高「あのな・・・もし、大事な柱とか壊して、タワーが崩れたらあいつらがどうなると思ってんだ?」
フ「あう!!、そうでした・・・です・・・」
フィーラがそれに気付いて反省したのか、少し縮まり込んだ。
ア「でもさ、さっきはどうして壊したの?」
高「止むを得なかったからに決まってんだろ」
そう言って、高雅は階段へ歩み寄る。
障害物もないため、一直線に歩いてゆく。
だが・・・
ズドドド・・・・
高「うお!?」
突然、壁が地面から生えてきた。
高「面倒くさい仕掛けだな。壊して進むか」
高雅が腕を活性して、壁を思いっきり殴った。
高「・・・あれ、壊れねえ」
壁は異常に堅く、壊れることがなかった。
高「純度が高いな。かなり強い創造だな」
そう評価していると・・・
ボトリ・・・
気色悪いモノが落ちる音が後ろから聞こえた。
その音に4人は振り返ると・・・
エ「アソボー・・・アソボー・・・」
体がグチャグチャになったエガルが立っていた。




