緑の復讐編 その5、闇を扱う者と委ねる者
只今、グラウンドは激戦区になっております。
と言っても、たった2つの争いだけだけど。
それでは、我らが主人公の方を覗いてみましょう。
高「よっほっとったっのっちょっわ・・・」
蜘蛛による6本の脚で高雅を串刺しにしようとズガズガ刺しにかかる。
それを高雅はリズミカルに避ける。
高「いい加減に・・・しやがれ!!」
高雅は避けたと同時にからぶった脚に斬撃を喰らわす。
脚は綺麗に裂け、ちょっと短くなる。
蜘「キシャアアアアアアアアアアアアアア」
蜘蛛は苦痛の奇声をあげる。
いくらデカイとは言え、人間にとっては指を一本斬られるのと同じだ。
痛くない訳がない。
蜘蛛はあまりの痛さに脚を止めてしまう。
その隙に腹下に向かってジャンプする。
高「そらよ!!」
ザシュッ!!
蜘蛛の腹に一本の剣が刺さる。
高「よし、勝ったな」
高雅は剣を刺したまま着地する。
巨大な体にたった一本の剣を刺すだけで、高雅にとって勝利とも言える。
理由は簡単、剣には静寂の力が含まれているからだ。
さっき斬った時にも含まれていたが、それに比べ、刺さっているため次々と静寂の力が注入される。
これで大人しくならない訳がない。
蜘蛛の動きは完全に停止し、ドゥーンと鈍い音をして倒れた。
それを見計らって、高雅は柄に着いてある紐を引っ張り、刺さっていた剣を抜き、手元に戻す。
高「んじゃ、あっち側に行ってみますか」
高雅は双剣を腰に挿し、倒れている蜘蛛を横切って声が聞こえた方へ行こうとするが・・・
ア「コウガ!!、あれ見て!!」
高「あれじゃ分からねえよ。剣なんだから」
ア「少しは察してよ。蜘蛛のお腹の方だよ」
高「ん?」
そう言われた高雅は蜘蛛の腹を見てみる。
それは傷口から血がタラタラと流れているだけだ。
だが、その傷口が不自然だった。
高「傷が・・・開いてゆく?。それに・・・腹が動いてる」
先ほど刺した傷口が徐々に開いてゆき、腹は中から殴られるようにボコボコ飛び出ていた。
遂には傷口以外から穴があき、中からその元凶が出てくる。
高「あれは・・・子供!?」
腹から出て来たのは子供だった。
それも一匹ではない。
次々と穴を開けて出てきたり、大きくなった傷口からドバーと一気に出てきたりしている。
高「おい、蜘蛛って卵産むよな!?。何で腹ん中にいるんだ!?」
ア「き・・・気持ち悪い・・・」
高「食事中の方はすみませんでした」
ア「誰に謝ってるの?」
高「気にするな・・・って今度は何だ!?」
出て来た子供はその親を食らい始めた。
高「一体、この蜘蛛は何なんだ!?。大体、もう蜘蛛かまで疑ってしまうぞ」
ア「分からない。一体・・・ッ!?・・・何!?・・・」
突然、アリアの呼吸か荒くなっていく。
高雅はそれに気づき、様子を聞く。
高「アリア?、どうした?」
ア「わ・・・分からない・・・はぁ・・・はぁ・・・体が・・・熱い・・・」
すると、アリアは勝手に人間の姿に戻り、高雅の前に倒れた。
高「アリア!?。どうした!?」
ア「はぁ・・・はぁ・・・」
アリアは高雅の問いに答えることができず、ただ息をするだけで精一杯の状態だった。
高「おい・・・ッ!?、熱!?。これ50度はあるぞ!!」
高雅はアリアの額を触ってみたが、異常な熱さによって反射的に手を飛び除けた。
ア「こ・・・が・・・にげ・・て・・・」
高雅はアリアの途切れた言葉を察し、蜘蛛の方を見る。
すると、親は所々まだ残っているが食い飽きたのか、こっちに向かって来ていた。
高「やべーな・・・」
高雅はアリアを抱え逃げようとしたが、蜘蛛の速さは意外に早かった。
アリアを抱えて逃げるなら必ず追いつかれる。
高「くっそ」
ロ「万事休すだな」
高「・・・・・・はぁ!?」
こんな時でも現れる神出鬼没野郎。
高雅はどっから現れたか分からず、目を丸くして声がした方を見る。
そこには、ログナが何故かバットを持って立っていた。
高「テメー、いつの間に!?。それに、そのバットはどうした!?」
ロ「見て分かれねえのかよ!?。素振りだよ!!。甲子園だよ!!」
高「バットエンドフラグを立てるな。それに、今は甲子園の季節じゃない」
ロ「それより、逃げなくていいのか?」
ログナが指を指して、意識を蜘蛛へ注意させる。
高「俺は逃げねえ。おい、そのバットをよこして、アリアを抱えて逃げろ」
ロ「いいのか~。俺っちがアリアっちをどうしても知らねえぞ~」
高「今のアリアに手を出す奴は愚か者だ。とにかく、バットをよこせ」
ロ「わーったわーった。ほら」
ログナは高雅にバットを渡す。
高雅はもらった瞬間に蜘蛛に向き合う。
高「アリアを任せる」
ロ「ほいほいっと・・・って熱っ!?。何これ!?。ほんとにアリアっち!?」
高「本物だ。いいからできるだけ遠く離れろよ。まあ、限度は500メートルだけど」
ログナは熱さを堪え、アリアを抱える。
それを確認した高雅は蜘蛛の群れに突っ込む。
高「虫ども、俺に着いて来い」
高雅は先頭にいた蜘蛛を叩き潰すと、軌道を変え、ログナ達と離れるように誘導させる。
蜘蛛も標的を高雅に決め、思惑通り全部ついて来る。
蜘蛛と高雅のスピードは蜘蛛の方が若干上だった。
それでも、追いつくには時間が掛かったため、ログナ達とは結構な距離が開いた。
だが、グラウンドからは出ていない。
もし、校舎内などで戦うとすれば、天井や壁やいろんな所から襲われるため、まず勝ち目が無くなる。
それに比べ、グラウンドは地面だけなので戦いやすい。
途中、高雅はAの方を見たが青い円柱と人が二人立っているのしか見えなかった。
高「さあ、もう鬼ごっこは終わりだ。鬼への下克上の時間だ」
高雅はバットを構え、無数の蜘蛛を迎え撃つ。
落ち着きを知らないように蜘蛛達は次々と高雅に飛びかかる。
高雅はそれを簡単になぎ払ってゆく。
高「はんっ、集団で掛かってもこの程度かよ。歯応えがねえな」
蜘蛛はがむしゃらに飛び掛かるだけでは無理と思ったのか、糸を吐き出してきた。
だが、高雅は横や前、後ろステップで簡単に避ける。
高「どしたどした?。威勢が無くなってるぜ。ヘボが」
蜘蛛は野生の本能で勝てないと感じたのか、勢いが無くなりつつあった。
だが、高雅は待つのを飽きたのか自ら殴りかかって行った。
高「もう終わりか?。だったらこっちから行ってやるぜ。ヒャッハー!!」
すでに高雅はもう高雅ではなくなっていた。
あの頃の・・・戦闘狂に。
もう一つの戦闘はと言うと・・・
タ「せやああああああああああ」
タイトが無我夢中に刀を振り回していた。
だが、確実に敵を押していた。
?「くっ、怒りで我を忘れても、剣の腕は忘れず、と言う訳か!?」
タ「死ねええええええええええええ」
タイトの力強い攻撃と怒りでも損なわない技術が敵を確実に追い詰めていた。
だが、敵も持っていた雑草で剣を流す。
雑草は斬れることなく、武器として使われていた。
?「今だ!!」
敵は僅かな隙を狙って、タイトの心臓目掛けて雑草を投げる。
雑草と言っても、ヒラヒラ飛ばず、まっすぐ針のように跳んでゆく。
タイトは避けようとするが、腕をかすってしまった。
敵はタイトが痛みで一瞬怯んだ隙に、今度は木の枝を取る。
木の枝と言っても、よくグラウンドの隅に落ちている10センチ程度のものだ。
?「次の攻撃で隙を作り、早めに切り上げる」
敵も次の攻撃で終わらせようとしていた。
だが、そこに乱入者が現れる。
高「よーよー、楽しそうじゃねえか」
高雅が血で染まったバットで肩を軽く叩きながら迫って来ていた。
敵は目を丸くして驚く。
高雅の後ろには、蜘蛛が無残にも全滅していた。
?(あの蜘蛛を全て殺したと言うのか。こいつ、何者だ!?)
高「乱入者の俺、参加するぜ。異論は認めねえぜ!!」
高雅は敵と空いていた距離を瞬時に詰め、バットを横に振る。
敵は冷静に見極め、木の枝で抑える。
木の枝は折れることなくバットを受け止めている。
何ともシュールな光景だ。
?(情報が無知のまま戦うのは危険だな。楽園の者が惜しいが仕方がない)
敵は力を入れずに軽く高雅のバットを押し返す。
高雅はバランスを崩し、尻もちを着く。
次にタイトが斬りにかかったが、敵は木の枝を投げ、タイトの集中を紛らわす。
タイトは一瞬だけ木の枝に集中し、弾き落とす。
そして、再び敵に向き合うとそこには・・・
タ「・・・何!?」
宝石がいくつか転がっていた。
それは使いの命の宝石である。
誰のものかは分からないが、タイトはそれが敵のものではないことが判断できた。
タ「一体・・・何を!?」
タイトは突然の事に驚き、すこし落ち着きを取り戻していた。
一人を除いて。
高「あーあ、逃げちまったか」
高雅が残念そうにバットをブラブラ振る。
高「何かもの足りねえな。おい、タイト」
タ「何だ?」
高「殺し合いをしようぜ」
高雅はそんな言葉を平然と言ってのけた。
タ「な・・・何故だ!?。何故、拙者とお主に戦う理由がある!?」
高「理由なんて端からねえよ。ただ殺し合いをしてえだけだ」
タ「お主・・・まさか、身を闇に委ねたか!?」
高「キャハハハハハハ」
タイトの声は聞こえておらず、高雅はバットを構え、タイトに向かって走り寄って来た。
タイトは無防備は危険な為、取りあえず剣は構える。
高「お前は歯応えあるよなぁ!?。俺を満足させるよなぁ!?」
高雅は敵の強さを聞くことで、殺し合いと言う快楽の味見をする。
タイトは答えを言わない。
いや違う。
タイトは高雅の謎の威圧に怯え、答えることができなかった。
高「おらあああああああああああああああ」
タ「はっ!?」
高雅がタイトに向かってジャンプして振りかぶる。
その姿は隙だらけだが、タイトに取っては隙を見つけることができなかった。
しかも、タイトはその攻撃に反応することすらできなかった。
タイトは受ける覚悟を決め、目を閉じてしまった。
だが、いつまで経っても高雅の攻撃はタイトに届かなかった。
タ「・・・!?」
突然、高雅がその場に崩れ落ちる。
すると、誰かが崩れ落ちる高雅を受け止めた。
ロ「ふぅ、やっぱコウガっちには不意打ちパンチが効くなぁー」
それはログナだった。
ログナはいつの間にかタイトと高雅の間に入り、高雅の腹にパンチを喰い込ませていたのだ。
ログナは高雅を肩に抱え、タイトに向き合う。
ロ「大丈夫か、タイトっち?」
タ「ああ、忝い」
ロ「いいってことよ。それより、自分の使いとそこに倒れている女の子を頼めるか?」
タ「問題ない。拙者が二人を連れて行こう」
ロ「じゃあ、そこの木陰に蓮田がいるから、そこに来てくれ」
タ「承知」
タイトはAと少女の所へ行き、二人を抱え、先に行ったログナの後を追った。