緑の復讐編 その3、責任
高雅達は校長室からある程度離れた階段に座っていた。
高「・・・大丈夫か、凛?」
凛は校長達の断末魔と生グロイ音を聞いてしまったためか、震えていた。
凛「だ・・・大丈夫ですわ・・・」
返事をするが、その声を聞く限り大丈夫ではないようだ。
高雅は凛の肩に手を置き、落ち着かせようとする。
高「安心しろ。俺がどうにかするから」
それでも、凛は落ち着く様子は全く見られない。
次に高雅は龍子の方を見る。
凛のように震えてはないが、恐怖で目が遠くを見ていた。
高「龍子も大丈夫か?」
龍「う・・・うん・・・」
凛と同じような返事をする。
高雅は二人の様子を見てを罪悪感を感じてしまう。
高「悪かったな、怖い思いをさせてしまった。だけど、その怖い思いを消すこともできる。お前らが望むなら消してやってもいい」
そう聞いてみるが、凛と龍子は首を縦には振らなかった。
高雅も強制をするつもりはなかったので、これ以上は追求しない。
ただ、一つ付け加える。
高「本当にきつくなったら何時でも言っていいからな。俺はお前らが壊れるのが嫌だから」
そう言って高雅は立ち上がる。
高「アリア、二人を頼む」
ア「え!?、どこか行くの?」
高「ちょっと・・・一人にさせてくれ」
ア「・・・うん」
アリアは人間の姿になり、震えている凛に触れながら高雅の後ろ姿を見る。
高雅は曲がり角を曲がり、三人からは見えなくなった。
高雅は別に離れる訳もなく、三人から見えない場所で佇んでいた。
そこで、自分のやってしまったことを思い返す。
高「・・・何だよ・・・この気持ちは・・・」
感じたことのない気持ちに怒りと恐怖が込み上げてくる。
ドガッ!!
高雅は堪らず、すぐそこにあった壁を思いっきり殴る。
その行動は自分の手を傷つけるだけだった。
殴った手から血が壁を伝い、ツーと流れ落ちる。
高「あいつらを・・・傷つけてしまった・・・」
高雅は龍子達を巻き込んでしまったことに責任を感じていた。
もちろん、今までだって巻き込んでしまってはいる。
だが、あそこまで恐怖に満ちた目を見たことはない。
その姿を見て、高雅は改めて責任を感じている。
高「ちくしょう・・・・ちくしょう・・・」
自分の未熟さに涙を零し始めた。
自分の考えが甘かったから、自分の判断が遅かったから、自分の意識が軽薄だったから、――――。
次々と思い浮かぶ自分の罪に押しつぶされそうになってしまう。
その罪は高雅の中に一生残される。
ア「・・・コウガ?」
高「!?」
突然聞こえたアリアの声にビクッとし、涙を拭いて振り向く。
高「おい、二人はどうした?」
ア「後ろにいるよ」
高雅は少し顔を横へ動かす。
すると、アリアの陰になりながらも、少し離れた場所に二人はいた。
だが、まだ目はあのままだ。
高「・・・くっ」
高雅は見ることができず、また後ろを向く。
ア「コウガ、どうしたの?」
アリアは一歩一歩高雅に近づく。
ア「・・・もしかして、責任を感じてるの?」
高「!?」
高雅は考えを当てられてしまい、またビクッと驚く。
アリアはその反応を察して気付いた。
ア「コウガが人間に対してそんなことを思うなんて、変わったね」
と笑いながら高雅を茶化す。
だが、高雅はそれに対して怒ることもなく、振り返ってアリアに聞く。
高「なあ、アリア。この気持ちは何なんだ?」
ア「?、この気持ちって?」
高「何か・・・二人を見ることができない。見てしまうと心がきつく締まるって言うか・・・」
ア「・・・それはね」
アリアは高雅のすぐ傍まで辿り着き、怪我をしている手を取って言う。
ア「二人の事を大切に思ってることだよ」
そう言って手の傷を再生させ、治す。
ア「高雅は二人がまるで別人のように変わってしまう事を恐れている。だからと言って二人が変わりそうなのに逃げだしてはいけない。自分でやったことは自分でどうにかする。責任を感じているのなら、どうにかしなくちゃいけないよ」
高「・・・・・・」
ア「だから、まずは謝らなくちゃね」
高「さっき、謝っただろ」
ア「二人は返事を返してないよ。返事がない謝りなんて無意味なんだから」
高「お・・・おい」
アリアは高雅の手を引っ張り、龍子と凛の所へ連れていく。
二人の所に着くと、高雅は目を逸らしていたが、アリアがそれを指摘する。
ア「ほら、相手の目を見て謝らないと失礼だよ」
高「わかってる」
高雅は意を決して二人の目を見る。
改めて見ると、先ほどよリは恐怖心が薄れているのが分かる。
高「その・・・すみませんでした」
高雅は深々と頭を下げる。
龍「・・・いいよ」
高「え!?」
高雅は幻聴出ないことを知るため、もう一度確認する。
龍「許すよ・・・高雅君・・・」
凛「大体、巨大な蛸をも見ているのですよ。今さら、音だけで人格が変わるはずありませんわ」
高雅は今のセリフからして、さっきの会話が聞こえていたんだと認識した。
高「だけど、今までとはレベルが違う。普通の人間なら精神的に傷が付くだろ」
凛「私達はそのような弱い精神で出来ていませんわ」
龍「それに・・・記憶を消して・・・楽になろうとも思わない・・・」
凛「記憶を消して楽になるなんて、私達がそれで満足すると思っていますの?。高雅さんは自己満足すぎますわ」
高「うぐ・・・返す言葉もねえ」
高雅はさっきとは別の意味で二人の顔を見ることができなかった。
しかし、アリアが肘で突っつき、目を見るように促される。
龍「それに・・・消したとしても・・・罪は消えない・・・」
高「・・・・・分かってる」
改めて言われると、再び罪の重さを感じる。
だが、それを振り払い、真剣な目で二人を見る。
高「だから、罪滅ぼしとしてお前らを守らせてくれ」
高雅の真剣な眼差しを見て、二人は赤くなる。
龍「・・・うん・・・お願いする・・・///」
凛「し・・・仕方ありませんわね。そこまで仰るのならさせてあげますわ///」
高「ありがとう、二人とも」
そう言ってほほ笑む高雅に、今度は二人が高雅の目を見ることができなかった。
ア「それで、気持ちの締め付けは緩くなった?」
高「ああ。ありがとな、アリア」
ア「どういたしまして」
高雅の気持ちが晴れたことを確認して、アリアは本題を切り出す。
ア「それじゃ、これからどうしようか?」
凛「やはり、まずは安全な場所を探す必要がありますわね」
龍「でも・・・学校内は・・・殆ど回ったし・・・」
高「う~ん・・・取りあえず、俺の家に行くか。ちょっとやりたいこともあるし」
龍「どうやって?・・・外は危険なんじゃ・・・」
高「分かってる。俺もバカじゃねえ。二人はちょっと後ろを向いててくれるか?」
龍「うん・・・」
凛「分かりましたわ」
二人は高雅とアリアを視界から外した。
ア「もしかして、真の契約で空間の力を使うってこと?」
高「それしかない。嫌か?」
ア「全然。むしろ・・・」
高「むしろ、何だよ?」
ア「う・・ううん。何でもないよ///」
高「あっそ。んじゃ、行くぞ」
高雅はアリアの肩を持ち、顔を近づける。
ア「・・・・ん///」
やがて、二人の唇は重なった。
そして真の契約が発動し、アリアは双剣になる。
高「よし、もうこっちを向いていいぞ」
高雅の許しを聞き、二人は振り向く。
凛「それで、どうやって高雅さんの家に行くと言うのですか?」
高「簡単な話だ。ほらよ」
そう言って適当な場所に剣先を向ける。
すると、剣先から数メートル離れた場所で空間が歪み始めた。
その光景に二人は驚く。
凛「な・・・何ですの、一体!?」
高「空間を捻じ曲げて俺の部屋へ空間を繋げた。まあ、平たく言えばどこ○もドアだな」
龍「これ・・・私達が・・・後ろを向くのと・・・どういう関係が?・・・」
高「なっ!?、それは・・・あれだ、これを使うには条件がいるんだよ。だけど、それは人に見られてはいけねえんだ///」
凛「どうして顔が赤くなりますの?」
高「えっと・・・条件を達した後の副作用みたいなもんだ」
慌てふためきながら、高雅は必死に理由を述べる。
二人は怪しいと思いながらも取りあえず納得した。
高「と・・・とにかく、こいつを潜れば俺の部屋に着くから、行くぞ」
そう言って、双剣を腰に挿し、二人の手を取って歪んだ空間を潜る。
その時、二人の顔がまた赤くなっていたことを高雅は知らない。
空間を潜り抜けた先は高雅の部屋だった。
凛「まさか、本当に高雅さんの家ですの?。間違ってよそ様の家ではありませんの?」
高「じゃあ、そこの棚にある教科書の名前を見ろ」
凛は言われるがままに棚から数ある教科書を一つ取り出した。
そして、裏面を見ると学年、番号、そして高雅の名前が書かれていた。
凛「確かに、ここは高雅さんの家ですわね」
龍「散らかってないし・・・綺麗・・・」
高「そりゃ、どうも。適当に寛いでてくれ。何か飲みもんでも持って来る」
そう言って扉を開け、部屋を出ようとした。
その時、足元にある動物が威嚇をしていた。
レ「誰だ!!・・・っと、これはコウガ殿ではないか」
高「ただいま、レオ。ちょっと異変が起きてな。空間の力で帰って来た」
レ「そうか、さっきの力はコウガ殿のものであったか。それで、異変というのは?」
高「飲みもんを取りに行きながら話す」
そう言って高雅はレオに足を軽く出し、レオはそれに乗る。
そして、高雅がレオを頭へ蹴り上げる。
レオは龍子達の方を見て高雅に聞く。
レ「ところでコウガ殿。あの者達は一体?」
高「俺の守るべき者達だ」
それだけを言い、高雅は部屋を出た。
高雅は台所の冷蔵庫からジュースを取り出し、コップに注ぎながらレオに学校での出来事を話した。
レ「そうか。そのようなことが起きていたのか」
高「まあな。そこで、お前に協力してほしいのだが・・・」
レ「一体、何をするのだ?」
高「お前からもらった本に書いてあったことをしたいのだが・・・」
レ「あの本か。それで、具体的にどうするのだ?」
高「実はな、空間と活性を融合することで時を早める力ができるんだ。さらに、その周りに空間を作れば、その空間内だけ時間を早めることができる」
レ「成程。察しはついた。我をその空間にいれ、1億年後に我が出てき、共に敵を倒すということか?」
高「ご明察。だけどよ、時が早くなったって、その中では普通に1億年過ごさなくてはならない。ただ、外から見たものにとっては早いだけだ」
レ「つまり、我は1億年だが、コウガ殿にとっては僅かな時間、ということだな」
高「ああ。だから、嫌ならいい。1億年間も一人で居るのは辛いだろう。だから、強制はしない。お前が決めてくれ」
レオは少し考え始めた。
頼んだ本人は“はい”と帰ってくるとは思っていない。
1億年の孤独を味わうのは生き地獄だろう。
最近になって、高雅は仲間の大切さを知っている。
だから、高雅はレオに期待などしていない。
レ「・・・いいだろう」
だが、レオは高雅の予想を破った。
高「いいのか!?。1億年だぞ!!」
ア「無理しなくていいよ、レオ君」
レ「君付けをするな。それに、我は無理をしておらぬ」
高「じゃあ、どうして?」
高雅の質問にレオは愚問と思いながら答えてやった。
レ「家族が戦っている時に、我だけ家で留守番はもう懲り懲りだからだ」
高「・・・そっか。分かった。じゃあ、今からその空間を作る」
高雅はリビングへ行き、レオをソファーに下ろす。
高雅は片方だけ剣を腰から抜き、剣先を目の前に向ける。
一回深呼吸をして目を閉じ、力を込め始める。
高(空間と活性を融合・・・)
高雅は頭の中で力の融合を描く。
すると、剣先に赤と紫のグラデーションでできた光が生まれる。
そして、すぐにもう二つ力を合成する。
高「よし、さらに空間+創造の力」
すると、目の前に直径2メートル程の球体ができ上がった。
高「よし、完成。にしては、融合力を作るのには時間が掛かるな。あんまり戦闘向けじゃなさそうだ」
レ「コウガ殿、我はこの中に入ればよいのだな?」
高「ああ。ちなみに、中にも空間の力を掛けたから外見よリ広いし、さらに、何か願えば好きな物が出るようにしたぞ」
ア「だから、創造の力も使ったんだ」
高「まあな。後、何時でも帰れるようにしてるから、辛くなったら出て来いよ。出て来たって責めはしない」
レ「ふっ。感謝するぞ、コウガ殿。では、また会おう」
そう言ってレオは球体の中へ飛び込んだ。
ア「ところでさ、どのくらいで1億経つの?」
高「出来る限り早くしたら、1秒で5000年ぐらいになった。後は自分で計算しろ」
ア「えっと・・・1時間が3600秒だから1時間で18000000年で・・・約6時間だね」
高「簡単な数字にまとめるとそうだな。それじゃ、あいつらに飲みもんを持ってくか」
ア「ふと思うと、レオ君はもう50000年過ごしてるんだよね」
高「ああ。出て来ないってことは、それだけ覚悟を決めてるか、願いを使ってで楽しんでんだろう」
高雅は台所に戻り、お盆に乗せたジュースを持って、部屋に向かった。
空間の中。
そこは景色が捻じ曲がっており、それ以外は何もなかった。
レ「願えば好きな物が出るか・・・」
レオはその言葉を頭の中で何度も再生し、あることが思いついた。
それをレオは目を瞑り、願う。
そして、再び目を開けるとそこは・・・
レ「ふっ、本当に願えば叶うのだな」
レオは自分の願ったものと一緒に空間内を過ごし始めた。