絆編 その6、皆は一人のために、一人はひとりのために
A「必殺、バーニングバーストオオオオオオオオオオオ!!!」
Aは厨二病全開な名前を言いながら斬撃を飛ばした。
活性を込めた灼熱の斬撃である。
ちなみに、これは前に雪山で使ったわざと同じであり、名前が変わっているのは本人が忘れたからである。
しかし、紗奈恵はいとも簡単にハンマーで叩きつぶした。
A「うっそん」
紗「甘いわね」
紗奈恵は速度の力を使って一気に間合いを詰めた。
Aは活性で身体能力は強化していたため、反応は出来た。
紗奈恵の神速の攻撃を紙一重で避けたAは冷や汗をかいていた。
A「こわ・・・当たったら首が無くなるって」
紗「私は本気よ。おじけついたなら諦めて帰りなさい」
A「まだまだ!!」
Aが思いっきり刀を振るうも紗奈恵はすぐに距離をとった。
すると、龍になったサミダレがすぐに紗奈恵に跳びかかった。
紗奈恵は休む間もなく飛び上がり、サミダレは床に着地したと同時に追い掛けた。
A「おらあああああああああ」
Aもそれを予測して紗奈恵を追い掛けるため跳んでいた。
紗「なら、これでどうかしら?」
紗奈恵はハンマーを振り、空気を殴って波動を撃った。
狙いは体の大きなサミダレの方である。
しかし、その波動は途中で消えた。
紗「?」
紗奈恵は一瞬何が起こったか分からなかったがすぐに理解した。
遠くでエクスが虚無の力を使っていたのだ。
A「大チャンス、キタコレ!!」
サ「頂きじゃ」
紗「まだよ」
紗奈恵はAの攻撃を防ぐも、サミダレの体当たりまでは防げなかった。
Aも一緒に吹っ飛ばしたが、Aは活性している為、ダメージは少ない。
紗「ぐっ」
A「落っちろぉ!!」
吹き飛んでいる最中にAが紗奈恵を蹴り落とす。
落ちてきた所をサミダレがもう一度体当たりする。
紗「やるじゃない」
しかし、紗奈恵はギリギリで空間を開き、その場から逃げた。
A「読んでたぜ!!」
紗「なっ!?」
Aが紗奈恵の出てくる場所を読んで先回りしていた。
さすがの紗奈恵も読まれるとは思ってなく、隙だらけであった。
A「喰らえ!!」
紗奈恵はすぐさまハンマーでガードしようとするも、その瞬間にAの姿が揺らいだ。
紗「夢幻!!」
A「ブラストフレアアアアアアアアアアア!!」
紗奈恵が気付いた時には、Aが最初と同じ技を放っていた。
名前が変わっているのは言うまでもない。
翻弄されていた紗奈恵にAの必殺技が決まった。
紗「が・・・」
紗奈恵はガードも出来ずにもろに喰らった。
灼熱の斬撃で皮膚は焼け、腹から血が溢れていた。
A「しゃあああああああああああああ」
エ「いい連携だ」
サ「私らもやればできるもんじゃ」
フ「でも、相手が相手です。まだ油断できないです」
フィーラの言うとおり、紗奈恵は傷口をすぐに再生させていた。
サ「少し油断したわ。中々やるようね」
A「俺は元主人公だからな」
フ「一度たりともそんなことはなかったです」
紗「でも、私もアリア程じゃないけど、大抵の力は使えるわよ。力を封じないと再生し続けるわよ」
エ「確かに言うとおりだな。では、僕が彼女に虚無を撃ちこむしかない」
紗「まぁ、そうなるわね。けど、次であなた達は是認終わりよ」
紗奈恵は遠くにいるにも関わらず、腰を捻ってハンマーを構える。
紗「避けれると思わないように」
A「?」
紗奈恵の行動に?マークを浮かべる四人。
すると、紗奈恵は攻撃の範囲外だがハンマーを振った。
それと同時に空間の力を使った。
狙いはもちろん、四人である。
A「うお!?」
フ「みゅ!?」
エ「しまっ!?」
サ「何!?」
四人の足下は紗奈恵の力によって落とされ、落とされた場所は当然・・・
紗「終わりね」
紗奈恵の目の前であり、攻撃範囲でもある。
A、エクス、フィーラは着地に失敗し、サミダレだけが反応出来ていた。
サ「させぬ!!」
いち早く反応したサミダレが全員を庇うように覆いかぶさる。
自ら犠牲になって皆を守るつもりである。
紗「ふふっ」
A「ッ!?、やべっ!」
Aは何か気付いたのか、体を無理やり転がして庇ってくれているサミダレから離れた。
そして、Aが抜けたと同時にサミダレの体にハンマーが当たった。
サ「ぐっ」
エ・フ「ッ!?」
サミダレは潰されずに耐えきった。
耐えきったはずだったのだが、全く動かなくなった。
庇ってもらったエクス達も全く動かなかった。
エ「か・・・体が・・」
フ「動かない・・・です・」
A「あちゃぁ・・・やっぱり」
紗「感じてから動いたみたいね。良い反応ね」
三人の動きを封じた紗奈恵はAに向かい合う。
Aは頭を掻きながら困っていた。
A「静寂には敏感になってな。誰かさんのせいで」
Aは紗奈恵のハンマーから静寂の力を感じ取っていたのだ。
その為、無理やり体を動かしてサミダレから離れたのである。
それに気付かなかった三人は完全に機能停止していた。
紗「高雅ったら、本当に余計な事を教えるわね」
A「いやいや、こうして役に立っている事だし、余計じゃないぜ」
紗「私から見たら余計な事よ。でも・・・」
紗奈恵は再びハンマーを持ち、殺気をAだけに放つ。
対象は一人だけになったため、さっき感じたものとは段違いだった。
紗「入れ知恵は一人だけだったみたいね」
A「おお、こわいこわい」
紗「さぁ、あなたの活性だけで、私を倒せるのかしら?」
A「やってみなくちゃ分かんねえええええええええ」
Aも殺気を紗奈恵に向けてぶつける。
勝ち目が薄いと言うのに、今だやる気があるAを見て紗奈恵は驚いていた。
紗「・・・全く、高雅には困らされてるわね」
A「主人公の仲間の末路は二つ。死ぬか勝つかだ!!」
紗「安心しなさい。殺したりはしないわ。でも、勝たせたりもしないわ」
紗奈恵は一段と殺気を強くするも、Aの変化は見受けられない。
Aは例え高雅の殺気だろうが引けを取らない肝っ玉の持ち主である。
紗奈恵は溜息を零しながら小さく愚痴を零した。
紗「ほんと、高雅も高雅の周りも成長したわね・・・」
A「先手必勝、おりゃあああああああああああ」
軽く項垂れていた紗奈恵に向かって先に動き出すA。
紗奈恵も気を引き締め、迫りくるAに迎え撃った。
変わって厨房。
文「全く、せわしない奴らだ」
文夫はダルそうに頭を掻きながらレオの攻撃を避けていた。
レオは獣状態になり、障害が多い厨房の中でも自由に動き回っていた。
レ「そこだ!!」
文「おっと」
レオが的確に文夫の隙を狙うも、全て避けられてしまう。
しかし、避けたと同時に背中に重みを感じた。
文「ッ!?」
シ「あ~ん♪」
背中から抱きついて来たシリアが大口を開けていた。
そのまま、シリアは文夫の首裏に噛みついた。
レ「いいぞ!!」
文「全く、油断も隙もない奴らだなぁ」
レ「なっ、効いていないのか!?」
シ「硬ぁい・・・」
シリアは涙を流しながら口を開けていた。
文夫の首裏にはしっかりと歯型が残っていたものの、平気そうな顔をしていた。
文「軽くトラウマ思いだしたぞ」
シ「うぅ・・・顎が痛いよぉ・・・」
レ「大丈夫か、シリア殿?」
シリアが泣きながらレオの方へ向かう。
レオは心配そうに前足で頭を撫でてあげた。
文「仲間思いだな」
レ「当然だ。コウガ殿に教えてもらった」
文「あいつが仲間思いなわけ・・・あるか」
直接は教えるはずがないが、高雅を理解している者なら自然と分かって来るのだ。
素直じゃない高雅の事は文夫もそれなりに知っているが、レオ程ではない。
レ「文夫殿にはコウガ殿の良さが理解できないだろう」
文「あんな素直じゃない奴の良さなんて分かるか」
レ「ふっ、やはり理解してないな」
文「何?」
レオは文夫の事を鼻で笑った。
レ「コウガ殿は素直だ。そして強く、優しいのだ!!」
文「優しさで天国侵略とは感心せんな」
シ「お兄ちゃんは家族の誰が欠けても嫌だからぁ、本気で救おうとしているだけぇ」
レ「そして、その気持ちは我らも同じだ」
文「いい家族愛だな。だが、譲る気はしない」
文夫は首を回して軽く体を伸ばし始めた。
文「これ以上、舐めていると失礼だな。本気でやらせてもらうぞ」
準備運動が終わったところで、文夫も本気で殺気を放つ。
先ほどまでとは違う空気が一気に包み込んだ。
レ「シリア殿、戦えるか?」
シ「ちゃんと食べられるよぉ!!」
レ「そうか。ならば行くぞ!!」
レオとシリアが再び文夫に接近した。
文「こっちも高雅の為に動いてんだ。精々勝負になってくれよ」
文夫も指の骨を鳴らしながら迎え撃つ。
レオ達は使いの紗奈恵がいない文夫の実力は分からない。
それでも、只者ではない事をレオ達は自然と理解していた。
宮殿のある廊下で激しい兄弟喧嘩が繰り広げられていた。
勇「おらぁ!!」
勇人の投げたブーメランは壁を斬り裂きながら高雅に向かって真っすぐ飛んで行った。
高雅はそれをしゃがんでやり過ごし、一気に勇人に詰め寄った。
高「うらぁ!!」
勇「遅いんだよ!!」
高雅の速さは勇人から見ればたかが知れていた。
勇人は軽く交わして腹にクロスカウンターを入れる。
そのまま拳を振り切って高雅を吹き飛ばした。
高「がっ・・・つぅ・・・」
壁に背中を思いっきり打ちつけられ、高雅は痛みに堪えていた。
高「ッ!?」
その隙を測ったかのようにブーメランが高雅の首目掛けて飛んで来た。
ガッ!!
ブーメランの両先が綺麗に後ろの壁に刺さり、高雅を捉えていた。
少しでも動けば、高雅の首にブーメランの刃が襲う状態だ。
勇「そこからどうする?」
高「くっそ・・・・」
勇「・・・気付いていると思うが、お前の仲間も母さんと父さんに会ってる。当然、意味が分かるよな?」
高「アリアの場所がもうすぐ分かるって事だろ」
勇「アホ。お前らの負けが決まったって事だ」
勇人が近づいて来て近くに会った窓枠に腰を下ろした。
勇「お前さ、もう何も失いたくないだろ?」
高「・・・・・・・・・・・・」
勇「お前は色々と失って来た。普通の日常や親、自分の存在とかな」
高「それが何だよ・・・」
勇「お前のお陰で、天界が平和になった。地獄の奴らの動きも止まった。それは感謝している」
高「だから・・・何だよ・・・」
勇「これを期に楽になれ。日常に戻れ。非現実なことから離れろ」
高「・・・・・・・・・・ざけんな」
高雅はゆっくりとブーメランを持ち、力を入れ始める。
勇「止めとけ。血が無駄になるぞ」
軽く握るだけで皮膚がかなり抉られ、血が溢れていた。
しかし、高雅は止めようとしなかった。
高「俺の存在やら、天界やら、日常が恋しいやら、もうどうでもいい」
勇(・・・こいつ、まさか)
高「日常に戻れだ?、そんなことは俺が決める。ただな、その前にやることがあるんだよ」
徐々にブーメランが外れると同時に高雅の手が真っ赤に染まっていた。
それでも、高雅の目に揺らぎはなかった。
高「アリアを・・・アリアを殴らなくちゃいけねーんだよ!!!!」
遂に高雅はブーメランを外し、勇人に投げ返した。
勇人は焦らずに普通にキャッチする。
高雅と違って力があるため、手は傷つかない。
高「こんな面倒事を呼び起こしたあいつを、殴らなねえと気がすまねえんだよ!!!!」
殺気を爆発させ、宮殿内全体にプレッシャーが発生する。
尋常じゃない殺気の量に、勇人の体は硬直していた。
勇「ぅ・・・・やべぇ・・」
高「お前ごときに、俺の道を譲る訳にはいかねえんだよ!!!!」
高雅は殺気と血を纏った拳で動けない勇人の顔面を思いっきり殴った。
今までとは違う威力に、勇人は外に思いっきり吹き飛ばされた。
しかし、すぐに体勢を立て直して空中で止まり、高雅を睨みつける。
高「俺はお前をぶっ倒してアリアを殴る!!!!」
勇「おもしれぇ。義弟が義兄に勝ると思うなよ!!!!」
兄弟喧嘩はさらにエスカレートした。
倒れても収まる様子ではない。
どちらかが、完全に再起不能になるまで続きそうだ。
アリアのノート、四ページ目
何だか身震いがする。
寒くないのに、怖いと言うか何と言うか・・・
でも、変だと思うけど・・・安心する。
私はこの感覚に覚えがある。
・・・・・・いや、覚えてる。コウガだ。
・・・やだ・・・やだやだやだやだやだやだ―――
コウガだけは忘れたくないよ・・・
一瞬だけでもやだよ・・・
コウガ・・・