幸せになってもいいですか?
高校二年生も残すところ僅かの二月。
雪が降っているなか、高雅は放課後に商店街に向かい、夕飯のおかずを買いに行っていた。
高「今日の飯はどうするかな~」
色々な食材を見て回り、今日の献立を考えていた。
高「冬のカレーもまた悪くない。いや、普通にホワイトシチューがいいか・・・」
ア(そう言えば、フィーラちゃんがおでんって言うのを食べたいですって行ってたよ)
高「おでんか・・・それも悪くない。しかし、おでんは前日に作った方がいいから後日だな」
ア(じゃあ・・・)
高(―――って、何で食わないお前が色々考えてんだよ?)
ア(あ・・いや・・・ちょっと興味が・・・)
高(まぁ、別にいいけどな)
高雅は結局ホワイトシチューにすることに決めた。
必要な材料を買ってまっすぐ家に帰る。
しかし、その途中であるものを見つけた。
猫「ミャー」
高「ん?、猫か」
それは野良猫だった。
高雅は足を止め、猫を観察していた。
猫「ミャーミャー」
すると野良猫は高雅を見つけると逃げずに擦り寄って来た。
寒いのか、何か暖が欲しいのだろう。
ア「あは、可愛いね」
高「鬱陶しいな。蹴り飛ばすか?」
ア「とか言って。本当はそんな気ないでしょ?」
猫「ミャーミャー」
ア「?、何だか寂しそうだね」
高「・・・・・・・・俺はお前の親じゃない。さっさと帰れ」
猫「ミャー・・・」
高「親の死を受け入れられないか・・・まぁ、気持ちは少しだけ分かるが」
ア「え!?」
高雅の言葉に驚くアリア。
殺気を読みとって分かったのだろう。
ア「まさか、猫と喋ってる?」
高「殺気を読みとってるからな。しかし、こっちの言葉が通じているかは知らねえが」
猫「ミャー・・・ミャー・・・」
高「うるせえな。俺はお前の親の代わりになれない。けど・・・」
高雅は猫の頭を撫でた。
そして、抱えてあげると優しく微笑みかけた。
高「その苦しみを癒すぐらいはできる」
高雅は少し強く抱きしめた。
すると、猫は普通は滅多に見せない涙を見せた。
親の死を素直に泣けなかったのだろう、猫の涙腺が崩壊していた。
ア「コウガ・・・」
高「全く、猫一匹慰めるぐらい簡単だろ」
ア「異常なまでに優しくなったね。前は猫一匹に全力で追いかけまわしていたのに」
高「あんな猫、もう忘れた」
アリアと高雅が話している内に、猫は割り切ったのか、高雅の手から飛び出した。
猫「ミャー」
別れ際に振り向き、一言置いてからどこかに走って行った。
ア「ねえコウガ、さっき何って言ったの?」
高「わざわざ聞くこともねーよ」
そう言って、高雅は再び歩き始めた。
家に着いた高雅は真っ先に寝ると思いきや、普通にご飯を作っていた。
献立は最初から決めていたホワイトシチューである。
フ「何だか美味しそうな匂いがするです」
シ「ご飯まだぁ?」
高「そろそろ出来るから席に着け。今日は楽園組も食うだろ」
フ「はいです」
シ「はぁい」
フィーラとシリアは元気よく返事をして台所を離れる。
高雅は食べる人の分だけを皿に注ぎ、お盆を使わずに器用に纏めて運ぶ。
高「で~きたぞ~」
フ「待ってましたです!!」
シ「わぁい!!」
エ「今日の飯は白いな。牛乳のスープか?」
高「10%正解とでも言っておくか」
高雅は皿を並べ、スプーンを渡す。
全員に行き渡った所で高雅も席につき、手を合わせる。
高「頂きます」
フ「頂きますです」
シ「頂きますぅ」
エ「あー、うめぇ」
一人除いて合唱し、スプーンを握って食事を始める。
一人は目の前に皿とスプーンが置かれた瞬間から食べ始めていた。
フ「美味しいです」
シ「おいしぃ」
エ「うまいな」
高「俺ながら上出来」
ア「ホント、美味しそうだよね」
サ「食べてみたいのぉ」
高「食いたければ勝手に食えばいい。鍋で作ったからまだまだあるぞ」
サ「ほぉ。では、私も頂くとしようかのぉ」
ア「私も食べてみようかな」
サミダレとアリアが台所へホワイトシチューを注ぎに向かった。
高雅は平凡に過ごす時間を味わっていたが、ふと気付いたことがあった。
高「そう言えば、レオが見当たらないが」
フ「朝早くから出たです。行先は不明です」
高「夜になっても帰って来ないとは・・・後で仕付でもするか」
エ「何だ?、火炙りでもするのか?」
高「ギロチンでいいや」
ア「どっちも良くない!!」
聞いていたアリアがツッコむ。
アリアは高雅の隣に座り、手を合わせてから食べ始めた。
ア「でも、レオ君がいなくなるなんて意外だね」
フ「そうです。何だか、前日から元気がなかったです」
サ「今日が何か特別な日じゃろう・・・あ」
エ「何だ、そのいかにも思いだしたみたいな『あ』は」
サ「いや、実はじゃの・・・」
何もない平地。
そして、現世でも天国でも地獄でも楽園でもセイクリッドでもない場所。
またの名を元天獣の生息場所。
レ「・・・・・・・何年振りだろうか」
毎年、訪れている訳ではないが今回はふとここにやって来た。
1億年も見ていないと流石に見たくなる衝動に駆られていたのだ。
レ「・・・我は・・・楽しんでいいのだろうか・・・」
ここに来るたびにそう思っている。
自分とサミダレ以外の天獣は死んでいる。
また、行方不明でどこにいるのか分からないとしても、死んでいると数えて殆ど間違っていない。
それなのに、今の生活を心から楽しんでいた。
時には戦うこともあるが、何より高雅達と一緒に過ごす時間は楽しかった。
レ「ここに来ると、王として不甲斐なさを感じる。我は・・・どうしたらいいのだろう」
自分に問いかけ、自分で答えを求める。
しかし、ありもしない答えを見つけるのは不可能に近いことだ。
レ「父上、母上。我に知恵を与えてくれ。この器のない王に・・・」
?「そいつぁ、無理な話だな!!」
レ「ッ!?」
謎の声が聞こえた瞬間、光弾が数発迫って来ていた。
レオは身軽に避け、光弾を撃った犯人を探す。
?「ヒッヒッヒ、どこを見ている」
レ「くそっ、姿を現せ!!」
?「こんな平地で見つけることも出来ないか。情けねえな」
レ「くっ・・・」
悔しがるレオに再び光弾が飛んでくる。
レオはそれを避けては探し続けるも、全く見つからない。
レ「何故、我を狙う!?」
?「簡単なこと。昔、滅ぼしそこねた天獣を狩るだけだ」
レ「まさか・・・貴様が!?」
?「ケッケッケ、生き残りの王子が立派な王になっているとはね・・・」
レ「貴様が仲間を・・・家族を・・・!!!!」
レオは怒りに満ち溢れ、我を忘れていた。
鋭い牙を光らせ、地面を抉り、殺気を奮い立たせる。
レ「出て来い!!!!。その首、噛み千切る!!!!」
?「出て来いと言われて出る分けねーだろ、バァカ」
レ「殺す!!!!」
レオは意地でも探し出そうとしていた。
しかし、憎しみと憤怒で出来た偽りの理性は判断を鈍らせる。
さっきまで避けていた光弾を殆ど避けていなかった。
寸前で避けているか、かすり傷を負っていた。
?「ヒーッヒッヒッヒ」
レ「卑怯者!!!!、小癪な真似をしなければ戦えないのか!!!!」
?「戦いに卑怯もねーよ、バァカ。その不意打ちに死んでいった哀れな天獣が悪いんだよ」
?「だったら、人数においても文句はないよな」
?「あ?」
ドゴッ!!!!
かなり鈍い音が聞こえ、レオの目の前に転がって来たのはエクスの姿だった。
レ「!!、やはり貴様が!!!!」
高「おい待て、それはエクスじゃない。似てるだけだ」
レオが声に反応し、目線を上げると高雅の姿があった。
高雅だけではなく、他にもアリアやサミダレ、フィーラとシリア、もちろんエクスの全員がいた。
高雅は既に真の契約をしており、双剣を構えた状態だ。
エ「そうだぜ。ったく、そんなクズと一緒にするなっての」
?「くそぉ・・・お前ら、何者だ!!」
高「俺か?。名乗る程でもねーよ」
フ「名無しに名乗る名はないです」
サ「確かに、名無しに名乗ってものぉ」
エ「今から消える奴に名前教えてどうする」
シ「皆ぁ、教えないからぁ、あたしも教えなぁい」
ア「あははは・・・」
全く教える気が無い全員に苦笑いするアリア。
?「お前らが何であろうと、俺h〈グシャ〉あがっ!?」
高「!?」
レ「黙れ・・・お前がものを言う権利はない。死ね」
ア「れ・・レオ君!?」
レオが前足で腹を押しつぶし、殺しに掛かる。
いつもとは違う残虐的な殺し方に一同は少し驚いていた。
レ「我の苦痛を・・・皆の苦痛を・・・存分に味わって死ね!!!!」
?「あぎ・・あががが・・・」
レオは内臓を抉り、じわじわと苦痛を味わうように少しづつ傷付ける。
すると、高雅がレオの前足を引き抜き、名無しを蹴り飛ばした。
蹴った場所には狙っていたかのように(てか、狙っていた)宝石があり、破壊していた。
名無しは宙を舞いながら消滅した。
しかし、レオは全く満足していなかった。
レ「コウガ殿!!、何故邪魔をした!!。もっと苦痛を味わらせるべきだったのだ!!」
高「お前、そんな血まみれな前足で俺の家に上がり込むつもりか?。いくらなんでもそれは許さねえぞ」
レ「こんなもの、洗えばどうにでもなろうが!!」
高「そうだな・・・足は洗えばどうにでもなるが・・・お前、周りを見てみろよ」
レ「!?」
高雅に言われ、レオはフィーラ達の方に顔を向けた。
皆、レオを見て少し怖がっていた。
そして、今まで自分がやって来た事を思い返した。
レ「我は・・・何と恐ろしい事を・・・」
高「気付いたか、アホ。憎しみで殺しをしても、碌なことにならねえよ」
レ「・・・すまないコウガ殿」
高「全く、外は洗剤で洗えるが、中はどうやっても洗えないからな。気をつけろよ」
レ「分かった・・・」
ア「良かった。レオ君が道を間違えるかと思ったよ」
高「サミダレから天獣が滅んだ日って聞いて、何か嫌な予感がしてな」
フ「もしかしてと思って全員でここに来たです」
エ「予感的中。まぁ、これで俺の疑いも晴れたな」
レ「あ・・ああ、疑ってすまぬ」
サ「しかし、王たるもの感情に流されるとは、まだまだ子供じゃのぉ」
レ「く・・・何も言えん」
高「そう責めるなサミダレ。失う悲しさはお前も同じだろ?」
サ「私は大人じゃ。わざわざ感情に流されたりはしないのじゃ」
ア「取りあえず、もう帰ろう?。現世じゃ深夜だよ」
高「そうだな。んじゃ、帰るか」
高雅は空間を開いて自分の家へとつなげた。
高雅に続いて次々と空間に入って行く。
しかし、レオが入ろうとした瞬間、アリアが人間状態になって止めた。
ア「待って。そのまま入ったら床が汚れて怒られるよ」
レ「あ・・ああ、すまない。タオルを頼む」
高「ほらよ」
アリアの代わりに高雅がタオルを投げ渡す。
高「それは捨てる予定のタオルだ。どうしたって構わない。後、吹いた後は風呂場でちゃんと流せよ」
レ「分かった。すまない」
レオは血の付いた足をよく拭きとり、風呂場へ向かった。
ア「あ、私が洗い流してあげるよ」
レ「そうか。よろしく頼む」
アリアも一緒に風呂場に向かって行った。
取りあえず、シャワーで一通り流してから洗剤で洗い流す。
そんな時、アリアが口を開いた。
ア「あのね、やっぱり辛いかもしれないけど・・・」
レ「ん?、何だ?」
ア「私達が一緒にいるから。辛いことも楽しい事も共有しあおうよ」
レ「・・・ふ、ありがとう。しかし、我は天獣の皆を置いて幸せを手にするのは・・・」
高「じゃあ、そいつらの分まで幸せになればいいじゃねえか」
いつの間にかやって来ていた高雅が横から口を出す。
高「幸せに権利なんてものはねえよ。自分で手にするかどうか好きにしろ。ただ、何があろうが幸せになってもいいんだよ」
レ「・・・・・分かった。では、我はここで楽しく生きるとしよう」
ア「うん、それがいいよ」
高「もう、迷惑だけは懲り懲りだからな」
レ「うぬ・・・すまない」
高「分かればよろしい。じゃ、俺は寝る。お前らもさっさと寝ろよ」
ア「うん、お休み」
高雅はこの場を離れ、就寝準備に取り掛かった。
レオ達も事が終わったらすぐに眠りに着いた。