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(番外編)使用人会議

※本編でハルが熱を出すちょっと前くらいのお話です※





「では、第十一回〝ハル様とリッチェル様はどうやったらくっつくのか会議〟を開催したいと思います」


 場所は使用人の控室。

 モニカがそう宣言すると、集まった使用人たちはそれぞれ神妙な面持ちでうなずいた――ただ一名、エヴァンを除き。


「なんで俺まで……」


 そうぼやいたエヴァンに、腕を組んだモニカが顔を向ける。


「エヴァンくんにはハル様のご様子を聞きたいからですよ。ハル様は最近どうですか?」

「最近も何も、この会議、一日に何回もやってるじゃないですか。暇なんですか?」

「どんなに忙しくても最優先事項です。だいたい、前回も前々回も来なかった人が何を言うんですか。さあエヴァンくん、報告を」


 真顔で圧をかけるモニカを見上げたエヴァンは、頬杖をついたままため息をついた。


「書斎に誰か入ってきても仕事に没頭していることが多かったハル様が、リッチェル様が夜に書斎を覗きに来るようになってからノックの音に反応するようになった、とは前回報告したとおりです。昨晩は外が暗くなってからしきりに時間を気にされていました」


 エヴァンが淡々とした声で報告を終えると、女性陣の一部がきゃあきゃあと歓声を上げた。


「〝リッチェル様にハル様が働いているところを見てもらおう作戦〟ばっちりハマりましたね!」


「ハル様は早く告白してしまえばいいのに」

「その前にまず〝僕があなたの夫です〟って言わなくちゃ」

「ほんとよねえ。なんであんな嘘ついちゃうんだか」


「ハル様はリッチェル様のご実家の債務が片づいたら、リッチェル様をご実家にお返しするつもりなんでしょう?」


「どう見てもべた惚れなのにね」

「ハル様、私たち相手じゃあんなに真っ赤になりませんよね」


「さすがに気が変わるんじゃないですか?」

「あんな可愛らしい人を一度そばに置いて、手放せる男がこの世にいるの?」


「でも変に頑固なのがハル様だから……」

「わかんないわね……」


 微妙な静けさが訪れかけた空気の中、それまで黙っていた使用人の一人がぱちんと手を叩く。


「でも、お嫁に来てくださったのがリッチェル様でよかったですね。ハル様は一生独身で養子だけ迎えるか、悪い女につかまって骨までしゃぶりつくされるかの二択だと思っていました」


 発言者に一斉に顔を向けた女性陣は、それぞれにうなずきあった。


「本当によかったですよねえ。横柄な態度の貴族も多い中、リッチェル様は私たち使用人にも丁寧な態度で接してくださいますし」


「ちょっとしたことにも〝ありがとう〟って言ってくださいますし」


「しかも小柄で小顔で本当に可愛らしくて。中庭にいらっしゃるお姿はまるで花の妖精が立っていらっしゃるよう」


「歌声も澄んだソプラノがすごく綺麗で、聞いていると心が洗われる感じがします」


 うんうん、と男性陣が無言でうなずいている。

 女性陣もうっとりと手を頬に当てた。


「もっと着飾ってさしあげたい……」

「たくさん着せ替えたい……アレとかソレとか着てほしい」

「先輩、欲望がだだもれですよ」

「おっといけない」


 周囲を見回し、当てつけのような長いため息をついたエヴァンが、立ち上がって扉に向かう。


「ただの井戸端会議なら仕事に戻ります。俺は忙しいんで。それと」


 エヴァンは扉に手をかけてから振り返り、使用人のひとりに鋭い視線を向ける。


「ハル様は幅広い事業を展開されていますし、投資先もたくさんお持ちなので、怪しげな投資話を持ち込む輩も多いですが、きちんと選別されています。頼りなさげでも人を見る目は確かなので、悪い女に騙されるようなことはないと思いますよ」


 エヴァンが出ていくと同時に、男性陣もそそくさと退室していく。


 残された女性陣は男性陣が出ていったことをさして気にする風でもなく、皆で顔を見合わせた。


「怒られちゃった」

「エヴァンくんはハル様にも厳しいけど、ハル様のこと大好きだから」


「でもあの子、ハル様の養子になる話は断ったんでしょ? 去年だっけ?」

「〝俺を養子に迎えたら、ハル様は俺に気を使って一生結婚しないからだめ〟ってことだったらしいですよ」


「あー……」

「ありえる……」


「エヴァンくんが幸せになったっていいのに、健気ねー」

「ハル様が忙しいときほど、エヴァンくんは遅くまで書斎で読書してるじゃない? あれ、ハル様が倒れないか心配で部屋にいるんだと思うのよね」


「忙しいといえば、ハル様、最近すっごくお忙しそうだけど、大丈夫かしら?」


「今は自分の仕事の他に、リッチェル様のご実家の債務整理と領地経営の立て直しのお手伝いもやってらっしゃるんでしょう?」


「今朝お部屋にうかがったらいらっしゃらなくて、昨日と同じ格好で執務室にいらしたわ。あれ、絶対また徹夜したわよ」


「前髪のせいで顔色がわからないけど、たまにふらふらしてらっしゃるのよね」


「そろそろ熱出すんじゃないですか? 解熱剤の在庫ありましたっけ」

「今朝のうちに確認済。問題なし」

「そもそも時々疲れて熱を出されるのが問題なんですけどね」


 ううんとうなった使用人たちは、それぞれにため息をついた。


「ハル様が最近倒れられたのは結婚式の日でしたね」


「そうそう。緊張疲れか、帰ってくるなりベッドにバタリ」

「熱出して動けなくなって」

「一体どーしたもんかと思いましたね」


「リッチェル様がいきなり放置されてとまどってらしたけど、当主がヘタレですみませんとはちょっと言えなかったわ」


「私も」

「同じく」


 話題が一つ下火になったところで、ひとりの使用人が窓に目を向け、慌てて立ち上がる。


「大変! ハル様が離れから戻っていらしたわ」


「では今回はここで解散!」


 モニカがそう宣言し、皆がバタバタと各々の仕事に戻っていった。

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