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公爵令嬢は、聖獣公爵に愛される  作者: ハナショウブ
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庭へ

「体調も良くなってきていますし、お庭に出てみませんか?」

意識を取り戻してから一度も部屋を出ていなかったライラにアンナがそう提案してきた。

足の怪我でまともに歩くことがまだできない。

そのため食事も部屋で取っていた。

リハビリは立ち上がるところから部屋の中を少し歩く程度までできるようになってきたが、大半はベッドの上で過ごしている。

アンナとルルナがマッサージなどもしてくれるので、体調はだいぶ良くなってきていた。

「そうね。たまには外の空気も吸いたいわね」

今は夏から秋に変わろうとしている時期。まだ夏の暑さが残る日々なので窓を開けているが、身体全体で外の空気を感じるのは久しぶりになる。

体力の回復は順調だと言われている。怪我の方も傷は塞がっているが、まだ痛みがある。痛み止めで誤魔化しているが、無理をすることはできない。

「歩いていくのはまだ無理なので、車いすで行きましょう」

足の怪我を考慮してゲイルが用意してくれた車いすは、ずっと使われていなかったため随分と古い物だった。だが、まだ使うことは可能だ。

滅多に使われないので新しい物を買い替えることはしなかったのだろう。

「それとも、誰かに頼んで抱きかかえてもらうこともできますよ」

冗談のつもりで言っているのはわかった。

だが抱えてもらうことを想像したとき、屈強な騎士がライラに触れることを思い浮かべて体が硬直してしまった。

胸の奥がざわめく。

「車いすにするわ」

声が震えないように喉に力を込めて返事をする。少し低い声になってしまったが、アンナは気にならなかったのかすぐに部屋の隅に置かれた車いすを押してベッドに横づけてくれた。

ほっとしつつ、昨夜見た夢を思い出していた。

真っ暗な空間に1人取り残されていた。見えない相手が触れてくる手の感触に鳥肌が立ったのが思い出せる。その後の記憶もはっきりと残っているのだ。

何度か深呼吸を繰り返して、心の中で落ち着くように大丈夫だと言い聞かせる。

「お嬢様?」

いつまでもベッドから降りようとしないライラを不審に思ったのかアンナが首を傾げて顔を覗き込んできた。

「体調が悪いようでしたらやめておきましょうか」

「いいえ大丈夫。庭に行きましょう」

気持ちが落ち着いてくるのを感じてベッドから降りた。

車いすに移ると長い髪をひとまとめに括られてつばの大きな麦わら帽子を被せられた。

「まだ日差しの強い時期ですから」

まだ室内ではあるが、麦の香りが鼻について心が落ち着くのがわかった。

「ありがとう」

部屋を出て庭へと出るため廊下を進んでいくと、数人の使用人とすれ違った。

全員がライラの姿を認めて驚いた顔をした後すぐに安心したように穏やかな笑みを見せて軽く頭を下げてくれる。

車いすを押すアンナは立ち止まることなくその前を通過していった。

彼らの表情を見ていると、どれだけ心配させてしまったのか今さらになって実感させられる。

クリスタラーゼで働く使用人は皆ライラに優しい。

前当主となったディック=クリスタラーゼとは血の繋がりのないライラは、ほとんど城にいなかった現当主のルークと義理の姉弟という弱々しい繋がりしかない。それでも敬意を持って接してくれている。

ただの居候のような立場に近いと思っているが、使用人たちは公爵令嬢として扱ってくれているのだ。

感謝の気持ちしかないが、彼らに返してあげられる物をライラは持っていない。それを申し訳なく思ってしまう。

「庭に出たら、少し歩く練習をしましょうね」

気持ちが下がりそうになっていると、アンナが後ろから声をかけてくれた。

「アンナ1人じゃ危ないと思うわ」

リハビリで歩く練習をしているが、その時は必ずアンナとルルナが支えをしてくれて、ゲイルがいる時は歩行の確認もしてくれていた。

「近くの侍女に手伝ってもらいましょう。みんなお嬢様の顔を見ていなかったから心配していたんです。元気な姿を見せられたらきっと喜びますよ」

廊下をすれ違った使用人たちもほっとしたような顔をしていた。

ずっと部屋から出られていなかったことで不安に思っている使用人のいたのだろう。

「随分と心配させてしまったのね」

反省するしかない。

「そうですよ。だから早く歩けるようになって、もっと元気な姿をみんなに見せてあげてください」

アンナの励ましに落ち込みかけた気持ちが浮上する。

「頑張るわ」

「その意気です」

振り向けばアンナの晴れやかな笑顔が見える。それにつられるようにライラも笑みを零した。


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